91話 魔導書館

「言っておくが俺も特訓したいからここ使わせてもらってもいいか?」


 あれから一旦安全な地下の魔導書館の方へルナは妹のセナを戻しに行った。こう見えて別に仲は悪くない。


「当然でしょ私だけ強くなったって意味ないもの!」

「これだけ広い空間だから少し派手めでも大丈夫だろうがまぁまずは無難に行きますかな」


 ルナも普段から基礎トレーニングはしており、その観点は心配なかった。なので今回、アキトはまずルナの実力を測るところから始める。


「で、まずは何をするの?」

「最初はルナの今の実力を測りたいだから全力で戦ってほしい」


 ルナは一瞬悔しそうな顔をしたがすぐに普通の表情に戻る。


「それだと私の全力をかけてもアキトを倒せないみたいじゃない」

「いやその認識で正しいぞ」

「え?」

「……」


 変な間が数秒過ぎる。

 すると徐々にルナの表情が赤くなっていく。


「いや今のは嘘だ。多分ルナの実力は手に負えない」


 さっきのこともあるのでアキトは慌てて訂正する。

 実際の所まだアキトはレベル四十二なので、勝てるのかは分からなかったが少しからかいたくて言ってみただけだった。


「そんな事後から言われて信用出来るわけ無いでしょ!」

「まあまあ、やってみれば分かるって」

「へぇーいい度胸じゃない!」


 ルナは再びアイテムボックスの中から二本の少し湾曲した刀剣を出し、そのままルナはアキトに向かって走り出す。両手に持っている刀剣を体勢低く構え右腕は腕の力を抜き垂らすようにし、左腕は顎の前に持ってきてしっかり刀剣を構える。


 アキトはルナの接近をわざと許しどう出るか観察する。

 アキトとの距離が一メートル内になった瞬間ルナはその低姿勢から左手に持つ刀剣を下段から振り上げるように斬りかかってくる。


「はあっ!!」

「危なっ!!と」


 寸分狂わずアキトの首元を狙った刀剣は逆に軌道が読みやすくなる。アキトは刃ギリギリのところを斜め前に出て躱しルナとの距離を縮める。だが避けられるのは想定内だと言わんばかりの笑みで右手に持つ刀剣を軽くアキトに向かって投げながら後方へ約一メートル跳び接近を躱す。

 軽いスナップで投げられれた刀剣は一直線にアキトの眼球目掛けて飛んでくる。接近していたので躱す余裕がなく仕方ないので眼球に触れる間近のところで飛んできた刀剣の持ち手を掴みとる。

 普通下段からの振り上げで体重が前に行ってしまいそこから後方に跳ぶなど足腰のバネと柔軟性が秀でてないと出来ない芸当をルナは軽々とやってみせる。


 刹那ーー


「はぁああ!!」


 ルナが再び突っ込んでくる。アキトは咄嗟にルナの放り投げた刀剣の片方を振り上げ今さっきと同じ下段からの振り上げたルナの斬撃に合わせて刀剣をぶつける。刀剣がぶつかり合い火花が散る。

 すると、刀剣をぶつけたまま徐々にスライドさせ手首を返しアキトの持つ刀剣とルナの持つ刀剣の頭同士を合わせちょうど刃がS字を縦に伸ばしたようなフォルムになった瞬間三種類の魔法陣が刀身の頭を囲い一本の両刀となる。


 両刀となった途端拒否反応なのかアキトはその両刀を握ることが出来なくなり手放す。


 ルナはもう一度距離を取り初期の位置に戻る。


「これは面白い芸当を見させてもらった」

「ふん!別に見せるようなものじゃないわ!小細工はあなたには通用しないことが分かったからこっからは本気で行くわよ!」

「そうこなくっちゃね」


 ルナが持つ両刀の片方には火属性もう片方には光属性を纏い、刃が銀色から白く輝く。まるで透明なガラスのような触ったら壊れてしまいそうなくらいの儚さを感じ取れるような雰囲気を醸し出していた。


 これはOOPARTSオンラインでは見たことがない固有属性だった。両刀はあったがこんな綺麗な刃を持つものはアキトは見たことがない。

 この世界特有のもの。


「へぇ……私のこれを見て驚かなかったのはアキトが初めてよ」

「いや十分驚いているさ」


 未知なる体験は楽しみでもあるがやはり恐怖もある。まだこの機会だからいいがもし敵で出会った際対処法を見つけるのに時間を取られてしまうのでこの辺りのことは肝に命じておかなければいけないとアキトは再度認識する。


「アキトって分かりにくいのね……それじゃ行くわよ」

「よし!」


 先ほどとは打って変わってゆったりと歩きながらアキトへ近づいてくるルナ。右手にはさっき合わさったばかりの両刀を寝かせて携えている。ルナは少し歩いて止まり不敵に笑う。すると、両刃の片方、火属性の方が徐々にシーソーのように重力にしたがって下がり地面に触れる。


 その瞬間ーー


 いきなり地面から這い上がるように、高さが天井を突き抜けるほどの巨大な火の斬撃が出現する。咄嗟に回避行動を取ろうとするが良く見ると斬撃はあるのだが一向にこちらに放たれない。


「どういうことだ……」

「そんなに焦らずともすぐに放ってあげるから大丈夫よアキト!」


 ルナが持つ両刀が地面と水平の最初の位置に戻り次は後ろへ光属性の方が徐々に下がって行き地面に触れると今度は横の壁を突き抜けるほどの大きさの光属性の斬撃がさっきルナが作った火属性の斬撃と合体し十字架の斬撃が完成する。


「デカすぎだ。もっと規模ということをだなぁ……」

「アキトを切り裂きなさい!火光属性スキル<両刀二式火光斬撃/デュアルファライツ>」


 ルナが両刀を軽く振り上げると今まで静止していて溜まっていた分が発散されるように超高速でこちらに向かってくる。

 火属性と光属性が混ざり合っていてこれだけの規模を作り上げるルナの天恵は並みじゃ無い。

 斬撃は地を這うように地面を抉り塵芥を弾き、溶かしまばゆい光を放ちながらアキトの方へ迫る。

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