140話 三択
「あらら、やられちゃった……」
ムルドは残念そうに呟くと、ゆっくりと立ち上がる。
そして、少し不思議そうな態度で、四人を見る。
「どうした?」
「まさか君が……キャニオンのこの檻を止めているのか」
「あぁそうだ。ただ、俺だけってわけではないが」
そう、このキャニオンの作った檻は時間経過で徐々に狭まっていく効果を持っている。
さっきハヤトが言った広く見ろというのはそう言うことだ。
危うくみんなで潰されるところだったわけで、それに真っ先に気づいたハヤトは流石だった。
ハヤトの属性では完全には檻の進行を止められないのでアキトと共同で動かないよう足止めしていた。
「へぇ……一年生のわりによくやるじゃないか」
そのままムルドは檻の外まで移動し、ズ・バイト学園の残りの生徒を全員転送させる。
「君達を完全に倒せなかったのは計算外だが、そろそろいい時間だからねこの辺りでおいとまするよ」
「成る程なお前の役割は俺達が向かわないようにする時間稼ぎ……いや、レイ・クラウド学園の戦力分散か……」
「そう!君たちルイン学園はおまけかな……それじゃ」
ムルドは徐々に背景に紛れるように薄れていき、ろうそくの火が消えたようにふわっと消える。
「さて、どうするかこの檻」
「気絶しても続くんだねこの固有属性」
「多分、永久に持続するタイプなんだろうな……全く迷惑この上ない」
檻にはダンジョンから出てきた魔物が徐々に集まってきており、檻の中には傷ついた生徒も複数いるので早いとこ抜けだしたいところだ。
力づくでやろうと思えばできるが、これからどうなるかも分からないのでSP、MPはなるべく使いたく無かった。
それに、力づくでやってしまうとどう崩れるのかによって今倒れている生徒にどのような影響を及ぼすか分からない。
そこら辺のことを鑑みると難しい選択になる。
「おーい!!出してくれよ!!」
ずっと閉じ込められていたバーンは我慢の限界がきたのか騒ぎだす。
とんでもない大きな声なので鬱陶しいが、アキトとしても今考え中なのでもう少しくらい耐えてほしかった。
「アキトどうする?僕が他の人を庇うから壊してもらってもいいし、もしくは逆でもいいけど」
「うーん……それでもいいんだけど……」
「おい……脳筋バカ、そんな檻自分でぶっ壊せばいいだろうが」
クロムも耳に響く大きな声にイラついたのか口調を少し強くしてバーンに言う。
「お?そうか!俺が壊せばいいじゃねぇか」
バーンはまるで難題が解けた時のようなスッキリした表情になり、檻に手をかける。
「いくぜ!!!ちぇやぁあああああああああががががががが」
バーンはその大きな手で柱の一部を掴み、力づくで圧し折ろうとしている。
「おいおい……まじでやんのか……」
クロムもまさか本当にやるとは思っていなかったのか心の声が漏れている。
いや、普通なら自分の属性魔法でもスキルでも使うだろうが、バーンはそれを力づくでやろうとしているのだ。
それにはハヤト、アキトもクロム同様驚いていた。
「うごおおおおおおお!!!」
金属製の柱が軋む音が辺りに響き、あまり心地よく無い音と共にバーンは柱をへし折った。
そう、本当に折ったのだ……力づくでーー
一直線だった柱はくの字に曲がり、空いている穴が大きくなる。
「はっはっは!!こんなもん生ぬるいわ!!」
流れに乗ったのか無意味に幾つもの柱をへし折り、最終的に元あった檻の原型は無くなっており、完全なる脱出に成功した。
「バーンさん、この外側の檻もお願い出来ますか?」
「おう!任せろ!!」
ノリにのってるバーンは気前よく承諾してくれる。
ただ、さっきの檻とは比較にならないほど大きな柱をどう攻略するのかアキトとしても見ものだった。
「アキト、僕達は他の生徒を担当しよう」
「そうだな」
アキトとハヤトは倒れている生徒の周囲に位置どり、クロムは一人ぼーっとバーンの様子を見ている。
「ふっ!!」
バーンは一本の柱に両手を乗せる。右足を前に出し膝を曲げ力の入りやすい体勢になり、徐々にバーンの周りにある物体が振動し始める。
「はぁあああああああああああ!!!!」
踏ん張る足元の地面は割れクレーターのように窪み、周囲の空気がまるで擦り切れるかのような音を奏ではじめ、バーンの体からは湯気のような黄色い蒸気が発生し始め、檻の柱が徐々に曲がっていく。
そう、最初は徐々に行くと思っていた、さっきへし折った小さい方の檻の時もそうだったからだ。
だがーー
「くらっしゃああああああああああ!!!」
ものすごい大きな掛け声とお共に柱に亀裂が入り、真っ二つに横一直線だった柱はハの字のようにぶった切られる。
「フィイイイイバァアアアアアアアアア!!!!!」
やり切った爽快感を味わいながらバーンは吠える。
確かにバーンがぶった切ったのには驚いたが、それ以上に崩壊すると思っていた檻が上手いバランスで形を保っている方に目が行ってしまった。
すると、バーンが開けた穴に教師陣が入ってきて、気絶状態の人達の回収に走る。傷ついているが、まだ動ける人は基本放置である。
アキト達は崩壊する警戒をしつつ、傷ついた生徒達には悪いがルイン学園以外の学園の人達には全員気絶してもらった。
その生徒達が全員回収された後、まだ動けるルイン学園の生徒の数を数える。
残ったのはアキト達三人と他六人の九人だけだった。
周りを見ると、さっきまでダンジョンから集まって来ていた魔物達がバーンの与えた衝撃で吹っ飛んでいた。
その魔物が動き出し、出口を塞がれる前にこの檻を出る。
「よし、このままダンジョン突入するか」
「そうだね、やっとスタートだよ」
「意外と時間使っちまった……」
「よっしゃ!!行くぞ!!」
ダンジョンに突入すると時間稼ぎと言っていたように、迷路のようなわかりづらいものになっていた。
強力な魔物を置くというよりかはそっちに力を入れたダンジョンだ。
勿論、どっちもあるという最悪な場合もあるという選択肢が消えたわけじゃない。
そして、数百メートル歩くと、目の前に三択の道が出現するーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。