16.5話 回復者と芸術品

 一人洗礼された軽装の女性は豪華絢爛な城内を早足で歩いている。

 下は真紅の絨毯が敷かれており、壁には魔法で永続的に照らし続ける松明が並んでいる、城内からは綺麗な街並みが見えており、最初来た時はとても感動を覚えた程だった。


 そんな感動はとっくの昔に置いて来てしまったその女性にとって今は景色ではなく向かうところがある。

 途中何人かの兵士とすれ違う、兵士達はその女性を見ると道の端に寄り頭を下げる。

 はじめの方は恥ずかしかったが人間というのは不思議なもんで毎日何処かしらでやられているとそれが習慣化し、当たり前となってしまう。


 それにしても城は無駄に大きくて移動が手間すぎる、城には魔法やスキルに対する障壁が何枚も展開しているため中で空間系の属性を使っての移動はできない。女性はうんざりしながらも目的の場所に到着する。


 ある一室の扉の前に立つ。

 早足で来たので若干乱れている髪を整え直し扉を三回ノックする。

 中にいた使用人が扉を開ける。

 部屋の中央では優雅に座っている美麗な女性がいる、その人こそ今回会いに来た相手だった。


 純金に引けを取らない金色の髪艶をしており、少しウェーブがかかった長い髪を両サイドで結んである。

 凛とした雰囲気があり、今は真っ白なドレス姿で紅茶を飲んでいる。

 綺麗、可愛いでは言い表せない美しさがあり、真っ白な肌にほんの少し頬に赤く塗っているチークがよりその白い肌を強調させる。

 初めてみる人は皆目を奪われる存在である。


 入って来た女性を見て振り返ると、にこやかに笑って手招きしてくる。

 その合図にしたがって初めて部屋の床に足を乗せる。

 そして相席を求められた女性は一切の迷いもなく席に着き紅茶とお菓子を使用人の人が持って来てくれる。


 そして、一口紅茶を飲むと口を開く。


「久しぶりね。『戦闘芸術品/バトルアーティスト』」


 また、懐かしい二つ名を……いい加減恥ずかしいからやめてほしい。

 恥ずかしさを隠すためにいつもより長く口元にカップを残す。


「ああ、久しぶりだな『超越回復者/バーサクヒーラー』」

「懐かしいわ……またあなたと戦いたくなっちゃった」


 この『超越回復者/バーサクヒーラー』と呼ばれるのが、セイルド聖王国最強の「回復者/ヒーラー」であり、「最強の前衛」でもあるキサラギ・ネル。

 そして、相対するは『戦闘芸術品/バトルアーティスト』と言う二つ名を持つ、シズ・クワイトだ。


 なぜキサラギが最強の前衛と呼ばれていたのか……それは単純明快で、’死なない’からである。

 キサラギはあらゆる攻撃スキルや攻撃魔法を持たず全て耐性や防御、回復系魔法やスキルの能力を高め、最強のエクストラパッシブスキル『超越回復/ヒーリング』を持つ。

 頭を吹き飛ばそうと心臓を貫こうとも直ぐに修復され回復する能力を持ち、死因は老いだけだと言われるまでになっている。


 前線で倒れた仲間を回復させその際にどんな隙が生まれようとキサラギには関係ない。そして後ろにすぐ回復してくれる人がいるとわかれば士気も高まり強くなる。

 兵士は倒しても倒しても起き上がる事から聖王国の兵はゾンビ兵と呼ばれるようになった。


 一時期はそれを真似し他国でもそういったヒーラーを作るべく研究していた。

 だが、大抵のものは発狂し、精神が崩壊して使い物になる人は誰一人生まれなかった……なぜなら受けた攻撃の痛みまでは消せない。腕を切られたりすればその痛みは感じるのだ。


 キサラギはそこら辺の頭のネジが飛んでいるからこそ出来る芸当(究極のドM)だ。


 キサラギを止めるためにはキサラギを相手に出来るものを当て回復に手が回らないようにするしかない。


 そこでよくキサラギ相手に回されていたシズは聖王国との戦争時は必ず対峙していた。


 大抵の場合戦争が続いている間、戦闘を続けていた。

 最近は戦争も昔に比べれば減っており、聖王国とシズが属するカイルド皇国は同盟関係になり、こうやって二人が立ち会うこともできるようになった。


「こちらは願い下げたい」


 その答えが分かっていたかそれについては何も答えずキサラギは外を眺める。

 シズは紅茶を一口嗜む。

 そして、少しの静寂の後キサラギは本題に入る。


「またこの季節がやって来たわね」


 この季節とは、魔導学園の入学試験の事だ。

 どの国も多数の学園を持っており、将来戦力となる人材を育成している。その学園の入学試験をだいたいどこの国も同じ時期に行なっている。


「面白い子がいるといいけど……」

「最近はなかなか面白い奴がおらんからな」

「あなたの弟子が最後じゃない?良かったの」

「確かにそうかもしれんな」


 やはり、もう少し入学試験の内容を見つめ直すべきだろうか……

 シズは皇国の上に立つ存在なのでそう言った管理も任されたりもしている。なので、色々考える事があった。

 

「この時期は入学試験を狙う輩も出るからそのあたりも考えないとね……」

「ああ、そうだな。今回はうちが狙われない事を祈るよ」


 それからは、試験内容や今後について色々話し合いその日は御開きとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る