154話 一時の休息

 あれから、ダンジョンの奥をさらに、進みとうとう疲労感が出てきた。

 いくら、レベルが八十のハヤトでも疲れないということはないし、あれから迷路が出てくるわけではないが、あの魔物のようにボス部屋を何部屋も突破し、道中も弱いが魔物が出てくるし、罠や罠部屋もあるしでよくまだ疲労感があるだけで抑えられていると思うくらいだ。


 勿論、ハヤトが疲労感を感じているんだからアキトはもっと疲れている。

 なので今こうやって休憩を取っている。もう外は夜になっている。


 魔導修練祭では夜の戦闘を禁止している。

 具体的には、夜の九時から朝の六時までで、それ以前に起きて夜に行動を起こし、朝に奇襲なども行わせない。

 皆監視下におかれ休息は嫌でも取らないといけない。


 こう見るとアキトはものすごく甘いんじゃないかと思ったが、ルーエを落とす観客が寝てしまうのであんまり効率が良くなく、さらに、生徒に関して言えば、夜も活動させたりすると、監視の目が行き届きずらくなり、何かしでかされてでは遅いのでこういう形を取っている。


 元々これはお祭りみたいなものだからあまり本格的にやるものではないという理由もあったりする。

 そのせいもあってか、試験管に止まるよう言われ今はダンジョンの中で休息を取っている最中だ。


「やっぱり美味しくないねこれ……」

「文句言うなよ分かってたことだろ」

「そうだよねアキト……」


 ハヤトと二人で夜ご飯を食べ、適当な良い寝床になりそうな場所を見つけて腰掛けている。

 アキトと同じでハヤトもOOPARTSオンライン時代の食事を知っているのでやはりこれでは満足出来ないようだ。


「そういえば戦い途中だったのはどうなるのかなぁ……」

「確かにな、殴り合ってて無理やり途中で止められたら元もこもない」

「あ、これだ、えーっと何何……その戦闘は継続してもよく、両者が合意するならばやめてもよしだってさ」

「なんじゃそれ、抽象的だなぁ……」

「どうやらその夜の時間の三十分前からは戦闘は極力控えるようになるんだってー」


 暗黙の了解みたいな事だ。


「で、もし戦闘が長引くようなら強制終了だってさ」

「ま、与えられたルールで時間把握も出来ないほうが悪いってやったほうが楽だしいいよな」

「そうなるね」


 食事をパパッと済ませて残りの時間を睡眠にあてるべく横になるーー


「あれ?アキトもう寝るのかい?」

「明日も体力使うんだから早いとこ寝るべきだろ」

「でも、まだ早くないかい?」

「いや、寝る以外にすることもないだろ、戦闘禁止だし、そこらへんで排泄物出すくらいしかないぞ」

「排泄物って……」

「アキトって変なとこあるよね」

「あのゲームやってる奴らなんて到底変なのの集まりだからなぁ……」


 そう、OOPARTSオンラインは最後の方、サービスが終了に近くにつれて、ライトユーザーが離れ、ヘビーユーザーだけが残り、だからと言ってやることがあるという訳でもなかったので、こう言う今みたいな交流しかやることがなかった。

 とあるサラリーマンの愚痴を聞いたり、嫁がどうだとか、夫がどうだとか、皆んな色々な話をしていた。


 そんな昔のことをアキトはふと思い出し、少し感傷にふける。


「今、ダンジョン的にはどのあたりくらいに位置しているんだろうね」

「さあな、そんなこと分かってたらこんなに苦労してないっての」


 ハヤトもアキトと同じように上を向いて寝っ転がりダンジョンのくらぐらしい天井を見上げながら喋っている。


「話は変わるんだけど……」

「今度はなんだ?」

「そんなに身構えなくてもいいよ、凄く単純な話さ、この学園を卒業したらどうするんだい?」

「うーん、今のところは冒険者にでもなって旅しようかと思ってるけど」

「成る程ねー」

「ハヤトこそ何するつもりなんだ?クーデターとかはやめてくれよ」

「冗談が過ぎるよアキト」


 アキトの冗談で笑ってくれないので少し怖いが、ハヤトは上を向いているので良く分からなかった。


「僕はこのままレイ・クラウド帝国の兵士になって適当な役職にでもつこうかなと思ってるんだ」

「ハヤトなら速攻だろうな。けど、それだけのレベルがあるんだからもっと自由に活動してもいいんじゃないか?」

「うーん……旅ならOOPARTSオンラインの時にしまくったからなぁ……今は何か人の役に立つことをしたいと思ってね」

「いいんじゃないか、この国の防衛は頼んだぜハヤト」

「任せてよ」


 そんな、他愛のない話をしていたらいつのまにか夜十二時を超えていた。

 その内に話している途中でハヤトが眠ったのを確認したのでアキトもそろそろ寝ることにする。

 つけていた小さな明かりの魔法を片手を振って消し、消灯する。

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