101話 自己紹……
「では、自己紹介といきましょうか」
四人の目の前に座っている好青年という表現が一番よく似合う容姿とその洗礼された所作で、立ち上がるだけでも目を惹かれるほどのイケメンの男性が自己紹介を始める。赤紫色の髪で目は深い緑色、背はこの中で一番高かった。
「僕は帝国のレイ・クラウド魔導学園の生徒会長を努めておりますハル・クロ二クスです。帝国本校として正々堂々競い合いたいと思っています。よろしく」
ハル・クロ二クス……帝国国王クロニクス家の次男で、戦闘能力の高さとカリスマ性が計り知れないと言われている。
長男は、次期国王としてずば抜けた才能を持っているのにも関わらず、弟のハルの方も相当な実力者だ。
学生の立場でありながら並みの冒険者は、軽く捻られる。
周りの人間、この屋敷の人間全てがこのハル・クロニクスの護衛とされているがハルの実力は冒険者の上位陣に匹敵し、この歳で学園の生徒の域を超えている。
なので実際のところこの護衛は飾りになってしまっている。
「それでは次は俺か……」
少し歳をとった中年の洗礼された剣士、濃い顔のせいで歳の割に老けて見える。目つきが重たくどこか遠くを見ているような印象を受ける。
「俺は帝国バハイン魔導学園の副学園長のオルド・ベインだ。今日はうちの学園長が別件で用事があり来ることが出来ないので俺が代わりに来ている」
そのまま何事もなかったかのようにどっしりと構えて座る。
あまり興味が無いのかオルドという男は座った途端途中だった食事を開始する。会議に参加する意欲が全く見られなかった。
ウタゲはイライラゲージがどんどん溜まっていく。いつもならすぐにウタゲの異変に気づいてなだめてくれているシェルがおりカンフル剤となってくれるが今日はそれがない。
今自己紹介したオルドの勤めているバハイン学園はそのオルド一人だけしか来ていない。
基本他の学園は学園長一人、生徒代表一人、それプラスお付きや秘書、先生など四人か三人構成で来ているのがベターだ。
一番はじめに自己紹介したハル・クロニクスは学園長と秘書の三人だ。
だが、ハルが一人で全て仕事をしてしまう。
「次は私の番ですわね」
オルドの隣に座っていた若作りした濃い化粧をした四十代半ばくらいのおばさんが立ち上がる。
「私はカルイン学園学園長、アバル・ジャベリンと申しますわ。そして、隣にいるのが私の学園の執行会長ハロ・ババロア……よろしく申し上げますわレイ・クラウド学園さん、バハイン学園さんそしてズ・バイト学園の皆さま」
見事に私達のルイン学園を無視した発言をした後心底丁寧に挨拶を済ませてそのまま次の人に移る。
「でーは!次は僕ですかねー」
ヘラヘラした口調でくねくねと体を歪ませて次の番の男は立ち上がる。
「えーとっ!多分学園長の中で一番若いであろう僕ですが名前をシウラ・ラクシーと言います!隣に座って本を読んでいるのが我らがズ・バイト学園の執行会長カルア・コルクだ。まぁ今回はよろしくねー」
会議とは似つかわしく無い口調でペラペラと喋るシウラ・ラクシーは明らかに他の人たちを苛立てせる。
「さーってこれで自己紹介は終わりでいいよねー進行役さん?」
「私も問題ありませんわ〜」
「……」
レイ・クラウド学園のハル・クロニクス以外は全員同意し早く進行しろという目線を進行役へ送り早く先へ進ませようとする。
なるほど……無視ですか……
隣を見るとツルミがおどおどした様子で考えたく無いのかずっとご飯を食べている。学園長は途中から寝ているし、執行会長のリゼラも目をつむって寝てはいないが瞑想している。
真剣に聞いていたのはウタゲ一人だった。
「しかしですね……」
「あら〜どうかいたしました?」
「その……」
「あら?そこにいるのはルイン魔導学園の皆さまですの?気づきませんでしたわ〜」
進行役も明らかに四人、ルイン魔導学園がハブられているのを見て少しドギマギしておりなかなか進まないのにイラついたアバルが話を進める。
ルイン学園の方も答えられるのがウタゲしかいないので必然的に喋ることになる。
「はぁ……」
「久しぶりですわね。前年まではずっと学園長一人で来て何も喋らず何も意見せず聞くだけで帰っていくだけだったのに珍しいこともあるのね〜」
「そうっすよねー今日来た時びっくりしたなーまさか四人も席を取るとは思いもしなかったよー」
「へぇ……」
寝ているジルの気持ちもウタゲは理解し始め、もう返答は適当にし目の前にあるデザートに手をつけ始める。
「今年からあの最強と謳われた元帝国Sランク冒険者が学園長って聞いてたけどルーエと労力の無駄になるのがおちですわね」
「おい!そこの二人そろそろ止めんか見苦しいぞ」
「そうですわね」
「そうっすねー」
オルド・ベインがしびれを切らしたのか二人を静止する。
「ルイン学園の者共自己紹介を済ませろ」
オルドは二人を静止はしたが決してルイン学園側を味方している訳ではなくただ時間が惜しいだけで、見下していることに関しては一切変わらない。
だが、それを言われてもジルは全く反応しない。
「ルイン学園のジル・ドラド学園長そろそろ起きてもらえると助かります」
笑顔でハルがジルへ語りかける。
「う!む〜!」
わざとらしく、ハルに声をかけられてから起きるジル。両手を天井に掲げ大きく蹴伸びする。
「おい……若僧……わしに命令するでない少し黙れ……」
少し怒気を含んだ声で学園長のジルは王族であるハル・クロニクス睨みながら言う。
もちろんそんなことを意に返すことなくハルはお手上げと言った状態で座り直す。
「ルイン学園の学園長殿その言いようはないんじゃないっすかー」
「全くだわ!」
するとジルはゆっくりと椅子を引き立ち上がる。
「そうじゃなそろそろわしらは帰るかの〜ほら行くぞ三人とも」
「へぇー逃げるんすかー」
「いいんですの?発言しなくても」
そんなことを全く聞いていないジルはそのまま扉を開ける。そして三人を先に外に出しジルは振り返る。
「次の魔導修練際は楽に勝てそうじゃわい。カッカッカ!」
それだけ言い残しジルは会議室の扉を閉める。
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