192話 分かち合い
「そうか知らないのか……」
リゼラは、少し驚くようにアギトの方を見る。
するとアギトはばつが悪そうな表情をし、顔を逸らす。
「ど、どういう事だ」
「去年の事をバルトくんはどう聞いている」
「バカ兄貴が何も抵抗せず最後やられたって」
「……そういう事か」
リゼラは、知らないバルトへ事の詳細を話す。去年、ルイン魔導学園は他の学園との同盟を無視し、最初にレイ・クラウド学園に向かって行った。
だが、アギトはその際にリゼラから他の学園のサポートにつくよう言われていたのでルイン学園が全滅しているとは知らなかった。
そして、ルイン学園がやられ、さらにシャーロットに他の学園がやられている時に一人アギトはレイ・クラウド学園に対抗しようと単身戦いに向かって行ったが、今後ろから歩いて向かってきているリアルにやられたのだ。
アギトの属性上一人ではなすすべくやられ、さらに、アギトがやられたのが最後の学園だったので大々的にうつされその印象が強く残ってしまったのだった。
「じゃあ……」
「ああ、そうだアギトは最後まで抵抗した男と言えよう」
「それじゃあっ!何故兄貴を使ったんだ……サポートしか出来ないのに生徒執行会にいる理由が分かんねぇ!」
バルトはまっすぐリゼラを見て言うが、リゼラは少し目を細める。
「バルトくん、君はアギトをただのサポート役だと思っているんじゃないか?」
「そうだ、父さんから兄貴の属性による魔法やスキル、サポート系のものまで全てが弱まってるって聞いてんだ」
「リゼちゃん……もういい、恥ずかしすぎんだよ!」
アギトはリゼラから次の言葉が出ないよう無理やり遮る。
「そうか、なら俺は行く。そっちは任せたぞ」
リゼラはぽんっとアギトの肩を軽く叩くとハルの方へ行ってしまう。
「な、なんだよ!!兄貴!!」
「あぁ……何て言うかなー!……」
アギトは髪の毛をかき殴りながら、目を鋭くする。
「あー……俺は火属性を捨てたんだ……いや、それすらも違うな、正確には八つある属性という物を全て捨てて、固有属性を自然属性そのものを使って生み出した俺だけの固有属性だ」
これはユイの属性に似ているが、アギトのはまた少し違う。 属性の根本にある自然属性から自分に合った天恵を取り出し自分流にアレンジしたものなので厳密に言えば自然属性ではない。ユイの場合は自然属性そのものを使っているのでここに差がある。
OOPARTSオンラインでも自然属性からさらに枝分かれするように固有属性が増えるというのは後半になってからだったので上位ユーザーが使う事が殆ど無く、スポットを浴びなかった属性だった。
だが、その分コアなユーザーが密かに使っており、その強さは日の目こそ浴びなかったが、折り紙付きだった。
「おいおいおい!!話は終わりかー兄弟さんよぉ!!」
リアルは、待ちくたびれたようにアギトの方へ声をかける。
「そう言うこった、バルトどうする?」
「兄貴……俺……」
「謝んじゃねぇぞバルト、俺はそう言うのは嫌いなんだよ」
バルトはこれまで勘違いしていた事も含め謝ろうとするがアギトはそれを許さない。
「たっく……数年見ない内によくもまあそんなに丸くなれるもんだな、バルト!」
「なっ!!」
「それに、俺が抵抗したと言ってもそれは気持ちだけで側から見ればただただ無抵抗にやられてると見えてもしかたねぇ……別に勘違いって訳でもない……それにお前のパンチで目が覚めたぜ!」
「分かったよ!!兄貴……俺は謝らねえ!」
バルトの表情はダンジョン内の時よりも晴れやかになり、何か吹っ切れたようだった。
「いいねぇ……二対一、これで去年見れなかったアギト、お前の属性が見れる」
嬉しそうにリアルは言うが、それはアギトも同じだった。
「バルト、前を任せるぜ。俺がリゼちゃんの元でサポートし続けてきた俺の実力見せてやんよ」
アギトは実際、学園に入った時もう攻撃系の属性魔法やスキルのレベルは鍛えようとも上には行かなかった。
だが、人をサポートするという魔法やスキルの下降は落ち着きを取り戻しており、そこでアギトは新しく固有属性を自然属性から作る時、攻撃や防御を捨て全てサポートに注ぎ込み、さらにリゼラの元でリゼラが納得するまで毎日特訓し続け、サポートの魔法やスキルをかけまくりその精度や強度、練度、速度、適正を全て極め続けた。
「なっ!!」
バルトの肩をポンとリゼラが先ほどやった程度の強さで叩くと、バルトの体が一気に軽くなり天恵の流れが良くなる。さらに、今まで走って来た疲労、傷など全てが消え去る。
「これが俺の固有属性、『助長補短/フルアシスト』じゃボケ!!」
「すっげぇ……」
自分の体の進化をバルトはその身で感じていた。
助長補短属性魔法<治癒力向上/フルリカバリー>によりバルトの自然治癒力の向上させ、助長補短属性魔法<行動制限緩和/フルリカバリー>により、バルトの行動を阻害するような疲労を全て取り除いていた。
今のバルトの体は普段より疲労しにくい数倍の動きやすさと、傷を負っても回復するという最強の体を得ていた。
別にこれはアギトからすれば普通の事で、むしろ基本中の基本まである。
さらに、今回はバルト一人なので全てを集中させる事が出来るので惜しみなく使っている。
だが、この属性はアギトの天恵では乱発する事が出来ないので使い所などが鍵となる。
「しっかしまぁ……これで倒せればいいんだけどな……」
誰にも聞こえない声でアギトは喋る。
そう、二対一でもこのリアル・シルバーを倒せるか分からない……それほど底が知れない奴なのだ。
「待ちくたびれた……行くぜ!!ご兄弟さんよぉおおお!!!!」
リアルは魔導修練祭始まって一番の笑顔で、ギアをさらに上げる。
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