136話 懐かしみ

レイ・クラウド帝国 作成フィールド内 ???ーー


「あれ、俺達は転送されてるはずだよな……」


 アキトは目の前に映る光景に開いた口が塞がらない。そこは、縦幅約百メートル以上横幅三百メートル以上の巨大な洞窟の入り口にいた。

 辺りを見渡してみると、本来開始まで接敵しないはずの他の学園の人がいたりと全員がここに来ている訳ではなくある一定数の生徒がここに転送されてしまっている事が分かる。


 どうみてもそこはダンジョンだった。

 これほど巨大だと攻略するのに一日では済まないレベルのものだ。

 他の人達はみんなフィールドを管理している国の何らかの不備があったんじゃないかと結論付けて案外冷静に対処はしているが、もしこれが正統なものとなった場合、かなり面倒臭い状況下に置かれているのは間違いなかった。


 開始まで十五分……時間はあるからこのまま待っておけば何らかの合図はあるだろうと思い、アキトはそこら辺の岩場に腰を預ける。

「ひーふーみー」アキトは大雑把に人数を数えると全部で約六十人ほどいることが分かる。


 全体の数でみたら少数にはなるだろうが何か引っかかっていた。


(アキトよ大丈夫かの?)


<和衷協同>が発動し、シロネからの連絡が入る。


(いや、大丈夫じゃないなこれは……多分何処かのダンジョンに飛ばされちまってる)

(そうか、こっちには連絡が来たんじゃが、そっちのが正統なものになるらしいのじゃ)

(成る程な、転送の際に起動する何かをつけられていたか、そもそもこれ自体が国の策略か……)

(うむ……後者は考えにくいから恐らく前者のほうが確率は高かろう)


 OOPARTSオンラインの時もアキトはこういった属性を持つ人を見てきたが大概一人だったり、大勢になると個別には出来なかったりと、制限付きなものが多かったが、ここまでピンポイントに出来るとなるとかなり絞られる。


(どうやら、みた限りじゃと一年生のみがそっちに送られているそうなのじゃ)

(一年生?……また何で?)


 本来ならより実力がある三年生の方をこのダンジョンに閉じ込めておけばスムーズに事が進む。

 何を考えているのかアキトは良く分からなくなってきていた。


(ユイが言うには、二年三年は魔物などの討伐の仕方は教わっているが、一年はまだ対人としか戦った事がないし、魔物に関しても知識があるだけじゃ、もしかしたらそこを狙ったのかもしれん)

(一理あるな)

(もう直ぐ、そっちに教師(審判)達が向かうそうじゃ、第二のフィールドとして臨時に認められる、恐らく動きがあるぞ)

(了解)

(気をつけるのじゃぞアキト)

(分かってる)


 シロネはそう言い残し<和衷協同>の効果が消える。

 その時、タイミングよく教師陣がこの入口の前に降り立つ。全部で兵士五人と教師五人の十人。

 よくこんな直ぐに編成出来るものだとアキトは関心していると一人の兵士が前に出て話し始める。


「聞け!!生徒諸君!!この転送は正常と見なされ、臨時にここを新たな第二のフィールドとすることとなった!!開始の合図はこちらがする、そしたら他の学園は全て敵となる」

「どう言うことだ!ここを出る方法はねぇのかよ!!」

「そうよ!こんなの認めらるはずがないわ!!」

「審判の係を勤めている俺たちはそういった質問には一切答えられない。自分たちで考えるんだな!以上!」


 そう言うと、その十人は消えるように姿を隠す。

 その消えた後には開始の合図を知らせる鈴だけが残る。


「おーい!!アキトじゃねぇかー!!」


 いきなり名前を呼ばれ、そちらの方向へアキトは振り向くとバルトが走って来ていた。

 ルイン学園の一年生だったらこう言う顔見知りがいる可能性もあるのだ。


「バルトもこっちだったか」

「おう!頑張ろうな!!」


 アキトは何とかバルトが理解出来るように丁寧に事の詳細を教える。


「ってことは、兄貴はまだ……」

「ああ、そう言うことだ恐らくこのダンジョンを抜ける必要がある」

「そうか……」


 バルトはさっきまでの明るさが消え、少し冷静な表情でダンジョンの入り口を見据える。


「俺は、始まったらダンジョンに直行するぜアキト」

「ああ、分かってるよ」


 こう言うタイプはどうせ止めてもやる……それを分かっているアキトは止めはしない。

 止めずに行かせてあげるほうが相手の為にもなる。最悪死にかけても教師陣や兵士など色々な人達がいるから大丈夫だ。


「俺はどうしても確かめならなくちゃならねぇ……」

「ああ、思いっきり行ってこい」


 アキトは人の事情にどうこう首を突っ込む気はないし解決してあげる気もない。ただただ見守る。今のアキトの出来る最大限の事だ。

 何があったのかは詳しくまでは知らないがアキトも、けんがいたらバルトみたいになるから何となく気持ちは分かっていた。


「やあ!アキトまた会ったね!」


 アキトはポンッと軽く背中を叩かれ振り返ると、そこにはハヤトの姿があった。


「ハヤトもいたのか」

「いやーまさか予想外の展開だねぇーダンジョンに転送だなんて」

「懐かしいけどな」

「そうだねぇ……これくらいのダンジョン当時なら速攻だよね」

「間違いない」


 ハヤトがいるならかなりスピードが変わってくるので、心強い。


「でもこの様子だと多分このダンジョンは誰かが作ったものだね」

「そうなのか?」

「うん、普通ダンジョンは何処かの山に続いていたり、川や海、地面といった自然物に対して出来るものなんだけど、このダンジョンの入り口付近はアキトが持たれているその岩場くらしか用意されてないし、近くにそういった自然物が一切見当たらない」

「じゃあ、何処かの学園が作ったということになるわけか」

「その可能性が大きいんじゃないかな」


 アキトは周囲を見渡し、ユニフォームの色を確認する。

 数は各学園まばらで、まとまりはないが兵士の一言で大概の人間が理解し、今はそれぞれ作戦を話し合っている。

 この中に絶対ハヤトの言うこのダンジョンに関わっている学園があるのでアキトは目を配るが分からない。


 そんなことを考えていると、置いてあった鈴が辺り一帯に鳴り響き、それと同時に花火のような爆音もついでにといった感じで鳴り響き開始の合図がかかる。

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