74話 図書
アキトの目の前にいる少女は、物凄く眠たそうなトロッとした今にも溶けそうな目つきをしていて、髪色は桜蘭のような白とピンクが綺麗に混ざり合った色合いなのだがボサボサの髪型で原型がよく分からない。
シロネより少し大きいくらいで身長はそれほど高くないむしろ低いくらいだ。黒が際立つ目をしていて、寝ていたのかよだれのあとが口元に残っている。
アキトは一瞬、幽霊かと思ったが冷静になって見るとこの学園の制服を着ているので安心する。制服もダボダボで袖のサイズが合っていないのか手の平が見えない。
呆気にとられて脳内では色々思考を巡らせているが体の言うことが聞かないアキトは驚きすぎて一種の硬直状態になっている。
その少女はアキトに気づいておらず、そのまま眠気まなこを擦り、片手には熊みたいな魔物のぬいぐるみを持ちながら直進し、アキトの腹部に顔を衝突させる。
「ふぐっ!」
「あ、危ない」
少女はアキトにぶつかりそのまま後ろになすがまま倒れていく。アキトは咄嗟にその少女を抱きかかえる。
「だ……大丈夫か?」
「すぅ……ぅ……」
少女は寝息を立ててもう寝ていた。
「呑気なやつだなぁ……」
アキトはその少女を抱きかかえたまま奥の部屋を覗く。そう、この少女は間違いなくここの本棚の奥から出てきた一体何者なのか疑問に思っていた。
本棚の奥は、下へ続く階段が続いており明かりが所々に設置してある松明だけで、視界はお世辞にも良いとは言えない。
寝ている少女を図書館にある読書スペースのソファの上に寝かし、アキトだけで下の階へ続く階段を降りる。
途中崩れ掛けの階段や湿った天井など色々な意味で怖い面が浮き出ていてプレッシャーが半端ではなかったがどうにか辿り着き、階段を終え、扉を抜ける。
「なんだこれ……」
アキトは地上階の五倍以上の広さはあるとんでもなく広い部屋に辿り着く。さらに、本棚が所狭しと並んでいて上ほど綺麗ではないが汚いなりに何とか整えているって感じだ。
そのまま本棚の間をざっと歩く。
本棚には綺麗な新品みたいな本から触れるだけで破けそうな本まで所狭しと本棚からこぼれ落ちそうなくらいの量が置いてある。
上ほど薄暗さはなくむしろシャンデリアや松明で外と変わらぬ明るさがある。だが別に目がチカチカするほどの強さという訳でもなく、とても心地よく読書ができなおかつ目に優しい明かり加減だ。
それに、上と変わらぬ赤い絨毯が本棚との間に敷かれていて、踏み心地は地下の方がしっとりしている。
アキトはその絨毯を踏みしめ少し進むとソファとテーブル、それに紙とペンが置いてあるちょっとした空間を見つける。そこは、綺麗に円状に直径約三十五メートルほどのスペースでソファなどもまだ生暖かい。
「いろんな物があるなぁ……」
色々な物を物色し、アキトは本を選んでいると上の方で床と何かが擦れる音がして最後に大きい木のようなものが穴に収まる音が響いた後、辺りが一層静かになる。
「おい、待て待て待て!!」
アキトは嫌な予感がしたので、急いで元来た道を辿り上への階段を全速力で登る。
「はぁーはぁー……くっそ!」
嫌な予感は的中というかもう途中から分かっていた。
そう、入って来るときに開いていた本棚が今はきっちりと閉まっていたのだ。
一定時間が経つと本棚が閉まる仕組みになっている。
だが、さっきの少女は中から出て来ていた事をアキトは思い出し、本棚の辺りを探り、どっか押せたりしないか色々物色してはみたがどこにそれらしいものは無かった。
「うーんどうしようか……」
アキトは幸いなことに今日はこれから用事がない最悪明日誰かに見つけてもらえばいいし、和衷協同でシロネに助けを呼ぶことも可能だしまぁ焦ることはなかった。
「おーい!!開けてけれー!!」
助けを呼ぶだ。
一番手っ取り早く向こうで寝ている少女が起きて開けてくれるかもしれないのと、他の人がたまたま入って来るかもしれないという希望に賭ける。
「ふぅ〜」
結局、短い間隔で呼びかけていたが誰も来てくれはくれなかった。 この図書館自体人が来るのが珍しいのにこんな時に限ってくるわけがなかった。
「さてと、どうするか……」
もうシロネに助け呼ぼうかなと思い、アキトはちょうど本棚の裏側に当たる面に手を付き、和衷協同を発動しようとした瞬間。
「うわっ!!」
本棚が動き扉のように開く。扉自体を押し込めば勝手に開くようになっている仕組みだ。
案外早く、アキトは地上階へ戻りさっきソファに寝かせて置いた少女の様子を見に行くが、少女の姿は既に消えていた。
さっき下で感じたようにまだ生暖かくさっきまで寝ていたのは間違いなかったがどこかに行ってしまった。
アキトは下の階で面白そうな本がいくつかあったのでそれを借り、魔導書館を出る。
空を見ると日が落ちる寸前で辺りを真っ赤に染め、草木が風によってなびいている。
「さてと、寮に帰りますかね」
アキトは若干の空腹感と喉の渇きによって寮に向かう足が速くなる。
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