バルトの過去

75話 幼少期

「兄ちゃん属性ってどうやったら使えるようになるの?」

「バルトお前にはまだ早ぇよ。家族の仕事でも手伝ってな」


 バルトの兄アギトは、八才で属性を扱えるようになり、村の中の才覚者として期待されていた。

 バルト自身はまだ六才で、属性はほんの少ししか扱えなくアギト程の実力は無かった。

 これでも凄いことだと村では言われ今は最強の兄弟とまで呼ばれている。

 そして、二人の妹のナナミはまだ属性は使えないが期待度としては村一番だ。


 アギトは、家の仕事量を半分にしてもらい魔法やスキルの練習をしに森へ出て行くようになった。

 バルト達が住んでいるヘイゲ村、他の村に比べ小さい村だ。


 ヘイゲ村は全体で八十人程おり。百人以下の村は小規模な村とされ五百人以上が中規模、千人付近は大規模もしくは街となり千五百人以上になると完全に街になる。

 村や街になると必ずしもリーダー的存在が必要となる。街になればその土地を収めている貴族が当主になったりその貴族が指名した者もしくは住民から一番信頼を得ている者が当主になる。

 ただ、小さな村だと貴族に納税さえしていればいいので殆ど関心を持たない、なので殆どの村では村内の一番信頼を得ている人、一番支持されている人が村の長となり統括する。


 だからといって一家族に全てを任せるのではなくしっかり皆で考え、皆で村を発展させられるように村全体が一丸となって長をサポートする。


 そして、バルトの両親と祖父母はこの村の長を任されている。この中でのトップは一応祖父ということにはなっているが基本家族みんなで決めそれを村の人達と相談しあいながら村を発展させていた。


 この村の収入は主に、家畜や農産物になるので子供達は毎日手伝いに駆り出されていた。


「俺も兄ちゃんに付いていきたい!」


 今日も森の方で魔法とスキルの特訓するアギトにバルトは付いて行こうとする。

 最初の頃は父や母が付いて教えていたが、アギトはもう一人でこなせるようになっているので流石にアギトはバルトの面倒を見る事は出来ない。

 このヘイゲ村は、北から東側を森が占めていて南が街、帝国の方へ続く道が整備されていて、西が川も流れる平らな草原になっている。


 大概アギトに付いて行きたいと言うとダメだと突っぱねられるから今日バルトは父と母に許可を得て来た。


「いいわけねぇだろ!」


 アギトはバルトの頭を押さえつけるように弄る。


「今日は父さんと母さんにも許可は得たよ」

「そう言う問題じゃねぇ!」


 そう、何があろうとアギトは一回もバルトを特訓に連れて行ったことがない。

 バルトはこの歳ながらに頭をこらし考えるが全くいい答えが出てこなかったので今回は諦めることにした。


 アギトが連れて行ってくれなかったのでバルトは西の方にある草原まで出て来て一人、内緒で特訓していた。


 森からはたまに魔物が出て来る。

 アギトはその奥の方で特訓するのでまだバルトの力では後をつけることが出来ない。最初、興味本位でバルトはアギトにこっそり付いて行ったことがあった……だが、途中出くわした魔物に腰を抜かしてしまい何も出来なかった。

 たまたま通りがかった村の大人の人に退治してもらったから助かったがそのめぐり合わせがなかったらバルトは確実に死んでいたんだ。


 その時の恐怖から森の中へは一人で行くことが出来なくなった。

 なので、バルトは森の中へ入るために強くなることを決意した。


 バルトはちょうど草原と川、多少木が何本か生えている場所に来て止まる。


「ふぅー」


 両手を広げ胸いっぱいに空気を吸い込み十秒後に吐き出す。この辺りの空気はいつ来ても新鮮でとても清々しくバルトは必ずここへ来たら深呼吸をしていた。


「よし!!」


 そして、バルトは自分の頬を二回叩き喝を入れる。

 まずは準備運動を兼ねてランニングとストレッチから始める。三十分程体を動かし温まってきたら魔法、スキルや武器の特訓開始だ。


 バルトの家系は代々火属性魔法、スキルを得意としている。属性は母親譲りで父は魔法やスキルは使えないが様々な武器を使え、さらに帝国の元騎士でもある人だった。


 今は結婚してこの村に移り村の仕事を手伝っている。


 バルトは一本の木の向かいに立つ。


 今日使う武器は斧だ、約十五キログラムある。バルトは父と同じようにどんな武器でも扱えてさらに母と同じ火属性も使える。

 だが、どんな武器でも扱えるが、初見ではやはりぎこちなさがあるのである程度慣れておいた方が良い。


 斧の先を地面に付け、肩の力を抜き狙いを定める。狙いはちょうどバルトの身長で言うところの腰の位置辺り。


「いっくぜぇええええ!!」


 バルトは一心不乱に斧を振り上げ狙いを定めた場所に斧の刃が水平に入るように一気に振りかざす。

 振りきった斧はバルトが狙っていたところにピタリと命中し木の幹に突き刺さる。ミシリと奇妙な音が鳴り響きその木に生えている葉を揺らし生えていた木の実がいくつか落ちてくる。

 だが、バルトはそんなことを気にも止めず幹を切り倒すまで何度も斧を振り続ける。

 ずっと一緒の方向からではなく様々な方向から様々な切り掛かり方で刃を入れていく。


 そのまま何本かの木を切り倒し、今日のノルマをクリアする。

 昼休憩にしようと母に作ってもらった弁当を片手に川辺まで行き食べる。

 片手で持てる程のバスケットの入れ物を置き蓋を開けようとする。


「痛っ!」


 バルトはバスケットの蓋を触った瞬間腕と手が痛む。

 さっきまで無我夢中で気がつかなかったが、この一週間殆ど毎日仕事合間に斧の特訓をしているので手の皮がむけて豆ができ、腕も筋肉が悲鳴をあげていた。


「はぁ〜斧の特訓はしばらくお預けかな……」


 バルトは斧は基本片手で操作していて今回は利き手ではない方の左手で斧の特訓をしていた。

 それもついに今日で終わりだ。

 なぜなら利き手の右は二、三日前にもう既に豆が潰れて物を持つことが出来ない程になってしまっている。

 バルトは昼ご飯を食べたらもう少しやっていこうと思っていたが手の治療もしたいので今日はここまでにした。


 村に帰ってみると何やら村中の人達がバルトの家に集まり何やら騒いでいた。

 それもかなり深刻そうな顔でバルト父と母、祖父と祖母もいて皆仕事どころではなかった。

 バルトはなんとか人混みをかき分け父の元へ近く。ナナミはバルトの祖父の膝の上にちょこんと座っている。


「ただいま父さん」

「バルト……」

「どうしたの?父さん」

「よく聞きなさい……アギトが魔物に襲われ行方が分からなくなった」


 それを聞いた瞬間、バルトは森の方へ走り出していた。

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