39話 知らせ

「アキトちゃんシロネちゃん一次試験突破おめでとう〜」


 皆がいなくなり静かになったところでホルドが祝ってくれる。

 シロネも女性陣二人に連れて行かれている。


「まさか、シロネちゃんまで入学試験受けてるとは思ってもいなかったわん」

「ありがとうございます。俺もシロネは結構予想外でした」

「ま、ここからまだ二次試験が待ってるから気を引き締めてね〜」

「それと、シロネちゃんのこと頼んだわよ」


 ホルドはさっきまでと声のトーンをいきなり変えてくるのでアキトは一瞬ビビったが、すぐ切り替える。


「それはーー心得てますよ」


 そう言うとホルドはいつもの柔らかい表情に戻り、夜ご飯の準備があるからと厨房の方へ戻って行った。


 帰ってきたら女性陣だけでも話しといた方がいいだろうとアキトは考える。もしもの時、事情を知っていた方が何かと動きやすい。

 だが、教えるリスクもあるので難しい問題だった。


 アキトは部屋に戻り、アイテムの整理を始める。

 アキトのアイテムボックスはこの世界の人たちよりもかなり膨大だ。

 これはホルドで実証済みで、常人よりも多いと言うホルドが持つアイテムボックスの容量を見せてもらったが、アキトの十分の一もなかった。


 なので、アキトはただのアイテムボックスの整理もかなり大変だ。

 今日までで、全体の六分の一程終わっている。

 三十分ほどアイテムボックスの整理をやって、アキトはベットの上で皆が来るのを待ちながら今日の一次試験の事を考えていた。


 アキトは試験最後の行動を少し後悔していた。

 一人でやるのではなく、皆を上手く使えば、もっとリスクを減らす事も可能だった。

 これはOOPARTSオンラインの時の癖で、けんとジグがいなくなってから一人でやっていたのでアキトはまだその癖が抜けていなかった。


 次からはなんとか我慢しよう……

 そうこう考えていると一階の方が騒がしくなる。


 アキトは一階に行くと、バルトとユイ、エーフ、シロネの姿があった。


「おーアキトか今二次試験について喋っていたところじゃお主も入るのじゃ」


 シロネはアキトに手を振りこっちに来いと合図する。


「二次試験といっても内容が分かんないんじゃ意味なくないか?」

「それが、過去の学園の二次試験の履歴を見てみたんだけど一次試験がチーム戦だと二次試験は絶対に個人戦になってるの」

「その逆もまた然りじゃ」

「よく調べたね」

「ま、まずはみんな揃ってからじゃがな」


 話しているとちょうどいいタイミングでエルとトルスが戻ってくる。


「なるほど……確かにぶっちゃけもしチーム系になったとしても一次試験である程度は感覚を掴んでるし、個の試験に狙いを定めるのもいいかもしれない」

「そうだな、俺もそれに賛成だ」


 みんなも同意してるようで、そろって頷く。


「よし、わしが皆を強くしてやるのじゃ」


 シロネが大々的、自信満々に宣言する。

 だが皆、シロネの事を詳しく知らないので本気では受け止めていなかった。


「シロネがか?またまた冗談を」

「ほう……」


 バルトがバカにしたような言い方で言う。

 さようならバルト、死ぬなよ……

 アキトは心の中で念仏を唱えながらバルトの行方を見守る。


 ユイとエーフは一番近くにいたからなのかシロネが急変した事を悟る。

 シロネは飲み物を啜り、静かに言う。


「バルトよ、お前だけはわしが相手をしてやろう」

「お!そうこなくっちゃ!上等だぜ!!」


 バルトは上機嫌に笑う。

 特訓といっても今日はもう日が落ち始めているので明日からとなった。


 その日の夜ーー


 シロネが寝たのを確認し、みんなに集まってもらっている。

 宿屋パイオニアは夜は夜で昼とは醸し出しているオーラが変わる。


 少ない灯の中、それぞれ固まらず好きなところに座ってホルドからシロネの話を聞く。

 勿論、ホルドはアキトに話した事の全てを話すのではなく、上手く切り取って伝えて大丈夫な部分だけ話す。

 これは、ホルド最大の配慮だった。


 ユイとエーフは特に熱心に聞いており、エーフに至っては最初は目元に涙を浮かべていたが、途中からはホルドを睨みつけているようなぐらい目に力が入っており力が入りすぎている。


 因みにバルトはいない、今日までは元の宿屋で過ごし、明日妹を連れて来る。後日バルトには聞かせる事にしている。


「はい、話しはここまでよん。今日はもう寝なさいな」


 そう言われアキト達はそのまま自分達の部屋に戻る。

 終始誰一人、口を開かず静かに戻って行った。


 アキトはホルドに事前に話があると聞いていたので一人残る。


「ごめんなさいねぇ〜すぐ終わる話だから」


 ホルドはそう言ってアキトの座っていた机の向かいに座る。


「全然構いませんよ」

「で、話しって言うのはね。一次試験のことなの……どんなことがあったのか話してもらってもいいかしら?」


 ホルドは元試験官の補佐をやったこともある人で、今日の出来事に興味があった。

 アキトは一次試験で起きた出来事を詳細に嘘偽りなく述べる。

 最後の方はホルドも眉を顰めていたがアキトは気づかないふりをして話を終えた。


「成る程、そんなことが……大変だったでしょうに」

「そんなことありませんよ結果論でしかありませんが、こうやって一次の合格も勝ち取れましたしね」

「こんなことを聞いたのもね……貴族や王族達の方までこの話は耳に入ってるらしいの」


 アキトはそのことについて質問を出そうしたが手で静止させられる。

 ホルドは続ける。


「私の知り合いの冒険者がそっちの情報に強くてね教えてくれたわ。流石にここまで来た以上何かして来ることは無いと思うけど一応警戒はしといたほうがいいと思ってね、言いたい事はそれだけよ」


「いえ、貴重な情報ありがとうございます」

「それじゃ、アキトちゃんおやすみ〜」

「はい、おやすみなさい」


 そう言ってホルドは厨房の奥にある自分の部屋に戻る。

 アキトは自室のベットに仰向けに倒れこみ明日からのレベル上げのメニューを考える。

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