21「教会の協力者」

「ちょっ、ちょっと待って下さい――」


 ヴィクター神父が慌ててこちらにやって来る。


「――取材はこちらを通してもらわないと……」

「あら、幼馴染み同士が街で偶然に会って、近況を話す程度よ。私はその場にたまたま居合わせただけ」

「参ったなあ――。ケイティ、少しはこちらの立場も考えてくれよ」

「相変わらず堅いのねえ、迷惑は掛けないわよ」

「そうもいかないよ。勘弁してくれって……」


 二人はいきなりくだけた口調で話し始める。先ほどのピリピリした感じとは別人同士のようだ。


 アランはきょとんとしてその様子を見た。


「実は私たちも幼馴染みなのよ。ほら、ここは教会の敷地の外でしょ」


 改めて見るとこの場所は門から少しばかり通りに出ていた。


「仕事とプライベートは分けようって二人で決めているのよ」


 ソニアはそんな話を聞いてクスリと笑った。


「あなたは――、聖女……なのですか?」

「はい、シスターソニアと申します。マザークラリスンの元で御奉仕させて頂いております」


 ソニアの若さで聖女の称号を持つシスターは珍しい。


「ほう……、聖母クラリスンの――」


 ヴィクター神父は感心する表情になった。


「神父様。教会の御意向は心得ておりますわ」

「分かりました。ケイティ、世間話だよ。絶対にそこまでにしておいてくれ」


 ヴィクター神父はソニアに頷いた後、今度はケイティに向き直って言った。


「あなたの立場は分かっているわよ。大丈夫」


 ケイティは勝ち誇ったような表情だ。さきほどとは立場が逆転した感がある。


「広報としての立場がないよなあ~、まったく……」


   ◆


 ケイティは二人を近くの喫茶店に誘った。お茶とケーキを三人分注文する。


「ここは会社の経費で御馳走させてもらうわ」


 ソニアにどんな取材をするのかアランは心配だったが、意外にもケイティは教会での日常などを色々と質問した。


 そして最後に郊外での吸血感染について聞く。


「私も浄化などさせて頂いております。ただそれはいつものことで、最近はちょっと数が多いだけですわ」

「そうねえ……、あれ・・は周期的に数が増えたり減ったりするから、最近が特別とは言えないわね。だけど気になるわ……」

「なぜですか?」


 アランはケイティの勘がどこからくるのか知りたかった。当たっているからだ。


「あの人ったら嘘をつく時は、妙に自信だっぷりに話すのよねー。問題はどこが嘘なのか、なのよ……」

「なるほど、バレバレなんですか……」

「うふふっ……」

「! どうしたの?」


 ソニアがアランの隣で含み笑いする。


「アランは仕事がない時は大丈夫、って言うし、上手くいっている時は普通、って言うのよね。いつもマザークラリスンと話して笑っているわ」

「そっ、そう? そうかなあ……?」


 どうやらアランの嘘もバレバレだったようだ。恐るべきは女性の観察眼だ。


「ところで、どこまで記事にするんですか?」


 アランは話題を変える。


「うん、吸血の使い魔が増えていて、アラン君が吸血野犬ブラッディドッグを倒して、郊外の吸血感染は教会が――、いえ、ここは若きシスターたちが活躍している、としたいわね。そして街の皆さんは使い魔に注意する。それが自分たちに出来る戦いだ、としましょうか。これならば一本の記事になるわ」

「なるほど……」


 アランの戦いを始まりとして物語として完結している。それにこれならば教会広報の意向にもそっている。


「ヴィクターの嘘には気が付かなかったことにしましょう。いずれ何か分かるだろうしね。彼も色々と大変なのよねー。ここは教会の広報に協力しましょうか」


 どうやら二人はずいぶんと近しい関係のようだ。


「それにしてもソニアさんはその歳で聖女なんてスゴいわ。アラン君の回りの女性はエリートぞろいね」


 そして、どうせ自分は役立たずだとアランは自虐した。

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