64話 犯罪


「お!アキト〜みんなこっちのクラスにいたのかよー」


 アキト達に手を振りながらバルトはウタゲの横に移動する。

 いつも通りの能天気ぶりだ。

 皆、バルトと目を合わせないように顔を伏せたり目を逸らしたりしていて乗り遅れたアキトだけが目を合わせてしまう。

 無視は可愛想なのでアキトは手首を適当に手を振り反応を返す。


「あーほらっ自己紹介しろ」

「了解ウタゲちゃん。俺はバルト・ベルだよろしくな!」

「ウタゲちゃん止めろつった……だろうが!」

「危ねっ!」


 ウタゲの右ストレートをギリギリで躱すバルト。

 バルトも反射神経は良いので体が勝手に反応してしまう。いつもなら追撃を加えてただろう場面だったがウタゲは流石におふざけが過ぎたことを悟ったのか切り替える。


「はぁーまあいい。で、こいつのせいで遅れたと言ったが、昨日未明……女子寮に男が忍び込んだという報告を聞いてな。最初は私の所に他の先生達からクレームが嵐のように来たんだ。そりゃ黒聖クラス担当だから真っ先に犯人扱いだまったく。そんで今日蓋を開けてみたらなんと白聖クラスの奴がやったことが分かったんだ」


 ウタゲは一度バルトを見て、話を続ける。


「んで、こいつは寮の塀をよじ登って侵入したんだが……実は学園カードには一つ隠し機能が付いていてな、本来は立ち入り禁止の区域、ここで言う学園外とか男でいうと女子トイレや女子寮、その逆もそうでちゃんと正規に手続きをして入らないと学園の方に証拠が残る仕組みになっているんだ。そんで今日バルトは一発アウトくらって即黒聖クラス落ちってわけ」


「いやぁ〜それほどでも〜」

「ほめてねぇっ!!」

「痛でぇッ!!」


 今度はちゃんとバルトの頭にげんこつがヒットしその痛みでバルトは悶えている。身長差があるのでウタゲがちょっとジャンプして殴るのはなんか可愛らしく見える。


「ほっら席行け」

「うっす」


 バルトはニコニコしながらアキトの後ろの席に着く。


「で、どうだお前さんはこれで気が済んだか?」


 さっき意義を申し立ててきた貴族令嬢にウタゲが投げかける。


「えぇ、確かに理由は分かりました。ですが、分かった方が尚悪化していると思うんです。何故そんな平民が白聖で、わたくしが黒聖なのですか!!」

「この学園では地位は関係ないとなっとるだろうが……面倒臭い……」


 教卓に頬杖を付き呆れた表情でウタゲはその貴族令嬢の相手をする。


「ええ確かに学園の方針は知っていますわ。ですが、わたくしがこんな初日からありえない行為を犯す人と一緒に学んでも何の効果もありませんし、なんといっても不愉快ですわ!」


 確かにその通りだとアキトは強く思う。初対面でバルトが犯した行為を見れば確かに煙たがる気持ちも分からなくはなかった。

 ただ、一緒に学んでも何の効果がもないと言うのはまた違う。

 バルトも結構実力あると思うんだがなぁ……とアキトは思うが、二次試験に参加していないのだからそう言われても仕方が無かった。


 アキトはウタゲを観察しているとふと思いつめたように顔を伏せる。そして、これでアキトは何となく察してしまう。

 そう、ウタゲは笑いを抑えるために顔を伏せただけだ。

 決して、誰の心配も、生徒の意見も真剣になど聞いていない。


「確かにそうかもしれんな。名前を何という?」

「私はセア・レインと申しますわ」

「そうか、ならセア・レイン、好きな平民出身の奴と戦わせてやるよ。そんでセアが負けたら大人しく言うことを聞く。で、選んだだやつが負けたら平民出身のやつら全員このクラスから追い出そう」


 まさかここまでとは……

 アキトは嫌な予感が当たり、顔を抑える。

 エル達もみんな引きつった顔でウタゲを見ている。さっきのバルトの件もあったのでみんな強く言い返せないのだ。

 あと、勝負の対価のバランスが取れていないのが少々鼻につく。こっちは全員出て行くんだからあっちもそれくらいの対価を差し出してもいいもんだが……

 アキトだけではなくこれは他のみんな思った事だが、これもバルトのせいで言い出せる訳もなかった。


「そう……それならいいわ」

「どうせこの後は施設案内だ。ついでに闘技場でやっていこうか」


 そしてウタゲはアキト達が座る反対側に座っている人達を睨みつけ。


「おい!他にもいるんだろう。この際面倒臭いからやりた奴は名乗り出ろ!!」


 どうやらどうしても激しいことをしたいらしくさらに発展させて行くウタゲを見かねて流石に止めに入ろうかと思ってアキトが口を開こうとした時ーー


(このままやってやろうじゃないかアキト)


 シロネから和衷協同で話しかけてくる。さっきより他のみんなの目も意外とやる気に満ち溢れていて受け入れている様子だ。


「面白そうじゃねぇかよ……」


 後ろでバルトが口を滑らしていた。


(はぁ〜分かったわーったよ。やればいいんだろ……)


 やるならやるでアキトも火に油とさらに着火剤を加えてもっと燃やしてやるつもりで、口を再度開く。


「どうせなら元平民対元貴族チーム戦ってのはどうだ」


 アキトは大きな声でしっかり聞こえるよう言い、他の人を煽っていく。


「いってくれるわね」

「平民にも身の程知らずがいたもんだ」


 わざと元をつける事で煽り、それを聞いた他の人もみんなウタゲの案に賛同した。


 とりあえず適当に学園内の案内をウタゲがカンペをみながら興味のなさそうに棒読みで進めて行く。

 アキトやトルスにしてみれば殆ど知っている場所なのでウタゲ同様殆ど聞いてなかった。


 そして、闘技場に向かうにつれて徐々にウタゲの口調のテンポが良くなり、説明の終わりが近い事を知らせてくれる。


 最後に二次試験でも使った、ルイン魔導学園競技場第一施設に到着する。


 一度経験しているのでそれほど驚くことはないがやはりこの大きさには何度見ても感服させられる。

 今日はドーム状の天井は閉まっており、二次試験の時よりアキトは少し閉鎖的に感じてしまう。だが、天井がかなり高いので高さ制限は無いようなものだった。


 到着してすぐ、アキト達は控室を貴族チームと平民チームで別れて作戦会議の時間を貰う。


 作戦会議の制限時間は三十分設けられるーー


「さて、作戦だがどうしようか?」

「「力でゴリ押し」」


 アキトは皆に聞くが一番にアキトとトルス二人は波長を合わせたかのように同時に言う。


「相手の戦力がどれほどかわからないし今回は見渡しが良い、ただの闘技場だ。立地条件を活かすことが出来ない。だから、普通に前衛中衛後衛と役割分担するのが無難じゃないかな?」


 エルが呆れたアキトの表情と今にもバルトに手を出しそうなユイを見て、エルが即座に提案する。


「いいかも……」「うむそれがいいのじゃ」


 みんな思っていたことはほぼ一緒だったのですぐに決まる。後はある程度段取りを決めて作戦会議終了だ。


 人数差はアキト達に合わせるという事になっているのでそういった有利不利は無い。

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