204話 深部
ダンジョン最深部ーー
ちょうど、ハルとリゼラが戦闘している時、アキトとハヤトはダンジョン最後の扉の前まで来ていた。
その扉はこれまでのとは比較にならないほど豪華絢爛で、大きく、とてつもない威圧感を放っており、最後と言わんばかりの佇まいだった。
アキトとハヤトはやっと終わりかぁと感嘆を漏らす。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
「不吉な事言わんでくれ……」
ハヤトは嬉しそうに言うが、ここまでも様々な魔物に阻まれて来て、一体一体そこまで大したことはないが数が多かったのでアキトは変な疲労感が溜まっていた。
「冗談冗談」
「あのねぇ……」
喋りながら二人で扉に手をつき一緒のタイミングで押し始める。豪華絢爛な見た目で重厚な音を出している割に少しの力で扉は簡単に開き、作り込みに少しがっかりする。
中は、広大な空間になっていて、真ん中を横切るように一本の川が流れていて、少し暗みのかかった草原という作りだった。
その川の向かい側には、一人見覚えのある人間が立ってる。
「ムルド・ラクシー……」
「へぇ!僕の事、覚えててくれたんだ」
あっけらかんと言い、ムルドは笑いながらもアキトとハヤト二人の警戒を怠らない。
「そりゃ、こんなダンジョンに閉じ込めた張本人だからな」
「ま、僕の方ももう計画自体崩れちゃったからもうどうでもいいんだけどね……」
「なら、出してくれてもいいんだがな」
「いやーやっぱりやられた分はやり返しておきたいじゃないか」
ムルドはダンジョンから出す気は一切無かった。
それを確認した、アキトとハヤトは同人に一歩前に出る。
「二対一かーきついな流石に……」
ムルドもズ・バイト学園の副会長に位置はしているが、特段戦闘能力に長けている訳ではない。
二対一では、絶対にムルドに勝機は無かった。
「君は僕たちをここまで来させてはいけなかったんだ、ここは最深部であって最深部でない……」
「確かに、ここまで二人が残るとは思ってなかったが、だからと言って対策を考えていない訳でもないさ!」
ムルドは、目線をハヤトに向けると何かを察知したハヤトはムルドの方へ全力で走り出す。
「くそっ!そう言うことか!」
「おい!ハヤト一人で行くな」
アキトは、ハヤトが何を察知したのか理解出来ず、動きについていけなかった。
「残念だが、君たちがこの部屋に入った時点で僕の目的は完了しているんだよ」
そう言って、ハヤトが迫る前にムルドは軽快に指を鳴らす。
その甲高い音と共に、ハヤトの体は光始め、真っ白な光と共にこのダンジョンから消え去った。
「ど、どう言うことだ……」
「まあ、簡単な事さ、君達の片方を本来のフィールドに戻した……ただそれだけのこと」
何か、ムルドはハヤトに攻撃したとか、ダンジョンにある罠を使った訳でもない。このダンジョンから外に出したというただそれだけのこと……最初このダンジョンの入り口前に転送した事と逆の事をしただけで、ムルドは特に新しい事をした訳ではない。
「一対一なら勝てると……」
「そう言う事さ。まあ勝てると言うよりかは勝率を上げたってことかな」
そうムルドは言うと、ゆっくりとアキトから遠ざかる。
「お前の属性上、距離は関係ないか……」
「……そう言う事、僕の属性の事は大体想像ついているだろうからね。それじゃ、始めよう!」
ムルドは指をもう二度鳴らす。
「嘘だろあれ……」
突如、何も無かったアキトの頭上から巨大な岩が出現し、落下し始める。
それにいち早く気づいたアキトは、右腕を天に掲げるように突き出し、重力属性スキル<加重力拳/アドグラビティナックル>を発動し、岩を串刺しにするように砕く。
「流石、ここまで来ただけある」
「あんがとよ!」
アキトは、砕かれて落ちた岩の破片を拾い、思いっきりムルドに向かって投げ飛ばす。
その向かってくる岩に向かってムルドは手を向ける。
そして、ムルドの手に岩が当たるほんの数コンマ前にアキトは超重力属性スキル<重力精密操作/グラビティ・プリセージョン>によって、岩の重さを上げ、さらにその軌道と威力を保つように調節し、投石でも何もしなければ即死レベルのものとなる。
何も知らないムルドの手に岩が触れ、衝撃で指先が折れ曲がりそのまま骨まで砕けるが、そこで岩は消滅してしまう。
「僕への攻撃は無意味ですよ」
アキトは、そのムルドの違和感から次の攻撃を予測する。
ムルドはアキト達の転送先をいじり、このダンジョンまで連れて来た、しかも何人も同時に。
それほどの属性を使うのであればどのような物でも転送可能だとみてまず間違いない。そして、今、アキトの投げた岩が消えた事で岩がどこかへ転送されたとアキトは考える。
あとは、どこから来ても魔法かスキルではじきかえすだけだった……だが……
「ーーうぐぅッ!!!」
突如、アキトの腹に強烈な痛みが襲い、何事だと自分の腹部を見るとそこにはさっきアキトがムルドへ投げた岩があったのだ。重い鈍器で思いっきり殴られたような痛みと共に、胃液が逆流し、傷ついた内臓の血と共に口外へ吐き出される。
転送されるとは分かってはいたが、ゼロ距離での転送はアキトは考えていなかった。
そのせいで防御が遅れ、ただほぼノーガードでのダメージを負ってしまう。
「どうだい、僕でも勝てそうだろう?」
「まさか……開会式前……」
そもそもダンジョンに送られたのが開会式前のムルドに会った人、しかも’握手した’人だった。
ムルドはそこで転送に必要なマーキングを付け、それを基準にして転送先を変えたのだ。
その事自体は何となく感づいていたはいたが、ここでさらに真目が増した。
「おー流石に気づかれちゃったかー!そうだよ、僕の属性は転送したい対象に触れないと発動する事ができない。だから、もし君が僕に触れられてなかったら今の攻撃もゼロ距離とはならないから恐らく君の瞬発力なら防がれてたかもねぇー!」
嬉しそうにムルドは自分の属性のネタバラシをしてしまう。
ムルドにとっては知られたところであまり関係はないので、逆に疑ってもらい疑心暗鬼になってもらったほうが好都合。
「あーまた、頭の痛くなる戦いだよ……くそっ!」
アキトは先に離脱したハヤトに向け羨ましさ半分と妬み半分の感情が湧き出てくる。
その瞬間ーー
ダンジョン内にもゲルトの叫び声が響き渡る。
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