51話 重み
PvP……OOPARTSオンラインでも別に珍しいものではなくよく起きていた。
相手を倒したからといってその相手のアイテムがドロップするわけでもなくただ倒された相手がその場所から消えるだけで、あまり意味のある行為というわけでもなかった。
ただ、ゲームをやっていればそういう輩は絶対いるもので、たまにそういうPK(プレイヤーキル)だけを専門に行なっている人もいた。
だが、無意味なPKをすると世界チャット(ログ)に表示され誰が誰を殺したか分かるようになっていた。なので、すぐにそう言う奴らは淘汰されていった。
当然、決闘スタイルで力比べする者やランキング上位者に挑戦している者も多数存在し、相手が了承していれば全く問題無かった。
アキト達三人はよくそう言う奴らに絡まれたり、決闘などのPvPを求められることが多かった。
もちろん三人が高額課金者なのは周知のことだからだ。
最初の内は慣れなかったり、課金したてなのでよく負けていた。結構な回数PvPをこなしそれに比例して課金額も増えていくと徐々に挑んでくる奴は減少していった。
それからは身内でけんとジグの三人でよく戦っていた。
二人共規格外に強く、かなり良質なトレーニング方法だ。その経験もあってこのレベルでもなんとかなっていた。
そして、今目の前にいるハヤトはアキトが察するに全く全開で戦っていない。
ハヤトはアキトの拳の打撃に合わせて自分の拳を合わせる。骨と骨が擦れるような鈍い音を両者の拳が奏でる。
「いくよ!!超天気属性魔法<高速の梅雨前線/ベインフロント>」
その瞬間、ここまで雲ひとつ無かっのにも関わらず、徐々に雲が集まり曇天になり雨が降り出す。
魔法陣が十個上空に出現しアキト目掛け巨大な水の柱が飛来する。
アキトは咄嗟に一発目をバク宙で躱し後方へ跳ぶ、着地したまませくぐまり、その反動で二発目をバク転でさらに後方へ跳ぶ。
アキトはバク転で翻っている瞬間さっき水の柱が着弾する所を見ると一メートル四方のクレーターができていた。
この硬い会場の石版を水の水圧だけでぶち壊したのだった。
「うぉっと!!」
「なんという量の水柱だぁああああ!!アキト選手大ピンチだぁああ!!」
アキトはその威力に感想を言う間もなく三発目と四発目が同時に飛来する。
「うgぅ!!」
正面と後方から飛んで来たので思いっきり体を捻りアキトは右に跳ぶ……そこには待ち受けていたと言わんばかりの顔をしたハヤトの蹴りをもろに左脇腹に受けてしまう。
だが、その瞬間にアキトは重力属性スキル<重力圧縮波/グラヴィティウェブ>を攻撃受ける箇所に発動しその蹴りをそらす。
蹴りをそらされたハヤトは即座に後方へ戻る。
再び五、六発目が左右を塞ぐように軌道を変え襲いかかり曲がった水柱はうねりながら約時速七十キロでアキトを確実に捉える。
アキトは直撃する直前、自分に重力属性魔法<重力強制/グラヴィティフォース>を発動する。するとアキトは一瞬で地面に張り付くようなほふく前進体勢になる。
「痛っつ!!」
この魔法は対象を二つ選びその二つの対象物を引力によって強制的に引き寄せる。今アキトは自分と地面を設定することによって地面側にアキトが引き寄せられギリギリで水柱を回避した。
その代わりとんでもない速度で引き寄せられたので顔面を強く打ち付け顔から鼻血がだらだらと流れ落ちる。
だが、そんな鼻血のことなんて御構い無しに七、八発目が迫る。
アキトはすぐに魔法を解き、頭の方と足の方から地面を抉りながら迫る水柱二本を腕の力を使いプッシュアップの要領で腕の力を主に使い、高く跳躍する。
これは水柱を躱す程度の跳躍力しかでないので躱した瞬間その勢いで立ち上がり次の水柱の様子を確認する。
だがもう既に九発目が上空からもう迫っていた、その距離残り十メートル。
クッソこれもギリギリか……
アキトは心の中で悪態をつきながら躱そうと足を動かした刹那ーー
地面が揺れアキトは体勢を崩す。
そして、その地面の揺れの原因となる水柱が下からアキトを今度こそ確実に捉え、上空に吹き飛ばされそのまま上から迫る水柱と下から迫る水柱をもろに受け、全身が押しつぶされそうなくらいの水圧を受け、落下する。
そのまま地面を二転三転さらに四転する。
ハヤトの奴、やるじゃないの……
アキトはハヤトを賞賛する。
雨と今くらった水柱のせいでアキトの体は全身濡れていた。そのせいで服が重くなりかえって邪魔なので脱ぎ捨てる。
「すごいね、今の攻撃をそれだけのダメージで躱し切るなんて。次はどうやってやろうかなー」
ハヤトは相変わらず楽しんでいるように笑う。
その余裕を見て、アキトはやり返すため駆け出す。ハヤトに一直線で向かい途中濡れた靴が重かったので脱ぎ捨てる。
ちょうどハヤトとの距離二十メートル……アキトは突然急停止し地面に両手触れる。
重力属性スキル<地に伏す者/グラヴィティグランデ>
スキルを放った瞬間ハヤトの動きが止まる。そして上空にあった雲が会場まで降りてきて濃霧状態となり視界が悪くなる。
徐々にハヤトの視線が下がっていく。重さに耐えられないのかついに地面に膝を付ける。
「こ……これ……は……」
そのまま両手のひらを地面につけなんとかギリギリで耐えている。
重力属性スキル<地に伏す者/グラヴィティグランデ>は対象物を二つまで選び、その対象物に加重をかけるスキルで選択したのはハヤトと上空にある雲だ。このスキル範囲はアキトを中心として二十メートル、高さが二千メートルになる。
この加重量は物体の重さ×10^2Xである。Xの部分は一時間ごとに一加算されていくが今回の戦いでは殆ど意味をなさない。
そして今ハヤトには百キログラムの負荷が全身に均等にかかっている。百キログラムをただ持っている感覚という生易しいものではない。
「その状態では動けまい……」
そんな状況でも笑顔を壊さないハヤト。
アキトはそのまま動かないハヤトに向かっていく。
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