115話 新規様

 濃霧ーー


 真っ白な濃い霧が視界を覆い隠しており、辺りの状況は視界では把握しきれない。


「この状態でも戦えるかい?アキト」


 聞こえるハヤトの声は、視界がないせいでどこから聞こえてくるのか把握出来ない。

 アキトは視界では捉えられないので、もう勘と察知能力、さらには音などその他の要素で補わなければならない。OOPARTSオンラインでもこう言うステージはあったが、基本アイテムで軽減したり、チームで動いていたりと視界を担ってくれる人が他にいる場合が多いのでわざわざそういったスキルや魔法を取っていなかった。


「やだっつってももう引き返せねぇだろ」

「正解!」


 アキトが気付いた時には、足をかけられており、後ろからスライディングのような形で突っ込まれ、思いっきり体勢を滑らしてしまう。

 足を取られ宙に浮き、その隙にハヤトは追撃に入る。

 こう言う、特訓は効き目は凄いんだろうが、慣れるまでかなり時間がかかる。それに、この空間では加重がなぜか継続する判定になっており、最大のパフォーマンスを出来ない状況だから相当ハードだ。


 アキト受け身を取ろうとするが、手を付く前にハヤトの拳が右脇腹に突き刺さる。

 鈍い音と共に、めり込んだ拳を腕のバネを使って器用に力を逃し、その反動でアキトの体は空間の端まで一直線を描いて突っ込む。

 空間の端は柔らかいクッションのようになっているので痛みはないが、その分受けた拳の痛みが強調される。


「どう?やめるアキト」

「ハヤト、お前に一発ぶつけるまでやめるつもりはねえよ」


 挑発するように、ハヤトはアキトへ近づく。


「全く、手加減という言葉を知らんのかね……痛つつ」

「いやーアキトだと肩の力が抜けていい感じなんだよねー」

「少しはだなぁ……」

「じゃあ、行くよ!」

「ちょ、まっ!」


 再び、濃霧の中に姿が消えて行くハヤト。目で追っても無意味なので、アキトは諦め、目をつむる。

 肩の力を抜き、五感の一つを閉ざすことで他の五感の集中力と能力を上げる。

 さっきまで聞こえていた足音が全く聞こえなくなった。

 アイテムを使ったのかハヤトの位置を掴む要素が一つ消えたのだ。

 アキトは聴覚も潰し自分の耳の部分を真空にする。アキトは拳を構えるのを辞め、手をだらんと下げた状態にし、触覚の方へ力を入れる。


 一分、二分と時間が過ぎて行く。

 くっそおちょくりやがって……

 アキトはハヤトに焦らされ徐々に集中力が切れて行く。


 そして、ふとアキトの手の肌に触れる何かが揺れ動くのを感じ、その部分と体を半身捻り自然に後方へ引く。


「えっ!?」


 アキトはその触れかかったものをすぐさま手に取り、一瞬でそれがハヤトの足だと理解する。

 ハヤトは蹴りの体勢に入っていた。

 目を開き、ハヤトの体を思いっきり引っ張り、地面に叩きつける。


「うぐっ!!」

「今度は俺の勝ちだな」

「くっそー!!んじゃ次は僕の番。アキト攻撃役」

「おっけー」


 すると、霧が一瞬で晴れ視界が一気にクリアになる。ハヤトは何もなかったかのように立ち上がり、空間の中央に位置付ける。


「さて、ハヤトみたいに霧は発生させれないからオレ流でやるぞー!」

「いつでもいいよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る