79話 追撃

 バルトの方へ注意を払っていた瞬間にアギトの懐までゲルルージが潜り込む。


 スキルを放ち、さらに追撃を加えてくる辺り戦い方が徹底されており、抜かりが無い。


 普通の魔物であれだけのスキルを放っていれば反動や放ち終えた後の硬直だってあるがそれすらも身体強化魔法でカバーし、さらに追撃の速度も上がっている。


「うぐぅえッ!」


 アギトは咄嗟のことで腹部を狙った攻撃を両腕を合わせるだけで精一杯だった。これは防御ではなくただ腕を相手の攻撃に合わせているだけなので力も全く入っておらずその状態のまま魔物の右手の殴打をもろに受けその衝撃の反発で自分の腕が腹部に抉り込む。さらに持っていた斧をその衝撃で落としてしまう。


 ゲルルージも腹部を狙う際、爪で攻撃してしまうとアギトの体に突き刺さり抜けなくなるのでダメージはあるがその後の反撃を躱しづらくなる。

 だからこそゲルルージはあえて爪での突き刺しではなく手のひらを畳むという動作を加えた殴るという行為での攻撃を選んだ。

 

 腹部に抉り込んだ腕のおかげで身体内の胃が圧迫され、消化待ちの食料達が逆流しだしアギトの食道を駆け上がってくる。

 そのまま吐きたいところであったがそんなことをした瞬間、死が確定するので何とか気合いで堰き止め逆流を止める。


 だが、ゲルルージからもらった反動は大きくバルトよりも森の奥の方まで飛ばされ途中何本もの木にぶつかるがあまりにも勢いが強いためそのぶつかった木をへし折りながら吹き飛ばされ威力が死んだのはちょうど十本目の木をへし折った時だった。


 アギトは最後の木に背中でもたれ掛かるように立ち上がり、状況を判断しようとするーー


「なっ!!」

「ヴガァアアアア」


 アギトに休憩という「休」の字もさせないようにすぐさまゲルルージが向かってくる。しかもアギトが飛ばされている途中から追いかけだしていてもう目と鼻の先にいた。


 そしてその勢いのまま今度は爪を向け地面と水平に構え、そのまま何の迷いもなく突き放つ。

 アギトは咄嗟に木の裏に頭を伏せながら回り込み回避するが木を抉ったゲルルージの爪は余裕で貫通しもう少し高く位置取っていたら首を持っていかれてたところだった。

 木に爪が刺さりその衝撃で木片があたりに飛び散りさらには木が折れ倒れてくる。アギトはそれを避けながらゲルルージの背後へ回り込む。


「これでもくらいやがれ!!」


 さっき飛んできた木片を二本を両手に持ち、瞬時に木片に付与魔法をかけ強度とダメージ量を上げる。

 そのまま振り返ったゲルルージの目玉目掛け木片を突き刺すーー


 だが、片方の木片は魔物の右腕に阻まれ弾き飛ばされ、もう片方の木片は目玉よりちょっと上の人間でいう眉毛あたりに命中する。

 だが、人間と同様魔物もそこには骨があり突き刺さるといっても程度が知れていた。


「クッソ!!」


 そのままアギトが地面に着地した瞬間、ゲルルージは上から両手で地面を思いっきり叩くようにアギト目掛け腕を振り下ろしてくる。

 落ちていた木片を再び拾い今度は貫通力と強度の付与をし振り下ろしてくる片手の平に合わせ回避しながらちょうど手の平と地面が接する場所を察知し、そこに木片を二つ突き刺しておく。

 それを知らないゲルルージはアギトが置いた木片に見向きもせずただ振り下ろす。

 ここでもアギトはわざとゲルルージに背を向けた状態で回避した。 最後までゲルルージが木片に気づかないようなるべくギリギリで躱す。


 当たれと!とアギトは心の中で願いながら、擦れ擦れのところで回避するがその衝撃が凄まじく回避は成功するが軽く十メートルは飛ばされる。

 だが、今度はゲルルージの追撃は無い。これはっ!と思い魔物の方へ顔を向ける。

 

 すると、手の平を地面につけその両手の平から木片が二つ突き出るようにゲルルージの手の平を捉えていた。

 貫通力を上げていたので何とか刺さりアギトは荒れる息を整えながら観察する。

 手の平を貫通した木片はゲルルージの血で赤く染まっているがその木片を抜きもせず、ずっと振り下ろした体勢のままで静止している。

 

 アギトは緊張からか全身から吹き出る汗を拭いながら次の手を考える。


 これだけの運動量と緊迫感でアギトは忘れていたがこの辺りはさっきから何故だか異様に暑い。


 するとゆっくりとゲルルージは起き上がり首だけこちらに向ける。

 何ともホラーちっくであり、さらに圧力がこれまで以上に膨れ上がっていた。アギトは背中から這うように出る冷や汗が止まらず、一瞬狼狽える。

 

 ゲルルージはアギトに向かってくる。しかも今度は両腕に闇属性の何らかの魔法を纏わせこちらにゆっくりと歩いて近づいてくる。


 今のゲルルージに殴られれば草木があろうとも軽々貫通してくるのでもう避ける手段がなかった。


 アギトはさっきまで戦っていたバルトがいる方へ少しずつ後ずさりしながらゲルルージから遠ざかる。

 それを追いかけるようにゲルルージはゆっくりと歩きながらアギトを追ってくる。


 そして約三十メートル程移動した時にそれは起こる。


 ゲルルージがいきなり左腕を自分の肩の位置まで振り上げ、軽く水平に振り下ろす。本当に軽く思えた動作だったがアギトは瞬時に伏せていた。

 もうこれは見てからの行動ではなく体が勝手に感じ取った危険信号だけでアギトの意思とは関係なく脳が命令し実行した、ただそれだけだ。

 その刹那、振り払った軌道をなぞるように闇属性の魔法の刃のようなものが辺りにある木ごとアギトを狙って切り落とされる。

 

 木や石、葉やその軌道にいた小さい魔物達を何の抵抗もなく軽く切り落とす。その範囲はゲルルージの腕先から約五十メートルはある。


 アギトは地面に伏せそのようなことを考えていた刹那ーー


 目の前には何故だかゲルルージの足が写りこみそのままアギトに近づいてくる。その時、時間の流れがゆっくりと進む感覚に陥るがその事象を無くすことや回避することは出来ず為す術もなくアギトの顔面にゲルルージの蹴りが炸裂する。

 蹴り飛ばされた瞬間、目の前の景色がコロコロ変わりアギトは自分が今上空に飛ばされていることを確認する。

 鼻と頬骨が粉々に折れていて目が片方潰れている。視界が時々周りの景色から真っ白に切り替わりまたちょっとすると景色に戻るのを繰り返す。


 そしてそのまま元いた位置に着地するが受け身をとる体力はなくそのままの勢いで地面に着地する。

 幸いなことに土が柔らかかったためこれ以上のダメージには殆どならなかったがだからと言ってこの状況は何も変わらない。

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