144話 真骨頂
「はぁあああっ!!」
「おっと!」
セアの騎士が多きく剣を薙ぎ払うと、極寒の風圧が辺りの木々や草木を凍らせ、後か迫る剣で凍った物体は全て斬り飛ばされる。
キルイも剣は避けるがまさか凍るとは思っていなかったのか、極寒の風により、体が氷ついていた。
「セア!離れて!ちぇやああっ!!」
ルナは凍ったキルイの顔面に思いっきり左足を振り払う。
だが、凍っているはずなのに何故か腕は動き、ルナの蹴りをたやすく受け止めるが、流石に今回は全力の蹴りなので勢いは止められず吹き飛ぶ。
周りにある木はクッションになってくれず全て砕けるので身体中にガラスのように氷の欠片が突き刺さる。
「これは……痛いですね……」
「嘘つけい」
キルイは立ち上がると突き刺さっているように見えた氷の欠片は一切突き刺さっておらずボロボロと地面に綺麗な音を奏でながら落ちる。
「いや、本当ですよ……まさか腕を持っていかれるとは……」
キルイは骨が砕かれコントロールが聞かない腕を煽るようにルナとセアに見せる。
「凄い力ですわねルナ」
「なんか、褒められてる気がしないんだけど……」
それに、さっきの蹴りには二重の光属性の魔法と三重の火属性のスキルが付与されていたので、それでやっとと考えると相当硬い。
「私の属性は大味ですので、そういう細かい部分を担当してもらえるのはとてもありがたいですわよ」
「そうは言ってもねぇー」
邪魔だったので地面に突き刺しておいた剣を抜き構える。
「憑依霊属性スキル<義手/スペア>」
キルイはスキルを使うと、さっきまで骨が粉砕されていた腕の赤みが徐々に治っていく。
「ふざけるな……」
「腹立つ気持ちは察しますが、今はあれを倒すことを考えた方が良いですわよ」
勿論そんなことは分かっている、だがルナはただ単純にキレそうだった。
「あー!キレたかも!」
「はぁ……知りませんわよ後で後悔しても」
「ふぅ……」
もう、セアの声はルナの耳には届いていなかった。
「あなたの速度についていくにはわたくしも本気出す必要がありますのよ……全く、’解除’」
「そうでしょう!僕とやるんですそうでなくては!」
「はっ!私が本気出したらあんたなんかボッコボコだっての!」
「当然ですわね!白銀騎士属性スキル<肉を切らせて骨を断つ>」
スキルを発動すると、セアの騎士は盾を地面に突き刺し、剣をもう一本携え二刀流となる。
「桜蘭属性魔法<春うらら>」
ルナは持っている剣を自分の顔の近くに寄せ、息を吹きかける。すると、剣の刀身がボロボロと崩れ、柄の部分から新しく花びらがひらひらと吹き出る。
「では僕もお答えしましょう!!憑依霊属性スキル<霊魂完全憑依/コントロール>」
キルイがスキルを発動すると、揺らぐ紫色の髪が逆立ち、みるみるがたいが筋肉質のものへと変化する。
髪色と同じような禍々しいオーラが体を覆い、火花が散るような音を奏で始める。
「ふぅ……では行きますかっ!ーー」
「はやっ!」
キルイは今までとは別人のような動きで、超攻撃的なスタイルになる。
一瞬でルナとの距離を詰め、地面に手をつき下から足を蹴り上げるーー
近づかれただけで体がひりつき、蹴りを頭を逸らしてギリギリのところで躱す。
ーー少し掠ったけど問題なし!
かわしたのと同時に持っている剣を軽く振ると、花びらが勢いよくキルイと私の間に壁になるように上昇する。
そして、そのままキルイを包み込むように花びらは意思があるかのように動く。
「勝負しましょうか……」
「嘘でしょ!」
包み込まれている途中、花びらが触れるとキルイの体には無数の深い傷が刻み込まれる。
そんな中、いきなりキルイは花びらでつくった壁に自ら突っ込み、自傷する。
そして、そのままルナめがけ片腕を突き出すように殴ってくる。
「ぐぅっ!」
ガードが間に合わず、体を何とかよじらせて回避しようとするも腹に当てられてしまい、思わず声が漏れる。
そして、ルナはすぐさま距離を取ると交代するように後ろからセアの騎士が剣を振りかざす。
キルイはそちらに一瞬気を取られたところを見計らい、ルナも同時に追撃する。
セアの騎士の攻撃はさっきよりも高速に、威力も増し、隣で戦うだけでも凄いプレッシャーを感じられる。
「憑依霊属性魔法<霊魂手/デスハンド>」
魔法を発動したキルイの手は禍々しいオーラをまとい始め、魔法によって強化され、明らかに重い拳と化す。
次当てられたらやばいと本能的に分からせてくるものだった。
「ルナ!行きますわよ!」
「おっけぇえ!」
その恐怖感を叩き壊すかのように二人は声を荒げる。
二本の剣を巧みに使いこなし、白銀の騎士はキルイを攻撃する。一発一発の斬撃が風を生み、どんどん更地が広がっていく。
ルナはその間を縫うように進み、剣で攻撃を仕掛ける。
上空から二本の巨大な剣が降りかかり、それを全てキルイは往なし、そして、ルナへの警戒も怠らず、中々攻撃を直撃させることが出来ない。
白銀の騎士は二本の剣を同時に横薙ぎし、それを避けるためキルイは下段の剣を地面に叩き蹴り、剣が地面を抉り勢いが止まる。
「ふっ!!」
「はぁあ!!」
その下段の方の剣の影から私はキルイへ斬りかかる。勿論それを警戒していたキルイはルナが放つ斬撃の軌道を読み思いっきり屈む。
そして、白銀の騎士は地面に深く突き刺さった剣を放置し、すぐさまもう一方の剣を両手で思いっきり叩きつけるようにキルイを切りとばす。
「やはり、こっちもものが違う!」
まるでバネが圧縮するように叩きつけられたキルイは地面を二転三転バウンドし、それを追って、キャンセルされた攻撃を再び行う。
「超桜蘭属性魔法<蘭蘭蘭/ランサンレン>」
超固有属性魔法は剣がもつかどうか分からないが、このチャンスは絶対にものにするためやるしかなかった。
残っていた剣の柄がボロボロと崩れ、花びら一枚だけになる。
もはやこれは剣ではない。
ルナの持ち武器じゃないと耐えられないので剣、しかも頑丈な剣一本をこの魔法は確実に消費してしまう。
「あなたが、こんな勝機を逃すはずがありませんよね!」
二転三転する途中無理やり地面に腕を地面に突っ込み、腕の骨をへし折ってでも勢いを殺したキルイは残っている片方の手に、全ての力を集中させ、ルナに向けて振り抜く。
そして、その拳に合わせルナは花びらを一枚、添えるように拳の上に乗せただキルイの横を通り過ぎる。
「死なないでよね、私、まだ退場したくないし……」
「まさか、ここまでとは……お見それしました」
時間差で、キルイの体全身を花びらが中から切り刻み、立った状態で気絶していた。
その際に発生した突風で赤に近い桃色の髪が揺れ、ルナはその様子をじっと見つめていた。
殺す気でいかないと倒せない相手ほど厄介なものはない。この力加減をミスっていたら即死だった。
その様子を見ていただろう審判も、すぐさま駆け寄り、慌てるようにこのフィールドから退出させる。
ふと、ルナは周囲を見渡すと、想像以上に荒れ果てた森を見て少し申し訳ない気分になるが、一旦戦いが終わったのでほっとする。
流石にこの力同士のぶつかり合いには参加したい人がいなかったらしく、途中何人かこの近くを通り過ぎたが敵であろうが、味方であろうが全スルーだ。
「お疲れ様ですわルナ」
「セアもね」
ルナとセアは二人で手を合わせ、パチンと音を鳴らし一先ず労う。
「ほんとだったらここで終わりたいものだけど、まだまだ序盤なのが残酷よね」
「そうですわね、まさか最初の敵に三年生が混じってるなんて……」
「あっちの二人は大丈夫かな?」
「大丈夫ですわよ、あの人もそうそうやられる人達じゃありませんこと?それにルナなら一番分かることでしょう」
それもそうだろう、セナはとにかく強い。普段は本当におっとりしているが、戦闘に入れば集中力は異常だ。
「では、私達も二人の応援に向かいましょうか」
「そうだね、様子見に行こう」
ルナはいい感じに運動してご飯が恋しくなる。
さっきまでの緊張感は何処へやらといったように体の力が今更良い感じに抜ける。
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