159話 不思議や不思議

ーーダンジョン内二層ボス部屋


「アキト!!」


 耳がジーンと痺れ、恐らく鼓膜が破れ、ハヤトが叫ぶ声も普段の半分の音で聞こえる。

 アキトの半身と壁が直撃した衝撃が耳に達した瞬間に何とか重力をいじり頭や脊椎に達しないところで衝撃を反射させたので最悪な事態はどうにかなったが、かなりギリギリだった。


 どうしてもOOPARTSオンラインの時のクリスタル人形を頭のどこかで想定していたのでそのギャップについていけず思いっきりダメージを受けてしまった。


「感触はいい感じかな!」

「速いねえ……」

「ありがとう!でも、今ので警戒されてしまうからもう使えないけどね!」

「最強の不意打ち技と言ったところですか……」

「そういうこと!」


 いてぇ……アキトが殴られたのは左脇腹でそこから放射状に広がるように、徐々に痛みがやってきて今気づく。

 アイテムボックスから持ってきたポーションを振りかけ回復する。

 二本使ってやっと耳の状態が元に戻る。


「アキト、大丈夫かい?」

「たった今大丈夫になりましたよ」

「それは、良かったよ。まさかクリスタル人形があそこまでの動きを見せるなんてね」

「一回その記憶を消して戦わないとな。マジでその記憶があるせいでどこか動きにブレーキがかかる」


 ミツヤは再びメモ帳に何か記入し、再び地面に捨てる。

 何の情報をメモしているかわからないが、不意打ちのお返しを送るためアキトはミツヤを見やる。


「ハヤト、何か俺の身体能力上げられる魔法かスキルあるか?」

「あるけど……確かに今回は僕は後方から視界を鈍らせることくらいしかやることないからねそっちの方が勝率上がりそうだ」


 ハヤトも納得したのか、アキトに向けて手をかざす。


「いや、僕の固有属性にいいのがあるからそっちを使おうか」


 急に、ハヤトは方向転換し両手を俺に向けてかざす。


「天気属性魔法<気圧変動/アールバウト>」


 ハヤトが魔法を放った瞬間、アキトの体はふわっと浮いたように軽くなり、徐々に調整され、戦闘するのに一番最適な体重量に変化する。

 ほんの少し体が引き締まり、ぬるっとした真っ白な膜が体全体を覆い、アキトの体温が操作され一定に保たれる。


「じゃ、僕はそこの岩場で休憩してるから後は頑張ってねー」

「ハヤト、これって……」


 アキトの返答も聞かず、ハヤトは後ろの岩場へ隠れてしまう。

 この魔法は、操作可能な魔法で身体能力をいじることが出来る。

 その時々によって適正にあった体の体重や体温、筋肉量や血流、臓器の運動、関節の可動域、皮膚の強度など身体機能のほぼ全てを操作することが可能だ。

 己にかけて戦うときはそこまでの緻密な操作は出来ないが、今のような状況にはぴったりな魔法で、普通の身体能力を強化する魔法やスキルなどよりも物凄い効果を持っている。


「お!会議は終わったようだね!」

「ああ、終わったよ」


 律儀にアキト達を待っているミツヤは嬉しそうに目を見開く。


「君一人だけでいいのかな?」

「うん?いいぞ!やるか!お返しと行きますかね」


 アキトは左足に力を入れ、さっきミツヤがやったようなクラウチングスタートのような格好でもなくただ一歩歩き出すイメージで足を一歩だけ出す。


ーーふっ!!


 相手がアキトを見る間もなく、気づくまでの一瞬の隙にミツヤまでの距離二十メートルほどの間を一瞬でゼロにし、手のひらで腹の中央に触れ押し出すように手首を軸に軽く捻るように押し込む。

 成る可く、平行に吹き飛ばしたいので地面と平行になるように押し込み、衝撃が俺の方へ逃げないよう即座に手を離す。


 それだけでも十分なダメージにはなるが、アキトはハヤトの魔法に加えてもう一つの隠し味を付け足す。

 重力属性スキル<重力圧縮波/グラヴィティウェブ>を自分の腕に向け放ち、その衝撃(振動)だけを腹に当てた瞬間解放し、ハヤトの魔法で強化された攻撃と俺の重力スキルの二つの攻撃が混ざり合い、固そうなクリスタル状のミツヤの体の中央に月のクレーターのような凹みを作る。

 そしてそのままアキトに押し出された方向に全く逆らう事なくミツヤは跳ばされ、宝が積んである山にダイブし、大きな音と共に山が瓦解し姿が見えなくなる。


 やりすぎるとダンジョンを破壊しかねないので隠し味を重力スキルだけにして少しセーブしたつもりだったが、意外とミツヤが軽かったので計算外の飛び方になってしまった。


「……不意打ちのお返しだ」

「凄いね!」


 アキトの声が聞こえているのか、宝の山から体を出し、ゆっくりと全身を山の上に露わにする。


「やっぱりか……」

「ん?」


 宝の瓦礫の山の上でメモを平気な顔でとり始めたところで確信する。


「ミツヤのことを喋るクリスタル人形の亜種の魔物か何かと思っていたが、単純にお前さんがこの場所にあるクリスタルで作った遠隔の魔物だということが分かった」

「へぇ……僕は隠しているつもりはなかったんだけどねぇー」


 宝の瓦礫の山から飛び降りるとメモを捨て、さっきまで顔の丸が三つだのが二つになり、アキトがつけた傷が元に戻っていた。


「そう、これは僕の固有属性ダンジョンで作った人造魔物さ!」

「ダンジョンの製作者か」

「ま、製作者と思ってもらっていいかな」


 アキトはこの言葉を信じていいか迷っていた。

 普通製作者はダンジョンの奥深くにいるイメージが強いし、今出てくる必要がないからだ。


「アキトくん、残念だけどここはまだ最終階層ではないんだ、僕は製作者と言っても、ただ、この属性で言われた通り作っただけだからね」

「へぇ、じゃあ後何階層あるか教えてもらえるとありがたいんだが」

「そうだなー僕に勝ったら教えてあげるよ」

「勝つと言っても本体のミツヤくんが出てきてくれないと勝負にならないんだけど……」


 今目の前にいるの遠隔操作された仮ミツヤくんだからだ。


「そんなに慌てなくてもいるよここにー」


 二つ目の声が聞こえた方、そう、宝の山の方向に視線を向けると、その声の主はいた。

 アキト達と同じ学園ごとのユニフォームを着ており、その上から白衣をつけ博士のような格好をしている。

 だが、何よりも目が行くのが頭につけているフルフェイスの仮面だ。

 真っ黒な球体のような仮面をつけておりどこから呼吸しているのか謎な仮面をつけ、瓦礫にうまく座っている。


「でも、これで目標がわかりやすくて助かる」

「そんな簡単にはいかないよー流石に……」


 華麗にミツヤはパチンと指を鳴らす。

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