60「特別なクエスト」
『東スト』の編集部でアランと女性記者のケイティは、令嬢事件のメモについて打合わせをしていた。
「名前も家名も変えるとして、まず男女の冒険者が街の屋敷で令嬢の一人を浄化する。更に教会と協力して、森の山荘でもう一人を浄化するか……」
ケイティは書類に目を落としたまま難しい顔をしている。
「はい、ちょっと盛り上がりに欠けますかねえ……」
浄化に使い魔との戦いはない。最後には悪魔との戦いがあるが、相手は強力な使い魔と改変していた。
「森の奥から使い魔がやって来て戦うのね……」
「そうです。壮絶な戦いでした」
アランは力込めて言うが、ケイティの記者魂にはいまひとつ響かないようである。これはまずいとアランは思った。
「そうなの? 一撃で倒したみたいだけど」
冒険者が強いのは読者も喜ぶのだが、あまりあっさり勝っても物足りないのかもしれない。しかしアランは神の力で、
「悪魔の誘惑は内面からです。その冒険者は、心の中で戦い苦戦したと言っていました」
「うん、そこに視点を当てましょうか。私たちだっていつ悪魔に誘惑されるか分からないしね」
アランは悪魔の誘惑について話す。誰それが王都に反逆するとか、あの人は影で悪事を働いているとか、周囲の人間たちがあなたを馬鹿にしている、いつも笑っているなど疑念を抱かせ、猜疑心をかき立てようと、あの手この手の作り話をすると説明した。
「悪魔の誘惑ってえげつないのねえ……」
「はい、戦いは力だけじゃないんです。その使い魔は知略の悪魔王の配下で、特にそっちが得意みたいでした」
相手はモロ悪魔だったのだが、一般公開はここまでなのだ。
「すごいわ。そこまで分かるなんて冒険者は凄いわね」
「強い人がいましたから」
アランはフェリアンの顔を思い出す。全てフェリアンのおかげである。
「おっ、やっているね」
編集長のランドルが帰社し、こちらに気が付くなりやって来た。
「いかがでしたか?」
「うむ、まだ先だがギルドは
ランドルは打ち合せで冒険者ギルドに行っていたようだ。
「アランの出番ね」
「うむ。しっかり取材してくれたまえ。教会とギルド、そして貴族が協力して一気に吸血を殲滅するのだよ」
「僕でいいんですか?」
もちろんここは自分の出番かと思いつつ、見習いなので一応謙遜などをしてみる。
「もちろんさ。そのネタも良いいねえ。ケイティ、ぜひ記事にしてくれ。教会も積極的に吸血の脅威を広報したいらしい」
「任せて下さい」
「うむ。アラン君もたのむぞ。その件は特別報酬がでるから」
「はいっ!」
ネタ五百G、記事で千Gの稼ぎになった。そして次は
「それから――」
帰ろうとしたアランを、ランドルは呼び止めるように言った。
「――可憐なる魔法少女は元気かな?」
「それはまあ……」
「彼女のネタもそろそろ欲しいねえ。期待しているよ」
「はあ……」
編集長お気に入りのネタである。アリーナ記事の評判は、確かに良かったようだ。しかし次から次へとネタが湧く訳ではない。
アランは急にアリーナに会いたくなってしまった。
◆
アランはさっそく予備取材に動く。
コーディーたち行き付けの酒場を訪ねると、いつもの席で三人は食事をしていた。普段は自宅で食事するアリーナも、時々は夕食に付き合っている。仲間との意思疎通は戦いと同じで重要、は祖母の教えでもある。
「どうも、調子はどうですか?」
「おっ、アランか、普通だな。まあ、座れよ」
「はい」
「そっちこそ調子はどうなの?」
「そうそう」
パトリスの質問にアリーナが追随する。アランは椅子を引いて腰掛ける。
「編集長から
「さすが、耳が早いな」
「私たちも、さっき打診されたわ。参加してくれってね」
「それで早速取材? アランって本当に記者みたいよ」
コーディー、パトリス、アリーナ共に知っているなら話が早い。ギルドも動きが早かった。
「いやあ、見習いには荷が重そうで……」
とアランはここでも謙遜してみせる。ウエートレスを呼んで、料理と飲み物を注文した。
「私たちは、もちろん参加よ」
「相手は吸血だ。森の奥深くに進行して調査と討伐をする」
「探査のスキルで、かなり大形の使い魔が見つかっているのよ。そいつを追うのね」
「なるほど……」
だいたい概要が見えてきた。アリーナは張り切っているふうだ。コーディーとパトリスはさすがに冷静である。
これから参加パーティーを確定させ、持場別に編成する。マークスのパーティーも当然参加するはずだ。どの日にどこを取材するかが重要である。
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