63話 令嬢

 次の日の朝。

 アキトは朝のトレーニングを終え寮の一階にある食堂で朝ごはんを食べていた。トルスとエルも一緒で三人で食べていた。


「アキト元気ないけど大丈夫?」


 アキトの顔色を見て察したのかエルが心配してくる。


「あ、あぁ大丈夫だ」


 アキトはベッドが良すぎて逆に眠れず、いつもに増して隈がひどいので体調悪そうに見え、エルが勘違いしてしまう。


 それから制服に着替え、アキト達三人は黒聖クラスの寮を出る。


 授業をする場所は本棟と呼ばれ、学園の入り口の近くにそびえ立っている。収容する人数に対してかなり大きく、寮以上に立派な作りになっていた。


 靴を履き替えることはなくそのまま二階に上がり黒聖クラスの教室を目指す。


 クラスは胸につけているバッジの色で判断できるので一発でアキト達が黒聖クラスということが一発でわかる。


 ちょうど黒聖クラスの扉の前に着き、先頭がアキトだったのでそのまま開ける。


「お!アキト、エル、トルスおはようなのじゃー」


 シロネがアキト達に気づき手を振ってくる。近くに居たというか膝の上にシロネを乗せていたエーフも同時に気づく。ユイはその隣で机に突っ伏し寝ていた。


「ああ、おはよう」「おはようー」


 教室の中は黒板の向かい側に半円を描くような横長の机が四行あり、シロネ達がいる方へ行く。


 明らかに試験には居なかった人達も座っていたので扉開けて声かけられたアキトは気恥ずかしかった。


「なぁ、二次試験で合格したの三十六人だよな……なんで黒聖クラスだけで十五人いるんだ?」


 アキトはシロネに小さな声で尋ねる。

 黒板には名前が張り出されており、数えてみると合わせて十五人も居たのだ。


「そんなの全部推薦者に決まっておろう」

「え?推薦者ってそんないるの?」

「確か今年は試験で入ったのが三十六人、推薦で入った者が四、五十人じゃったかの……聞いておらんのか?」

「いや、聞いてない」

「今回はこれでも少ない方」


 アキトが寝ていたかと思っていたユイが答えてくれる。


「なるほど……」

「それに推薦者はほとんど貴族など地位のある家の長男長女、次男次女が殆どで、試験を受けてた貴族の人たちはみんな次男次女以下の子達らしいよ」


 周りの貴族に聞こえないようエーフが耳打ちで教えてくれる。


 そして、そのままシロネ達が座っている後ろにアキト、トルス、エルの三人が並び授業開始まで少し時間があるので談笑したりして時間を潰す。 時間が経つごとに徐々に人が入ってきてどんどん席が埋まっていく。


 そして時間になるが一向に先生が現れる気配がない。

 最初の一発目の授業を遅刻である。


 授業開始時刻から二十分後ようやく扉が開く。

 全速力で走ってきたのか息を切らし、前かがみになりかなり辛そうな表情をしながら勢いよく入って来たので真っ赤な髪が揺れる。


「ちょっと……用……事が……入ってな……お遅く……なってすまん……はぁはぁ」


 ウタゲは息を整え黒板の前に立つ。

 そのあとからシェルも入ってきて、アキトやエルなど顔見知りの人達は皆顔を背けていた。


「えぇ〜こほん。まずは私から自己紹介といこうか。私はウタゲ・ミルよろしく。んでこっちが補助で付いてくれるシェルだ。これから三年間よろしくな」

「よろしくね〜」

「「よろしくお願いします」じゃ」


 遅れているので集中力が切れている人や、ぼーっとしている人等様々なのにも関わらず、挨拶だけは何故か揃う。


「一ついいかしら?」


 すると、貴族のご令嬢を絵に描いたような金髪縦ロールの女性が手を挙げる。かなり良質に育った上下、筋肉が付いているようには見えないほど滑らかで柔らかそうな肌をしており、口調からかなり強気な女性だという事が分かる。

 手には白いオペラ・グローブのようなひじ上から二の腕まで至る長い手袋をしている。


「ん?なんだ」

「全く、遅れてくるなんて信じられません。それにわたくしが黒聖クラスなんて信じられませんわ!こんな方々と一緒だなんて!!」


 その貴族令嬢はアキト達がいる方を一瞬一瞥し、すぐウタゲの方へ視線を送る。

 言われた等の本人のウタゲ先生は一切悪びれる様子もなく逆に心底嫌そうなな顔をし、その問いに答える。


「えーっとなまず私が遅れた原因だが……いや言うよりはその原因となった人物を見た方が早いな。そいつに言ってくれ」


 ウタゲはシェルに目配せし、それを嬉しそうに受け取るとシェルは扉を開ける。

 そして、そこに立っていたのは二次試験で優勝し白聖クラスへ行ったはずのバルト・ベル本人だった。

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