184話 最悪な状態

「こやつ、反射しよった」


 シャーロットの両腕は焼け焦げたのと同時に若干の雷を帯びていた。

 そして何より、シャーロットの視界にはシャーロット以上の雷を帯び、全身が傷だらけのヴェルダが立っていた。

 意識が戻ったり無くなったりを繰り返し、ダラダラと傷口から垂れる血と火傷を防ぎきったヴェルダの体の融合は美術の彫刻のように美しかった。


「やるのー」


 シャーロットはアイテムボックスからポーションを取り出すが、両腕が焼けているので尋常では無い痛みが襲う。

 だが、そんな事は一切気にする事なくシャーロットはポーションを使う。

 流石に全てを直す事はポーションでは出来ない。


 そう、シャーロットと同時にヴェルダも意識だけでアイテムボックスからポーションを取り出し使用する。


 周囲は焼け焦げ、何もなくなり荒れ果てた場所に二人は立っていた。

 シャーロットは何方かが倒れると踏んでいたので嬉しい誤算だった。


「……だから……言ったでしょう私には効かないと」

「そうじゃの。まさかこれを止められる奴が他の学園にいるとは思ってもいなかった」

「そう……そして絶対、この場面を見て……はぁはぁ……隙を作る……とね」


 シャーロットの上、視認できない程高い場所にある神聖鏡から超神聖鏡属性スキル<天罰落下/パニッシュフォール>を発動しする。

 ヴェルダはここまで一切自分から攻撃する為の属性ではないと見せてきた、なのでカウンターによる攻撃しかないとシャーロットは考えているであろうと思っていた。

 天高くある鏡に光を吸収させ、それを真下に放出する。

 そして、そのままシャーロットの上から高濃度の光の柱が襲いかかる筈だった。

 上空に突如、巨大なドーム状の土がシャーロットを覆いさらにその上から煙が発生していた。

 それによって、シャーロットに直撃する筈だったヴェルダの魔法は威力を失う。


「タイミング的には正解だったな」

「副会長がここまでやられてるの初めて見たかもー!」


 表情には出さなかったがヴェルダは焦る。

 ピルチとコウザンが援護しに来た事によりテストはもうこのフィールドにはいない。

 そして、ヴェルダ自身もかなりダメージが残り、もう超属性は撃てない。

 時間稼ぎなど到底出来ない状況だった。


「全く……遅すぎじゃ二対一の癖して」

「ちょっと特殊な奴でな、想定の倍以上かかった」

「でも、やったんだからいいじゃない!」

「それに、今のも守る必要はない」


 シャーロットは上を向きながら面倒臭そうに言うと、聖練癒属性魔法<損傷修繕/リロード>を発動する。

 すると、シャーロットの腕にあった傷が全て消え、元に戻ったような状態にまで治る。


「ほんと、隙がないよねー副会長!」

「だから言ったろうに、無駄に魔法やスキルを使う必要はないんじゃ」

「確かにそうだったかもしれんな……で、どうする?ヴェルダその傷ではリタイアした方が得策だと思うが」


 コウザンはヴェルダの方へ振り返り、本心を言う。


「分かっていてよく言いますね」


 荒れる息を抑えながら無理やりにでも笑いヴェルダは言う。

 明らかに無理がある事は知られてはいるが、ここで素直に従ったら心が諦めてしまう。


「コウザン何を言っておる、こやつらは私の獲物じゃ、次邪魔したらいくら仲間とは言えど容赦はせんぞ」

「でっもさーここで三人釘付けになってたらそれこそ相手の思惑通りじゃないのー?」


 ピルチは膝を曲げ、シャーロットの頬を指でツンツンしながらなだめる。


 そんな様子を見ながらヴェルダは少しでも回復に専念する。 天恵のポーションも使い果たしてしまっているので、後は己の自然治癒力に頼るしかないからだ。


「ピルチもコウザンの味方か……」


 少しふてくされるようにシャーロットはそっぽを向く。

 だが、そのそっぽを向いた先にシャーロットは何かを感じる。


「副会長どうしたの?」


 その異変に気がついたピルチは少し心配そうにシャーロットと同じ方向を見る。


「これは……楽しくなりそうじゃな」

「へぇ……」


 その視線の先には二人の男が喋りながらシャーロット達の方へ呑気に歩いて来ていた。


 徐々に近くにつれ、輪郭がくっきり見えるようになる、どこの学園か、何年生なのか、そして、誰なのかまで……


「あの子達は……」


 ヴェルダは、その二人を良く知る訳ではなかった。

 そもそも交友関係の狭いヴェルダに取って、性別や学年など少しでも遠のく要素があればまず会って喋るという機会がない。

 それでも、今のヴェルダにとって増援はありがたい事にはかわりない。

 だが、ヴェルダ達の方へ近づいた二人は明らかにしまったという顔をしており、一時増援でホッとしたヴェルダも少しずつ心配という要素が強くなる。


「全く、エルの方向音痴はどうにかしてほしいものだな」

「あのね!トルスが’ここにいるやつでは相手にならん’って言ったからついて来たんだけど!」

「そんな事言ったか?」

「あのね……まあでもまさか、相手にならん相手の次がここまでとは思ってもなかったけどね」


 エルとトルスはシャーロット・バイク、ピルチ・パルプ、コウザン・ケールンのレイ・クラウド学園生徒執行会のメンバー三人というこのフィールド上二番目に行きたくない場所に着いてしまった。


「ヴェルダよ良かったの増援じゃぞ」


 少し、からかうようにシャーロットはヴェルダに言うがヴェルダの疲労もピークに達しており、それに対応する気力は無かった。

 そして、増援が来た事による精神的な緊張が少し解け、一気に全身を駆け巡る。

 そのせいで体勢を崩しヴェルダはそのまま後ろに倒れそうになる。


「大丈夫か」「大丈夫ですか」


 ヴェルダは倒れる予定だったが、エルとトルスによって支えられる。


「ありがとう……二人共」

「速いねぇ!君たち!!」


 嬉しそうにピルチは一瞬で自分達の間を通り抜けた二人を賞賛する。


「三年生?」


 ヴェルダはだいたいの実力を把握しておきたかったので、今の反応速度で感じた学年を言う。


「いえ、僕達二人共まだ一年です」

「……そう」


 自分の勘が外れたのは初めてだったので一瞬ヴェルダは言葉が詰まる。


「ほう……一年か」


 見定めるようにシャーロットはエルとトルスを見る。


「はい、ルイン魔導学園、黒聖クラス……エルと申します。そしてこちらがトルス」

「黒聖か……面白い、流石は変人クラスじゃな!!」


 シャーロットは戦闘する気満々と言わんばかりに集中力を上げる。

 だが、そのシャーロットよりも先にピルチとコウザンが前に出る。

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