43「新たな任務」

 城壁を出てからフェリアンと分かれ、アランはギルドを訪ねた。そしてカウンターでセルウィンズ卿からのレターを受け取る。仕事があるから明日早急に訪ねられよ、と書いてあった。


 市場に行き安い夕食を済ませて部屋に帰る。


 疲れた、今日は色々なことがあったと、アランはベッドに横になる。吸血がこれほど周囲に影響を与えているとは思わなかった。浄化の仕事はこんなにも大変なのだ。


 別れ際にフェリアンが言っていたが、オーフィに掛けられていた半感染は、特に周囲を巻き込む性質があったらしい。それ・・にアランもあてられてしまったのだ。


 アランは今回、吸血の使徒の浄化を初めて見た。使い魔相手に剣を振るうのとは、ずいぶん違う仕事だ。


 そんなことを考えていると、部屋中が振動を始める。


「鳩じゃないのか……」


 天使と対面の合図だった。


 起き上がり、いつものような天地が逆さまの世界へ足を踏み入れる。そして世界は回転し、いつものようにアランはソファーのアレスと対峙した。


「鳩は止めたんだ」

「もう疲れたわよー、ずいぶんと飛び回ったわー」


 いつものようにソファーもたれかかり、けだるそうに言う。


「何か見つかったの?」

「あなたが以前、門前払いを食らった森の山荘よ。あそこには悪魔がいるわね。早く退治して」

「うん、そんな流れになってきたよ」

「ちょっと下界の人間関係を円滑にしたのよ。それでアランに話が行くようにしたの。人間ってめんどくさいわー。貴族だから、教会だからって互いに頼み事が出来ないなんてねー。バカみたい」


 アランにも事情が見えてきた。領主である貴族と、人心を掌握している教会はこの街の二大勢力だ。必ずしも関係が上手くいっている人ばかりではない。そうでない権力者もいるのだろう。


 冒険者ギルドは両者に挟まれ、上手く立ち回っている組織だった。


 追放、クビになったとはいえ、『華麗なる三令嬢』には世話になっている。アランがやらなければならない仕事だ。


 オーフィは助け出したし、次はランシリの番だ。もう一人の令嬢、ジェライは無事のようだが。


「僕は吸血の浄化は専門外だよ」

「いいえ、あなたの出番なのよっ!」

「そっ、そう?」


 アレスは力強く言う。何が出番なのか、アランはすぐには事態を察せなかった。


「悪魔の対処はあなたの仕事。だから出番なのよ」

「うん……」


 やはりあの・・山荘にいるのは悪魔なのだ。


   ◆


 翌朝目覚めて窓から外を見ると、今日の天気は予想通りの弱い雨となっていた。


 冒険者たちのほとんどは、足場が悪いなどの理由でクエストは中止とするが、アランはこんな天候でも商売は欠かさない。


 新聞の日でなかったのはついている。雨の中、濡らさずに売るのは骨が折れるからだ。


 リンゴの仕入れは十五個といつもより減らすが、こんな日でも買ってくれる常連さんがいるのだ。


 そんな人たちの為、アランはカッパを着ていつものように立つ。場所は少し離れた倉庫の軒下だ。


「リンゴはいかがですか~!」


 雨なのに感心だ、ご苦労さん、などと常連たちは声を掛けてリンゴを買い求めてくれる。


 同じようにカッパを羽織り、無言で職場へと向かう労働者の群。アランはこの一瞬だけでも彼らと仲間になれたように思い少し誇らしく感じた。


 貴重な利益、百五十ジーを握りしめて、アランはエルドレッド・シー・セルウィンズ卿の屋敷へと向かった。



 いつものように裏口から屋敷に入る。ここのすぐは使用人たちの休憩所になっていた。出入り業者がやって来ても誰かしらが対応できる。


 アランはカッパを脱いで掲示板を見た。今日のアランに依頼する内容のメモが張られているのだ。


「アランは卿の部屋に直行――か……」


 メモを外してアランは二階へと上がった。いつもの冒険者の服なのだが一応、襟を正して部屋をノックする。返事がありアランは中へと入った。


「ああ、来ましたか。昨日は御苦労でしたね。話が早くなる」

「いえ、こちらからもお話が……」


 二人はソファーに座った。まずはアランから先に『華麗なる三令嬢』の山荘を訪ねた時の話をする。


「ますます話が早くなる。要はフェリアンとその山荘に行って仕事をして欲しいのですよ。報酬はお支払いします。教会からの依頼なのでね」

「はい、ありがとうございます」


 アレスからも言われているのだから、アランの出番はやはり・・・あるのだろう。


「あの三家は私兵の力でことを処理しようとしたのですがね。上手くいかなかったのですが、そこに教会が首を突っ込んでき来たのですよ。それでも上手くいかなかったので、三家は怒っていましてね。話がこじれてしまった……」

「? 教会が上手くいかなかった――、そうなんですか?」


 それおかしいとアランは思った。中央教会まで出てきたのに、吸血を浄化できないなどありえない。


 その悪魔の影響なのか? 話は複雑だとアランは思う。教会とて冒険者と同じ力を持つ教会兵がいる。


「そうです。だから我々がやるのですよ。しかし教会の力は必用だ。戦力と人間関係の為にね。マザークラリスンに頼みました。シスターを派遣してくれるそうです」


 シスターソニアがいれば教会の助力もあったことになる。ソニアの浄化は強力だ。


「それにアランの秘密も漏れない。明日はフェリアンと二人で向かって下さい。シスターは先発しています」

「はい、分かりました」

「話は以上です」


 アランは立ち上がり、退出しようとして思いだした。


「あの~~、今日の仕事は……」


 さすがにこの天気で庭仕事はないだろうが、働かなければお金をもらう訳にはいかない。


「そうでした。書架を増やしたのですよ。倉庫の本を移して整理したいのです。執事に聞いてから、図書室にフェリアンがいるので彼女の指示に従って下さい」

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