94話 牛を終える

 割れた卵からは何とレア度Aの魔物が出現する。アキトはしまったと失態に気づくががもう遅かった。アキトは間違えて自分が使うはずの卵をルナに渡していた。


 ルナは卵を投げて中身を見ないで走り初めてしまったのでアキトも止めることが出来なかった。


 中から出て来た魔物はレア度Aのミルゲリオスだ。

 頭が牛で体は人の形をしている魔物で、人を型どってはいるが人間以上の筋肉を誇り背も二メートル半はある。片手には鉈を持っておりかなり気性が荒く、獰猛だった。

 アキトはレア度Aのミルゲリオスから出る禍々しいオーラは亜種だということがわかる。

 通常レア度がAより下のミルゲリオスは色が白と黒のまさに牛のような色をしているのだが、亜種は黒と青の色で構成されている。因みにレア度Sは黒色と赤色、レア度SSは黒色と金色だ。


 この「ランダム魔物の卵」は確かにレア度Aならレア度Aの魔物からランダムで選出されるが、極たまに亜種が出る仕様があり、かなり稀な事だった。


 レア度Aだとアキトのレベルが四十二なのでレベル四十程度で何とか倒せるAランクの魔物が出てくる。

 だが、亜種となると貰える経験値は増えるが、レベルがプラス十されレベル五十の人がやっと倒せる魔物となる。


 そんなことはつゆ知らずルナはミルゲリオスへ突っ込んで行く。アキトはその後を数秒遅れで追いかける。


「はぁあああ!」

「ヴァガァアウガア!!!」


 アキトはそのまま飛び込んで攻撃するかと思ったがルナは攻撃すると見せかけミルゲリオスの股下をスライディングし通り抜ける。その動きがあるとは思っていなかったのかミルゲリオスは馬鹿正直に後ろを振り返ってしまう。

 ルナの動きはそれさえもブラフでスライディングする途中片方の刀剣を地面に突き刺し急停止しその刀剣を軸に回転しミルゲリオスの右足首から先を切り飛ばすはずだった。


「嘘でしょ!!」


 刀剣の刃はミルゲリオスの足首に食い込んではいるが皮膚と筋肉、骨によって斬るまでには至らなかった。


 これは亜種による弊害だった。亜種になっている事で身体機能や外骨格など全てが格段に違う。


 片方の刀剣は差しっぱなので今のルナは無防備状態。

 ミルゲリオスは鉈を振り上げる。その一瞬をついてアキトは後ろからミルゲリオスの顔面めがけ左拳を振り抜く。

 だが、魔物の感知範囲は人間を凌駕する。

 顔はこちらに向いていないはずなのにまるで背中に目がついているかのような動きでミルゲリオスはアキトの腕を左手で掴み取る。

 その隙にルナが刀剣を引き抜き脱出したところを確認すると拳から手を開きそこから重力属性スキル<重力圧縮波/グラヴィティウェブ>を放つ。

 その直後ルナを逃したため攻撃対象がアキトに移り腕を掴んだまま片手で背負い投げされる。

 体勢が崩れ重力属性スキル<重力圧縮波/グラヴィティウェブ>があらぬ方向へ飛んでしまう。


「やっべ!」


 天井の一部に当たってしまいアキトは一瞬冷やっとしたが結構頑丈なのか振動すらせず少し表面がかけた程度だった。

 そのまま放り投げられたアキトは何とか空中で体勢を立て直し着地する。


「アキトどうすんの!」

「一旦仕切り直すためにこいつを倒そう。手伝ってくれー!」

「分かったわ!」


 感知範囲が亜種なおかげかかなり広いので後ろからの不意打ちの難易度がはるかに高くなる。

 ミルゲリオスは、身体能力は凄い高いが魔法やスキルを使わないのは幸いだった。

 レア度Sからは全ての魔物が魔法とスキルさらには超属性、固有属性を持っているので難易度はほとんどプレイヤーと対峙しているのと変わらない。


 アキトは最近あったばかりのルナとどう連携を取るか考えていた。

 だが、いくら考えても何も出てこなかったのでもう成り行きやるしかなかった。


 そしてそのままアキトは全力で走り出す。


 ミルゲリオスも後ろのルナのことはさっきの攻撃で問題ないと判断したのか一切目もくれずアキトの方に向かってくる。

 ルナはミルゲリオスに無視されたことにイラっときたのかミルゲリオスと同じタイミングで走り出す。


 アキトとミルゲリオスの距離が残り五メートル程度となった瞬間一瞬ミルゲリオスが笑ったような感覚に陥る。


 刹那ーー


「グルガヴァルバ!」


 ミルゲリオスは持っている鉈を後ろから走って来ているルナの方へに放り投げる。しかもその投げ方が走っている動きの中、流れるような動作で一瞬鉈がなくなっていることに気づけなかったくらいだった。

 軽く投げているように見えて異様な速度でルナの方へ向かっていく。

 

 ルナは迫り来る鉈を難なく弾き飛ばそうとし片方の刀剣と交わらせた瞬間に何か異変に気づいたのか即座に弾くのをやめ鉈をそのまま鉈の刃の上部を擦り合わせ受け流しながら飛び越える。

 受け流された鉈は軌道が下にそれ地面に突き刺さる。


 だが、その突き刺さった深さが尋常ではなく刀身全てが地面の中に埋まったのだ。


 ルナが受け流す方へシフトしたのはミルゲリオスの持っていた鉈が想像以上に重たく威力があったからだ。

 あのまま受けていたらルナが弾き飛ばされていた。

 ミリゲリオスはそのまま馬鹿正直に走り、迫るアキトに向かって右拳を振り抜く。それに合わせてアキトは重力属性スキル<重力拳/グラビティナックル>を放つ。


 その重力のオーラに包まれた拳を見て危険を感じたのかミルゲリオスは途中で振り抜いた拳を引くが気づくのが少し遅かった。

 重力を纏った拳の遠心力を抜くことによって一瞬引力が発生する。 そしてミルゲリオスが引こうとしていた拳を吸い寄せる。そして引力を再び拳が交わる時に重力に戻す。


 ミルゲリオスの拳はアキトの拳によって肩から先の腕全てを押し潰す。


「ぐゔぁががががぁぎゃがああ!!!」


 一回引いたのを無理やりこちらに引き寄せたので相手の拳の威力はいわばゼロだ。そんな無防備な状態で属性スキルを受ければこうもなる。


「今度こそ!!桜蘭属性両刀スキル<蘭華両断/キドルブレイク>」


 そしてその無防備になった所を後ろから二つの刀剣でミルゲリオスの首を刎ねる。

 先ほどとは違い固有属性スキルを使った刀剣の太刀筋が全く乱れずかなりの威力があるのでミルゲリオスの皮膚、筋肉、骨を簡単に斬り裂いた。


 斬られたミルゲリオスは綺麗な光を散らし消え去る。

 相当な威力だったのか、ミルゲリオスは何も発する事なく消えていった。


「アキトータスケテー」


 アキトは振り返ると固有属性を使いバテて倒れているルナが助けを求めていた。

 まだ固有属性の仕様回数は一回だけなので、ルナは自分の体を制御することが出来ない。天恵が空っぽになったことによる障害だ。


「大丈夫か……」


 アキトはゆっくりとルナを起き上がらせる。

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