215話 アイテムとの戦い③

 オーパーツアイテムは全部で十一種類あり、人や魔物など様々な場所に封印されてきた。

 他にも古い遺跡や、海の底、その場所は様々。

 オーパーツアイテムは一つ一つが協力で、アイテムなのに意思を持つ。その意思は強大で、時には大国をほんの数日で滅ぼすことも歴史上何度もあったことだ。

 それゆえ、戦争の道具として使われ、各国オーパーツアイテムの保持は欠かせないものとなり、裸の状態では保持さえ出来ないのでこうやって人に封印したり魔物、場所に封印し、取り扱っている。

 そして、オーパーツアイテムは封印された宿主によって姿形を変化させる。人間なら人間らしく、魔物なら魔物と……


 今、ユイの前にいるハイドゲンはとても人間らしく、構えもゲルトのものが染み付いているのか鍛錬された武人と思えるほどに洗礼されていた。

 ユイは、息を整えながら狙いをハイドゲンに定める。

 ゆっくりやっているつもりだったが、ハイドゲンは全く動く様子がなくただ集中してユイを見ているだけだった。


 それを不思議に思ったり、攻撃動作中に何かされるのではという不信感などあったがユイは全て雑音として押し殺す。

 矢を引き始めるとジリジリと天恵が集まり始め、風が強く吹き始める。


「ーーふっ!!」


 ユイは弓の弦が持つ耐久値ギリギリまで引き、威力を考えなしに大きくする。

 その瞬間、一気に吹き荒れる風が大きくなり、矢も深い緑色に光輝き、衝撃の強さから弓を持つ付近の空気が振動し風音とは別に矢自体から異音が生じる程にまで高まる。


「時代級自然属性魔法<威風凛然/ベルセルビー>」


 ユイが放てる最高最大の矢を放つ。

 手を離すと矢は爆発するように緑色の光に包まれ、矢が光の分大きくなる。先端は強く鋭くなり、円状に波動をなびかせながらハイドゲンへ向かっていく。

 とてつもない速さのユイの矢……この魔法は分裂したり、追尾したりと何か特殊な能力があるというよりかは、最高威力で最高速、ただまっすぐ伸びる一本の矢というとてもシンプルなものだった。


「いいなぁ……それっ!!」


 ハイドゲンは、片手を突き出しユイの矢の進行方向から正面になるよう受け止める。

 だが、ユイの矢はそんな防御程度で収まるはずもなく案の定ハイドゲンの腕から肩、さらには上半身の半分をも巻き込む威力で肉を抉り飛ばす。そして、ユイの矢は彼方へ消えていく。


「はぁ……はぁ……」


 天恵をかなり使ったのでユイも流石に息が上がってしまう。


「うんっ!!実に良い攻撃だったな、今のは!!」


 ハイドゲンの体はもう修復を始めており、ユイの攻撃は何のダメージも入っていないような態度でさっきと何なら変わらず喋っていた。


「天恵が多いってことはそれだけ自然治癒力も高い……そんな事は分かってる!!」

「ん?」


 突如、ユイの矢が作った傷からとてつもない高圧力の突風が吹き荒れる。治りかけていた傷跡をさらに抉り飛ばしとうとう首へ到達し、首元あたりも全て巻き込み再び肉をえぐる。

 上半身の半分以上を無くしさらに頭も地面に落ちる。

 その落ちた時の音は何とも軽いもので、中に何も詰まっていないのではないかと思うほどだった。


「これならっ!!」


 ユイはこのチャンスを勝機に変えるべく、再び矢を生成し追撃加えようと弓を構えるが矢を引こうにも体が震えて力が入らなかった。


「ーーぐふぇうっ!!」

「ユイちゃんっ!!」


 突如、胃液が逆流し口元まで押し寄せてきたユイは膝を付きながら我慢できずそれを吐き出してしまう。

 ユイは自分の体をよく見ると体の全面が傷だらけになっており、誰かに殴られたような痣や打撲痕まで複数箇所に及ぶほどあった。


「何……これ……」

「気づかなかったのか?俺の攻撃」


 ゆっくりと頭を上げたユイの視界には全てを修復したハイドゲンが立っていた。


「うぐっ!」

「やめといたほうがいい、今動くと後々響く」


 少し目を細めハイドゲンはユイに警告する。


「……何をした」

「お前に向けた掌は、防御するために矢に向けたわけじゃなくお前を狙らった攻撃……簡単な空気圧縮砲だ。誰でも出来るだろ?」

「くっ!!」


 ユイは強くハイドゲンの方を睨むがもう腕は言うことを聞かず、さらには立てなくなっていた。


「全く、人間ってのは弱点が多すぎるんだよ。だからつまらんのだっ!!」

「あがっあああああ!!!」


 ハイドゲンはユイへ近づくと動けないユイに向けさっき放ったものとほぼ同じものを超至近距離で放つ。

 ユイは直撃するが、当たった瞬間に痛みが来るのではなく一定時間が経ってようやく痛覚に刺激が伝わる。何の音もせず、何のブレもない、とても静かな空気圧縮砲だった。


「これが俺とお前との差だ。お前の体は俺の攻撃を受けても正常に判断も出来ず、壊れたように遅れて痛みが脳に伝わる」

「くっそ……」

「ユイちゃんっ!!逃げてっ!!」


 エーフは必死に叫ぶ事しか出来なかった。この辺りにはエーフが発動した罠狩人属性によるトラップが張り巡らされているがさっきからハイドゲンに一切反応せず、発動しないのだ。

 そう、エーフの属性は生物にしか反応せず、アイテムには反応しないのだ。勿論、エーフ次第では発動条件をアイテム、生物で選べるようにはなるが、アイテムで選ぶなど想定しておらず一切それに向けて特訓してこなかった。


「何でっ!!」


 エーフは涙を流しながら思いっきり自分の拳を地面にぶつけ、ユイの行方を見守ることしか出来ない弱い自分が許せなくて仕方がなかった。


「ユ……イ、ぐぅっ!!」


 シロネは朦朧としながらも、影属性スキル<影転送/シャドウワープ>で自分の元へワープさせる。本当ならもっと遠くに逃したかったが、痛みで遠くまで定める事すらも出来なかった。

 さらに、ユイの意識はなく身体中傷だらけで内臓などもひどく傷ついており相当な重症だった。


「ユイちゃんっ!シロネちゃんっ!!」

「はぁ……これだから人間は、肩慣らしにもならんな……さて、」


 ハイドゲンはゆっくりと三人の元へ近づく。


「ユイと言ったな、良い器だ。これまで殺してきた人間の中でも上位に位置するぞ!俺が有効活用してやる」

「ふざけないでっ!!」


 ハイドゲンの言葉を聞いてエーフの体は勝手に動いており、二人の前に立ちハイドゲンの進行を邪魔する。

 だが、


「お前は、この中で一番弱い。俺は弱い物に興味ないんだよ」


 エーフは反応すら出来ずにハイドゲンの拳で腹を貫かれる。


「ぐふっ」


 エーフの口と腹から大量に血が滴り、痛みで一瞬意識がどこかへ吹き飛んでいく。

 だが、エーフその手を振りほどかまいと手を震わせハイドゲンの腕を掴む。


「ほぉう……」

「に……が……さない」


 ギっとハイドゲンをエーフを睨みつけながら二人に手を出させまいと必死に腕を掴む。


「弱き物の悪あがきほど見るに耐えん」


 ハイドゲンはエーフの腹を貫通させている方の腕を反対の手を手刀として使い切り落とす。


「そん……な……」


 それを見て糸が切れたように気絶したエーフの首を掴み、シロネ達の方へ放り投げる。


「また、抵抗されても面倒臭い。一旦殺すか……器は死んでても使えるしな」


 ハイドゲンは、三人に向け手をかざしとてつもない量の空気を圧縮し、目に見えなかった空気が目に見えるまで濃縮させる。


「安らかに眠れ、人間」


 そのまま三人に向け空気の球を無慈悲に放つのだった。

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