魔導修練祭編
118話 荷積み
ルイン魔導学園正門ーー
「おーいこれ詰め込めよー」
出発日前日、生徒は自分たちを帝国まで運んでくれる、馬車に必要な荷物を積み込んでいる。
アキトはその馬と呼ばれる魔物の眼前でにらめっこをしながらそのことをずっと考えていた。
風格は馬だが、筋肉の量や顔面の厳つさが際立っている。元の世界の馬が優しく見えるほどだった。
「おい!」
ついに痺れを切らしたウタゲが、右手のひらを握りしめてアキトの上から頭めがけて振り下ろす。
「いで!!」
「あのなー終わったのかよ荷積み」
「一応……」
アキトは勿論自分の事は終わらせてからにらめっこをしていたので怒られる筋合いは無かった。
という、感情が顔に出てしまったのかウタゲからアキトはもう二、三回追撃を受けてしまう。
ウタゲに結局他の人のも手伝ってこいと言われたのでまだ終わってなさそうなバルトの元へ来ていた。
「おう!アキト!なんか久しぶりだな」
バルトは相変わらずで、荷積みをするよりも口の方をよく動かし、トルスと一緒に喋りながらかなり時間をかけてやっていた。
「バルト、お前は昨日もあっただろうが。トルスは久しぶりだな」
そう、同じ寮のバルトとエルは学園内でちょくちょく見かけていたが、もう一人同じであるはずのトルスはここ最近一切見かけていなかった。
「ああ、アキト久しぶりだな」
「トルスはまじでどこ行ってたんだ?」
「そうか、アキトは知らなかったか。俺はここ最近寮で寝てなかったからな。ずっと学園内で倒れるまで特訓して起きてを繰り返していたから合わないのもしょうがない」
「やりすぎでは?」
「問題ない」
トルスが問題ないというならこれ以上アキトにはいう事ができないので、一応ポーションを渡しておく。
「そう言えば、もう三年は出ているらしいぞアキト」
「ああ、さっき俺もウタゲ先生から聞いたよ」
そう、一気に大人数で移動すると何かと不便なので、一年、二年、三年に別れてそれぞれ違う日に移動することになっている。
アキト達一年は最後だ。
今日は二年の出発日になる。今朝にはもう出ていたが、何人か寝坊した二年生がおり、明日一年と一緒に行く人もちらほらいる。
何やってんだか……
分からなくもない事だが、こういうイベントごとの時は意外といつも遅刻している人も起きられる傾向にあるとアキトは思っていたので、新しい発見だった。
「明日俺達はどういうメンバーで馬車に乗るんだ?」
「ああ、一応クラスずつってのは聞いてる。あとは自由なんじゃないか?」
「ウタゲ先生に後で、聞いておく」
トルスが確認を取ってくれる事に感謝しつつアキトは口を動かしながら手も動かしているが、さっきから一向に進んでいない。
「それにしても、進捗悪すぎだろ」
「アキトは終わったのかー?」
「終わってるよ。だから手伝いに来てるんだよ」
「まじか!手伝ってくれんの!」
目を輝かせて、バルトが思いっきりアキトに近づく。
迫りくる、バルトの顔を手で押しのけ積み込む予定の荷物を一つ手に取り入れて行く。
アキトがやりだすと、二人共案外ちゃんとやってくれてすぐに終わってしまった。
「あんがとな!アキト!」
「助かった」
「別に良いよ。その代わり、魔導修練祭ではしっかり動けよ」
「あたりまえよ!」
**
結局その日は、朝から荷物を積んで残りは再び自由時間だったのでアキトはハヤトと最後の調整の為にいつも通りの場所でアイテムを使って話し合っていた。
「へーそんな感じなのか」
「うん、多分だけどね。毎回同じかどうかは分かんないからさ」
ハヤトは元々帝国に住んでいたので、たまに魔導修練祭を覗いており、オリンピックのような盛り上がりで国全土が盛り上がりをみせるので、かなりの人が来るという事をアキトは聞いていた。s
そして、その魔導修練祭のイベントの一つに学園の試合があり、観客の動員が毎年百パーセントを超える。
裏では、賭けを行なっている者もいたり、他国からのスパイや犯罪者が入って来るのを見抜くのが難しくなる為、自然と国の警備も分厚くなる。
「選手の情報とかないのか?」
「うーん、分からないなぁ〜……でも、分かんない方が楽しいよね」
「それは、お前さんだけだろ」
確かに、色んな新しいアイテムや属性、スキル、魔法に触れて楽しいのは確かにアキトにも分かる。だが、レベルがまだ五十にも満たない状態だとやはり、楽しむということよりも不安の方が打ち勝ってしまうのも事実だ。
今、レベルは四十八。
後せめて二レベル上げて五十代にアキトは乗せたいと思っている。
レベル五十からはまた一段とレベルが上がりにくくなり、今までのようなスピードでは上がらない。
「まあ、最悪何かあったら本気出すよ」
「そこはハヤト頼りだ。頼む」
前回の二次試験の時はハヤトが敵だったため相当厳しかったが、仲間というならばこれほど心強いものもない。
「アキトも今日で出来るだけ、レベル上げしないとね」
「そうだな、せめて向こうに着く頃には四十九にはのせておきたい」
「じゃあ、一刻も無駄に出来ないね」
二人は同時に立ち上がり向かい合う。
「そろそろハヤトの本気を出させてやる」
「いやいや、まだレベル四十八の相手に本気出しちゃったら僕の面子が立たないじゃないか」
アキトは心の中で誰かに挑戦するという楽しさを久しぶりに感じれてとても楽しかった。
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