166話 妹の実力?

 集中力を極限まで高め、カッパの攻撃を確実に躱しながら魔法やスキル、物理技などを混ぜ戦う。

 一度もあの固有属性を受けてはいけないというプレッシャーが背後にずっとあり続けるので、普通の敵と戦うよりタチが悪い。


 セアはとっくに白銀騎士を召喚し、ルナも固有属性桜蘭を片手剣に付与して使ってはいるが、全く上手く近づけない。


「セア!白銀騎士の遠距離攻撃は無いの?」

「ありますわ……けれどわたくし、狙いをつけるのが苦手で、当たる確率おおよそ三十パーセントですわ!」

「そんなことをドヤ顔で言うんじゃないよ全く」


 正面から三つの水の球が飛来し、全てを斬りつけ切断する。斬るのも物凄い水圧が抵抗してくるので、その度に握力が持っていかれてしまう。


「避けてっばかりじゃなく来いよ!!ほら!ほら!ほら!!超渦潮属性スキル<渦気流反三連波/ウィルプールブラストリプルス>」


 カッパは両手を前に突き出し、スキルを発動する。

 両手付近の空間に水の溜まりが出現し、風圧と水圧が混ざり合い共鳴し、巨大な渦がこちらへ迫って来る。

 反時計回りに渦が回転し、地面を刈り取り、雑味を帯び、怒号を響かせながら迫って来る。


 この巨大な渦をルナの超属性でしのぎきれるかと言われるとかなり怪しい。

 それは、セアも同じなのかルナと同じような表情をしていた。


「お姉ちゃん……下がってて」

「セナ、あなた……」


 セナの眠たそうな表情は変わらないが、その目は真っ直ぐ渦を捉えていた。


「さあ!!止めてみろ!!」

「ルナ!どうするの!流石にこれは……え?」


 ゆらゆらと、ゆったりと、ゆっくりと、その渦に歩いて行くセナ。

 そのセナの辺りだけ時間が止まったようなのろのろさ加減で、セアもこっちの方のが驚きが強いのか口が開けっぱになっている。


「ガッハッハ!面白いやつだな!流石だ!」


 トレインは昨日セナの能力を見ていたのか、その言葉からは不安は微塵も感じられない。

 基本的に、セナは超気分屋なので動く時と動かない時の差が激しい。

 けど、セナが動くとなるんだったらもう他の人はやることが殆ど無いといってもいい。


 それほど強いーー


「セナ!その攻撃に触れると、カッパに攻撃出来なくなるから気をつけて」

「問題ないよお姉ちゃん」


 セナはボソッと小さく呟いた筈なのにその声はルナの耳に鮮明に届く。

 トレインの前にルナとセアの二人そのさらに前にセナがいると言う構図で、カッパが放ったスキルの渦はもう既にセナの目の前に達していた。


「超睡蓮属性スキル<物質催眠/メタリアルスリープ>」


 セナは片手を突き出し、その渦にゆっくりと触れる。

 いや、実際にゆっくりになっているのはその渦の方だーー

 そしてそのまま渦はその形を維持出来なくなり、ただの水と土や折れた草木に分かれ、土に帰るように分解される。

 その水は相当量あったのか、皆の足元は少しの間、くるぶし辺りまで浸かるほどの水浸になっていた。


「な、なんだこれは……」


 一番驚いているのは、カッパ本人だった。

 そりゃそうだ、超固有属性のスキルを放ったにも関わらず、触れることなくバラバラになっているのだから。


「あれだけの強力なスキルをたった一触れで……セナさんあなた……」

「私はお姉ちゃんの妹なだけ……」

「ルナ!あなた、なんでこんな強い妹がいるのに頼らなかったのですか?」

「うーん……この子は超マイペースな子だから、例え私が言ったとしても言うこと聞かないのよねぇ……」


 そう言うと、少し理解したのかこれ以上はセアも言及はしてこなかった。


「まあ、いいですわ。これで、わたくしたちも戦いやすくなります」

「それが、そうもいかないのよねぇ……」

「お前!俺の属性に何をした!!」


 カッパは何をされたのか理解不能なので、言及しているがセナは全くそれに答える様子はなく、ルナの元へ来て、一言。


「お姉ちゃん、眠いから寝る……」

「ガッハッハ!俺のように木陰で寝るといいぞ」

「そうする」

「トレイン!あなたね!!」

「え?は!?え?、ルナさん!どう言うことですの?!」


 突然「寝る」発言をした、セナに少し理解を示していたセアも驚きを隠せていない。

 ルナも予想はしていたがここまで早いとは思っていなかった。


「私の妹、セナは超気分屋、超マイペースって言ったでしょ。そう言うことよ」

「超気分屋は聞いてませんわよ……」

「あれ?そうだっけ」

「そうですわよ!!一体どう言うことかしら?」

「いやーこれは私調べなんだけど、あの子が一つことをやり始めて次のことをやろうとする確率は五十パーセントなのよね」

「と言うことは、今の攻撃を防いで次にあのカッパへ攻撃するかどうか五十パーセントを引けなかったということですの?!」

「そう言うことです……」


 ルナは自分の運の悪さを呪う。


「全く……ですが、今はそうは言ってられませんわ!あとで説教は確実ですが、今は二人で抑えますわよ」

「分かってる」


 このセナの超マイペースは子供の頃からだが、属性を発現しても五十パーセントの確率で動く人間なので、親もセナに魔法やスキルを教えるのに苦労していた……と、普通の人なら思うかもしれない。

 ルナも最初はそう思っていた……だが、セナは五十パーセントで行動する代わりに一回一回のことを相当大事に行う癖があり、例えば一つの事を始めたら、次に移らないようずっと集中的にやったりする。

 さらに、他の人よりも二倍くらい飲み込み速度が早いと言うことが途中で分かった。


 そのおかげもあってか属性を扱う巧さや知識量などもルナの比にならない。


 それには最初、ルナも嫉妬した……今もだけど……でも、こうして仲間として戦うとわかる。

 ルナは姉として誇らしいものが込み上げてくるし、歳を重ねるごとに嫉妬という念は薄れていた。


「おいおい!一発だけ限定ってことだったのか。びっくりさせるんじゃねぇよ全く」

「セア、あの渦の何発かは宜しくね」

「分かっていますわ」


 さてと、どう攻略しよう……か……

 ふとルナは下を向いた瞬間、その水に写っていた自分の顔は笑っていたーー

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