152話 魔物退治

 アキトとハヤトが数歩動くと、むくっと起き上がり、その魔物は二人への警戒心を一気に一から百へと上げる。

 その魔物は、熊を二倍大きくしたような体格で、背中からは蛇のような生物が三体、意思を持っているかのように各々動いている。

 体毛は針のように鋭く、真っ黒な腹には岩のような筋肉が浮き上がっている。

 そして、アキト達が来た道を帰れないように後ろの道が閉じられ、これでもう魔物を倒さなければ出られなくなった。


「いやーこうやってアキトと戦えるとはねーOOPARTSオンライン時代は考えられないことだよ」

「俺はハヤトに頼ることになりそうだし、なんなら一人でやってもらってもいいぞ」

「そこは一緒にやらないと……ダメでしょ!」


 ゆっくりたらたらその魔物を牽制しながら、二人は近づくーー


 二人の身長を優に超える魔物を見るのはOOPARTSオンライン以来なので、久しぶりに見るとやはり恐怖感はあった。

 OOPARTSオンラインはとんでもなくリアルな感覚なので初めて見たときは皆腰を抜かしていた事を不意に思い出す。


ーー懐かしい

 鋭い瞳でこちらを見下す、その魔物は二人がある一定ラインを超えたのか、一気にこちらへ走り出す。


「来たね」

「まずは、各々好き勝手にやってみるか……」

「おっけー」


 超適当な作戦を立てて俺達も魔物へ向け走りだす。

 ハヤトの方は直接超至近距離で戦うのが好きなのか、中距離遠距離型なのに突っ込んでいく。

 逆にアキトは直接殴り合ったり、中距離タイプなのだが、魔物と少し距離をとったところで歩みを止め、魔法を発動させる。


「重力属性スキル<地に伏す者/グラビィテオングラウンド>」


 魔物に対象を設定し、魔物を加重する。

 ハヤトが攻撃しやすいように動きを止めようかと思っていたが、どうやら固有属性だけでは、なかなか鈍らない。


「グルグァアアア!!!!!」


 少しは効いてそうだが、目に見えて膝をついたりだとか、体勢が崩れたりだとかはない。ただ、怒らせただけだった。

 魔物は、鋭い爪が付いた太っとい腕を地面に突っ込むと、魔法か何かを発動したのか地面に波が出現し、ハヤトの進行を止める。

 地震とはちょっと違った……まるで、海の上に立っているような感覚になり、三半規管を刺激され、少し酔った感覚に陥る。

 その波を打つようになった地面を全く意識しない走りで二人の方へ迫る。


「ふぅ……水属性魔法<局所雨/ポイントレイン>」


 ハヤトは、魔物の上空から超高圧の雨を降らせダメージを与えようとするが、魔物は巨大な波を自分に寄せるように作り、己の上空をカバーする。


「うおっ!」


 当然、その波が発生するということはここの地面が大きく揺れることになり、アキトはうまく体勢を保っていられなくなる。

 アキトは、手を地面に付け何とか維持しているが、ハヤトはもう感覚を掴んだのか、体感がいいのか、綺麗に立っている。


「アキト、あの魔物……最初にしては強いよね……」

「そうだな、こっちとしては大きな魔法やスキルを撃ちたいが温存しておきたいというのもあるし、下手に撃てばダンジョンが崩壊しかねない。そうなればダンジョンと共におじゃんだ。結果、ちまちま魔法やスキルを撃つ、もしくは運を頼りに強力な魔法やスキルを放つしかない」


 ほんと、このダンジョンを作ったやつはダンジョンを良くわかっている。


「でも、僕とアキト以外の場合の話だけどね」


 これが普通の生徒だったら下手したらここで終わるし、突破出来たとしても其のあとで潰れている。


「じゃ、ハヤト後ろ頼む」

「おっ!今度はハヤトが前衛だね」

「茶化すな、本来はこっちが妥当な配置の仕方だしな、さっきのがおかしかっただけだ」

「ウグゥヴアァア!!!」


 再び魔物は腕を地面に突っ込むと、今度は波が一つだけしかも十メートル以上はあるんではないかと思うほど高い、土の津波が二人の方へ押し寄せてくる。


「すごいね……これは」

「全くだな」


 アキトは両手を前に出し、その迫る津波を見やるーー

 左足を後ろに引き、膝を曲げ地面につける、そのまま……


「超重力属性魔法<超遠高重力場/グラビティバースト>」


 突き出した、両手から静電気のような光が集まり真っ黒な球が出来る。その球の周りには青白い光が漏れ出し、その光の粒子一粒一粒がとんでもない重さを持っている。

 この魔法は制御がかなり難しく、この俺のレベルでは制御出来ない。

 なので、このまま放ってしまうとどこに飛ぶかも分からず、下手したらダンジョンを破壊しかねないので、アキトはさっき魔物に付与した重力の引力を使い、引き合わせる。


 金属音数倍の高音を奏で、アキトの手元から放たれる。

 その衝撃で、かなり後ろ、ハヤトのいる辺りまで吹っ飛ばされるが、こうなることはわかっていたので、あらかじめこの体勢にしていたのだ。

 それでも地面を抉りながら自分の体埋まるくらいに滑った。


「流石だね……」


 ちょうどハヤトも魔法かスキルを放とうとしていたが、今は高速で飛んでいくアキトが放った魔法を見つめている。


「これなら、ぶっ飛ばせる……」


 アキトが放った魔法は魔物と二人の間にある土で出来た津波を全て飲み込むと手のひらサイズだった黒い球はトラック一台分くらいの大きさに昇華する。

 魔物も避けようとしているが、当たるまで勢いがなくなることはないーー


「グァアアゔぅあ!!!」

「くたばれや」


 ちょうど、アキトが放った魔法は魔物の腹に直撃し、その刹那ーー

 腹に巨大な穴を開け、大量の魔物の血液が飛び散る。

 何トン入っているんだと思わせるほど飛び散り、半分排水溝が詰まった風呂場のような状態になる。

 だが、その腹にあったであろう内臓は全て消し飛んでおり、その消し飛んだ腹の周りの部分から、残りの内臓などが地面に落ち、白目を向いてその巨体は崩れ落ちる。


「終わったか……」

「いや、まだだ……」


 ハヤトは目を細め、倒れた魔物を観察している。

 何か変化があるのか、それとも思うことがあるのか分からないが、ハヤトは警戒心を解かない。


「ぅグル!」


 すると、ハヤトが言った通り、瞳に色を取り戻しむくっと起き上がる。


「うっそでしょ」

「恐らく、あたり場所が悪かったんだろうね」

「腹じゃなくて、頭だったら終わってたと……」

「うん」

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