185話 特訓の成果

「二人共どう言うつもりじゃ」


 シャーロットは明らかにトーンを下げ、睨むように二人に言う。

 だが、ピルチとコウザンはそれに怯む事は無かった。


「副会長、済まないが休んでいてくれ、あの二人は俺達がやる」

「コウザンに同意だねぇ!」

「なんじゃと……」


 ピルチとコウザンはエルとトルス二人の動きを見た時感じたのだ、ルイン魔導学園を舐めてかかると後から痛い目に会うのではないかと……

 なので今の最善策は、シャーロットの消費を少なく抑える事。

 今のヴェルダはもう殆ど使い物にはならないので実質二対二、分が悪いという事もない。

 そんな二人の目を見てシャーロットもその目的に気づく。


「はぁ……分かった。今回はお主らに任せよう」


 シャーロットは少し高い場所に離れ座り、両手を後ろに付いて眺めるように休む。


「いやー黒聖で一年って聞けば油断させる事が出来るとは思ってたんだけど……なんで逆にそんな集中力上げられるんですかね?」

「全くだ」


 エルとトルスはわざと自己紹介し少しでも油断を誘おうと思っていたが、意味をなさなかった。


「それだけしっかりした目つき、態度、その他もろもろ侮るわけがなかろう」

「だね!」


 コウザンとピルチ、両者はエルとトルスに対面するように、位置取る。


「さて、エルよどうする」

「ここは協力するよ、エーフがいないからそこは気をつけてね」

「分かっている」


 エルとトルスも二人に対し軽く構える。

 ここからは特に喋らない。エルとトルスの二人はエーフがいない時は特に指示などはしないのだ。

 エーフがいる時はまだ作戦らしい作戦を立てるが、エルとトルス、エーフの三人は昔から仲が良く、いつも遊んでいた。だが、属性が発現してからはエーフが帰った後に一緒に隠れて属性について特訓していたのだ。

 その頃の経験が染み付いているので、無駄な会話はしない。


「お願いします、二人共」


 ヴェルダはエルとトルスの後ろから声をかける。


「はい、ぼちぼち頑張って来ます」

「エル、そこは全力で頑張る所だぞ」

「そう……ですか」


 エルとトルスは呑気にいつも通りおどけてみせる。だが、今回は明らかに心配そうに見守るヴェルダの緊張を解く為でもあったが、失敗してしまう。


「早くやろーよー!!」

「なら、お前から仕掛ければいいだろう」


 ピルチは、子供のようにわめき散らす。

 コウザンは呆れたような態度で、ピルチをなだめようと適当な事を口にする。


「そうだね!そうじゃん!そうしよう!!」


 ピルチはコウザンの言葉を鵜呑みにし、アイテムボックスから短剣を二本取り出し、音もなく歩き出す。


 それが開始の合図かのように、トルスはピルチの元へ走り出し、エルは光源属性スキル<光原の柱/ライトピラー>を上空からピルチとコウザンの辺りを狙い発動する。

 上空から光の柱が狙った範囲を覆い尽くすように降りかかる。


「ほう……」

「へぇ……」


 コウザンは上空を見上げ自分を守るようにドーム状の土属性でガードを固める。

 ピルチは己を毒煙武装属性で武装し、エルからの攻撃を無視してトルスへ向かって行く。


「あっかるいなぁああ!そうだよねトルスくん!!」

「俺は慣れている」


 トルスは自分の腕を岩で固める。

 超属性以上の属性を使えるようになると、それと同時に己の体に自分の属性を纏わせる事が出来るようになる。防御や攻撃、瞬発力などの基礎能力から様々な付与効果が発生し、幅が広がる。今トルスがやっているように部分的にやる事も可能だ。


 ピルチは左に持っていた短剣を投ようとしたが、投げてもトルスの岩を纏った腕に弾かれるだけなのでやめる。


「ふっ!!」

「速いね相変わらず!!」


 トルスは走り込んだまま、腕を引きピルチへ向け振り抜こうとするが構えるだけのフェイントを行い、そのまま右の軸足を回転させ勢いの方向を調整し、ピルチの左側を通って後ろをとる。


「くぅっ!!」


 だが、ピルチはそのフェイントには反応せず、後ろに回ったトルスに対しピルチの背中から毒煙で爪を作り後ろも見ていないのにトルスを上から切りつける。

 いきなり伸びて来た爪に反応仕切れず、トルスは腕全体を岩で固め咄嗟にガードする。

 その衝撃で、トルスは後ろに弾かれる。


「いいフェイントだけどまだまだね!!」

「そしてこちらに来たら詰むぞ君!!超山河襟帯属性魔法<剣山/ブレードマウンテン>」


 トルスが着地した所に無数の剣山がトルスを狙い襲いかかる。だが、トルスはそんな事を一切気にせず、ピルチへ向かって行く。


「超光源属性スキル<蛍光連結弾/ルシフェラーゼ>」


 その剣山を破壊するようにエルから無数の光の弾が飛んで行く。トルスを攻撃しようとする剣山を的確に潰し、トルスを守るように光の弾を漂わせる。


「ほう……やるな、エルくん!」


 コウザンはトルスを狙う剣山を逆算しながら光の弾で全て潰した事にコウザンは素直に賞賛する。


「めっちゃ、頭痛いですけどね!」


 少しずれていたメガネを元に戻しながら、エルは集中力を一定に保つ。


「岩石属性スキル<岩石砲/ロックブラスト>」


 トルスは、三十センチ四方岩を目の前に用意し、右腕を引き腰を下げひねり、大きく振りかぶりその岩に拳を思いっきりぶつける。


「まじ!それは聞いてない!!毒煙属性魔法<煙幕壁/スモークスクリーン>」


 ピルチも察したのか、トルスの拳をぶつけた岩が真っ赤に熱された所を見て即座に防御魔法を展開する。毒煙属性魔法<煙幕壁/スモークスクリーン>は完全に何か魔法やスキルを防御するものではなく、一種の目隠しの役割を果たし、狙いを定めさせない効果を持つ。

 ピルチ周辺に濃い真っ白な煙が出現し、視界が一瞬で悪くなる。

 その瞬間ーー

 トルスの岩石属性スキル<岩石砲/ロックブラスト>は、ピルチへ向け一直線に超高速で飛んで行く。

 空気を切り裂くように高音を奏でながら、風圧で地面をえぐりピルチの煙の壁を軽々突っ切る。


 衝撃で煙を吹き飛ばし、ピルチの姿が露わになる。

 トルスの攻撃で毒煙武装属性で武装していた肩を貫通し、破壊されており、耐えられなかった部分が切り裂かれ軽く出血してしまう。


「固有属性だけでここまでの威力って、どんだけ筋肉バカなのよ!!早すぎて避けきれなかったし!!」


 少し怒りを露わにしながらピルチはトルスの方を睨む。

 だが、トルスが狙っていたのはピルチだけではなかった。

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