第53話「柳生新陰流より宗矩が危なかった」

平成三十一年、高校に不審者が出た放課後。

柳生但馬守宗矩は警察に追われていた。

宗矩は袴姿(一般人が想定する柳生家の家紋つきの袴を指す言葉。柳生家の家紋は宗矩が坂崎出羽守の反乱事件を解決した際に坂崎家から譲り受けた)よりもずっとセーラー服姿の方が好きだったが、老剣士がセーラー服姿で女子高生の前に現れれば不審者にしか見えないことに思い至らなかった。かつては幕府の惣目付として大権力を奮った宗矩も現代では警官から必死に逃げる一人の変態に過ぎず、ひとまずとある書店の女子便所の個室で袴に着替え、何食わぬ顔で本棚を物色し始めた。

だがいきなり岩波文庫の棚のとある本が目に飛び込んできて、とにかくすごい衝撃を受けて思わずその本を万引きしてしまった。

柳生宗矩「兵法家伝書」――かつて自分が上様のために著した柳生新陰流の秘伝書中の秘伝書が、なぜか一般書店に定価713円で売られていた。

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