110話 天候(悪)

 感覚は慣れてきても、肉体はかなり疲労しているようで、すぐに睡眠に入ることが出来る。ここ最近しっかり睡眠を取れるようになっていたが、アキトは今日何故か早く目が冷めてしまった。

 まだ深夜帯なので、眠気が時より襲って来るが一度目を覚ましてしまうと中々寝に入れずアキトは、椅子に座って天井を見上げていた。


 昨日はオーガとの戦闘の後、レア度Cで挑みゴブリンが出て来るというなんとも言えない結果だったが、レア度Cのゴブリンは意外と強くオーガよりも特訓になったと言える。

 どちらも攻撃の種類や体格などは似てはいるが、基本的にゴブリンの方が攻撃速度が早いので厄介だ。


 アキトは飲みかけのさっきまで熱々だったトマトジュースを流し込む。


「何じゃこりゃ……」


 一回挑戦してみたかったホットトマトジュースだが、アキトの中で失敗に終わる。

 飲めなくはないがやっぱり冷えているのと比べると数段劣る。

 そのトマトジュースのおかげか少し気分が悪くなったので外でも見て落ちつこうとアキトはゆったりとした足取りで向かい、何故か結露した窓の水滴を素手で取り除き窓の外を覗く。


「何じゃこりゃ……」


 アキトは一瞬この窓の外に広がる光景を受けきれず、目元を擦ってしまう。


ーートマトジュース以上の何じゃこりゃである。


 そんなことをしても現実は変わるわけではないがアキトは体が反射的に動いてしまった。

 外に映る光景は北海道を思い出すような積雪。

 アキトは直ぐに部屋を出てアイテムボックスから、自分の姿を隠すアイテム「消しこむ」を使用する。

 消しゴムの形をした「消しこむ」は使用すると光屑の様に四散する。


 すると、手のひらから順に徐々に自分の姿が見えなくなっていく。

 一階に着く頃には全身視認する事が出来ないほど完璧に消えていた。

 誰にもバレないように、足音に気をつけながらアキトが外に踏み出そうとした時ーー


「あ、足跡……」


 外は雪が積もっているので勿論そこを歩けば足跡がしっかり残ってしまう。

 別にバレたからって殺されるとかでは無いからそこまで考えなくてもいいが、つい止まってしまった。

 こうなると、「消しこむ」を使った意味がないが、'仕方なし'として落とし込むしかない。


 アキトは決心し堂々と外に出て、辺りを散策する。

 辺りの温度は氷点下まで達していて、建物に付与されている耐性魔法に感謝しつつ、アキトは薄着で来たことを後悔する。


「寒すぎる……」


 呼吸するだけで肺が凍りそうになり、喉が焼けるように痛む。

 勿体無いが、再びアイテムボックスを開き、検索欄に"あ"と打ち下にスクロールする。

 アキトは「熱燗」というアイテムを取り出し、徳利に似た形状の中に入っている液体を飲み干す。


 このアイテムは、寒さの耐性をつけるもので、決してお酒ではない。

 説明欄には、「寒さで冷え切った体に熱々のお酒を流し込むあの感じを再現してみました!!」と書いてある。


 アキトはどうでも良いことだけは脳裏にべったりとこべりついており、忘れることはない。テスト内容もこれくらいべったりだったら良かったが、基本冷たくあしらわれて思い出せた試しがない。


 この「熱燗」にはアイテムレア度によって、色々種類があり、最高レアはエスケープアイテムに位置している。

 最高レアエスケープアイテムから順に、熱燗飛び切り、熱燗(普通)、熱燗上、熱燗ぬる、熱燗人肌、熱燗日向という全六種類のラインナップがある。


 レア度が上に行くにしたがって効果範囲や効果レベル、効果時間、に差があり何故か温度にも差がる無駄に再現度が高いネタアイテムだ。


 今回は熱燗ぬるを選択した。

 アキトは徐々に体の内から暖かくなってきてさっきまでの寒さが嘘のように消える。

 あまりレア度が高くなくてこれほどの効果が出るということは寒さの質はさほど高くない。

 寮の近くの木々は氷つき、アキトたちが暮らしている、寮にも雪が降り積もり外壁は凍っている。

 時折、積もりすぎて余った雪がなだれ落ち、地面の積雪量を増やしていた。


 基本下地が凍っているので、滑りやすい。なので、余計雪が落ちやすくなっている。

 アキトは周囲を見ているといつも朝集合する中央運動場に到着する。


 流石に加重に慣れてきたとはいえまだまだ時間がかかる。

 中央運動場は土の質感が違い、赤茶色をしていて周りは地面に石畳が敷かれているので境界線が一目瞭然だ。


 アキトは何の気無しに赤茶色の土を踏もうと足をだしその境界線を超える。足の裏から順に体の全てを運動場内に入れる。


「え?」


 思わずアホみたいな声が出てしまう。

 そう、足元を注視していので一瞬の変化に体が追いつかず、反応が遅れてしまったのだ。


 周りにはさっきまでの北海道のような積雪や降雪、凍結は無く。鬱蒼と茂青後した葉っぱ、高く伸びた木々、何か分からないような植物、川や太陽の強さ、気候まで……運動場は湿地帯、熱帯雨林……ジャングルと化していた。


「なんか無駄に疲れた……」


 アキトは部屋に戻り、ベッドに入ったが、結局眠れず仕舞いにいた。

 天候系の事なので、ハヤトの仕業かと一瞬思ったがこんなことにわざわざ力を使うこともないだろうし、明日になったら直ぐわかる事なのでアキトは考えないようにしていた。


 境界線を作りその境界線を繋いだ範囲の中にフィールド魔法が張られており、それをいくつも張り巡らせている。

 アキトが見たのはこの棟から中央運動場までだが、この学内全ての場所がなんらかの効果を持つ魔法が張られている。


 要するに授業が次の段階へ移ったのだ。

 アキトは思わずふッとため息がでてしまう。そして、そのまま体勢を楽な方へ体を向ける。


 寝よう!

 目をつむり無理やりにでも寝ようと試したが、結局色々考えてしまい寝付くことは出来なかった。

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