218話 アイテムとの戦い⑥

 フィールドの端まで到達した空気砲は壁にぶち当たりフィールドに亀裂を入れる。空気砲の通ってきた道にはチリ一つ残っておらず全てが破壊されており、通ってきた道だけでなく空気摩擦で近くは焼け焦げさらにその先は燃え上がり広がっていた。


「まさか!もう非難してたとは!こりゃ一本取られたよさすがだぁあ!!」

「そんなに、興奮することじゃねぇだろ」


 アキトはウタゲが近くで隠れていた事をハイドゲンの座標の上空へ転送された際に分かっていたので重力魔法<重力剣/グラヴィティソード>を投げ自分の存在をアピールした。そこで、ウタゲは自分の出来る事を自覚し、動き出したのだ。

 これはアキトによる一種の賭けだった、もしウタゲの救出が遅れればさっきの空気砲が直撃していたので今頃どうなっていたか分からなかった。


 ハイドゲンは、自分の期待以上の事をしてくれて嬉しいのかその興奮度が過去最高を更新する。


「お前、名前教えろ!!特別に覚えてやる!!」

「特別にだと、ふざけやがって……まあいい、俺はアキトだ覚えておけよハイドゲン」

「アキトか、ああ!いいなぁアキト!俺の器となれ、さあ!!」


 再びハイドゲンの竜は天を仰ぎ再び空気砲の準備に入る。


「さぁあっ!!!」


 先ほどと同じように、ハイドゲンはアキトに接近戦を仕掛ける。

 戦うたびにハイドゲンは攻撃パターンが変わるので、アキトとしても毎回別人を相手するみたいで感触としては気持ち悪かった。


 ハイドゲンは飛び込むようにアキトへ突っ込み、右掌を広げアキトの顔面めがけ掌底を放つ。

 アキトはそれに左腕を合わせ弾くように回避するが、圧縮された空気を纏ったその掌の攻撃範囲は思いの外広く、避けたはずなのにアキトの顔には傷がついていた。


「はぁああっ!!」


 そのまま前にスライドするよう移動しながら重心を低くし左掌を広げ掌底を下からすくい上げるようにハイドゲンの胸部へ叩き込む。

 それと同時に、重力属性スキル<重力圧縮波/グラヴィティウェブ>を乗せ威力を上げる。

 衝撃で、ハイドゲンは後方へ吹き飛ばされるがやはりただの固有属性では衝撃で吹き飛ばすのが限界だった。


 勿論、ハイドゲンは無傷で一切のダメージはない。


「おいおい!こんなもんかよ!!」


 ハイドゲンは手を前に出すと真っ赤な一本の槍をどこからともなく生成する。


「確かに……せっかく先生に動いてもらったんだ。その期待には答えないとな」

「ほらっ!!早くしないと!!」


 真っ赤な槍を強く握りしめ、ハイドゲンはアキト目掛け思いっきり投げ飛ばす。それと同時にハイドゲンは自分も最速でアキトの元へ接近する。


「死ぬぞ?!!」


 アキトへ到達する手前でその槍をハイドゲンは手に掴み、流れるようそのままの勢いで振りかざす。


「……どっちがっ!!」


 重力属性魔法<重力剣/グラヴィティソード>を発動し、重力剣を手にその槍に上手く合わせ受け流し地面へ誘導する。

 振るわれたハイドゲンの槍は地面に突き刺さり、その衝撃で地が裂ける。

 そのまま素早い動作でハイドゲンの肩付近へアキトは重力剣を突き刺す。本来であれば、属性効果もあるが固有属性なので無意味だった。

 だが、奥深くまで刺さった重力剣に対し、重力属性スキル<地に伏す者/グラヴィティグランデ>を発動し、対象物を重力剣と地面に設定する。


「これはっ!!」


 ハイドゲンは地面に吸い寄せられるように叩きつけられる。その勢いで全身を打ち付けたハイドゲンだったが、受身や立つことも出来なかった。


「お前には確かに属性攻撃は効かないがやりようはある」

「そうかっこれかぁああ!!」


 自分の腹に刺さっている重力の剣が原因だと気づいたハイドゲンだったが、うつ伏せで地面に張り付くように固定されているのでどうすることもできなかった。


「やっぱり最高だな!!こうじゃなきゃ奪いがいがないからなアキト……俺ごとやれっ!!」


 ハイドゲンは首を無理やりアキトの方へ向け笑いながら叫ぶ。

 すると、辺りの空気が一段と重たくなり、アキトは息がつまるような感覚に陥る。

 すぐにアキトはハイドゲンの作り出した竜の方へ視線を送るともう既に空気砲を準備し終えており、発する寸前だった。


「タイミングは正解だな……」


 そこへ、アキトはアイテムボックスから剣を取り出し、重力属性を乗せ思いっきり投げ飛ばす。

 口を開け空気砲を吐き出す直前にアキトの投げた剣が顎の下辺りから突き刺さり、剣が口を串刺しにし竜は口を開けられなくなる。

 行き場の無くなった空気砲は破裂するように竜の口の中で暴発し、行き場の無くなった衝撃は竜の口から首へ到達し、そのまま首が吹き飛び竜は絶命するように消滅する。


「隙だらけだぞアキトぉおお!!!ーーっ!!!!」


 ハイドゲンは体に刺さっている重力剣の部分だけを無理やり引きちぎり、アキトの背後を取り両手を突き出し、超太古級アイテム=臨界<透水空爆砲/ハイドロ>を発動する。

 両手に一瞬で集まった圧縮された空気が薄く青く光り、一つの弾としてアキトへ向けて飛ばす。


 反応が遅れたのと同時に、超高速の至近距離で放たれたので避ける事も出来ずアキトはそのまま何もせずただ向かってくる空気の弾を見ているだけだった。

 爆発するように辺りにあるもの全てを巻き込んでくるのでその範囲も広いのでただの空気の弾とはいかない。


 そのままアキトへ超太古級アイテム=臨界<透水空爆砲/ハイドロ>が飛来し、とてつもない爆風が舞い上がり、ハイドゲンもろとも巻き込むほどの威力を誇っており、抉れた地面から出た砂が砂嵐を形成し周囲を破壊し尽くす。

 竜の空気砲が直線的な遠距離攻撃だとすれば、ハイドゲンの放った空気砲は円状の短距離攻撃……そんなものを間近で撃たれればひとたまりもない事など容易に想像出来る。


**


「……危なかったな」

「そうでございますね、マスター!」

「まじかよ、これをも弾くかアキトっ!!!」


 二人の視界が綺麗になると、無傷で立っているアキトへの驚きもあったがハイドゲンはアキトの前に立つ一人の女性の方がもっと気になっていた。

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