11話 初戦闘

 アキトとシロネの二人はシロネが言っていた、北にある街へ行くため歩いていた。

 アキトはシロネに吸血鬼は日差しに弱いんじゃないのかと聞いてみたが、どうやら人間とのハーフでその特性が弱く、あまり関係ないという。


 吸血鬼と人間のいいとこ取りだった。

 そして今向かっている街の名は、リ・ストランテ。帝国領の街の一つで帝国が保有する街の中で三番目に大きい街だ。

 帝国領は国の周りを囲うように街がありその街と街の間に小さな村が多数点在している形になっている。

 食品関係の生産が強く、シロネが言うには美味しい食べ物が多いという。


 アキトとシロネはあの後すぐに森を出て、今は何も無いただの草原を歩いていた。


「そういえば、お主ルーエはもっとるのか?」


 ルーエとはこの世界の通貨単位である、一ルーエを日本円に換算すると一円と同価値である。

 この通貨単位はOOPARTSオンラインと全く同じで、アキトのゲームアカウントには上限値最大までルーエを持っていたが、全て女神に持っていかれた。


 なので、今現在無一文、無一ルーエである。


「いや、持ってないが……」


 シロネは残念な人を見るような目でアキトの方を見つめる。


「よくそれで旅なんてしようと思ったのう」


 それは、俺の方が言いたいと心の中でアキトは叫んでいた。


「ルーエが入るまではわしが立て替えといてやる」

「すまない、恩にきる」


 アキトは手を合わせ謝罪する。

 天気も良好で、とても気持ちの良い旅になっている。

 序盤の滑り出しは好調だった。


 シロネが言うにはリ・ストランテまでは歩いて三日程かかり、そこまで遠くない距離にあるという。

 シロネは何度かその街には行ったことがあるらしいので特に道に困ることなく進んでいる。


「ここら辺って魔物って出ないのか?」


 アキトはさっきから思っていたことを口にする。

 転生してからスケルトンにしか会っていないアキトは他の魔物も見てみたかった。


「ほとんど出んぞ、ここは街から近い、冒険者や騎士どもが大方討伐しておる。あの街の冒険者はなかなかに優秀での……まぁ、帝国におる冒険者の方はもっと強烈じゃが……」


 それを聞いて楽しみが失せるが逆にアキトはこれまで不安しかなかったが、強い人がいるというのはとても興味深く、楽しみが増えた。


「まぁどの国もいつ戦争が起きてもいいように戦力を蓄えておる、今はそんなに不仲でないからいいがの」

「なんでそんなに情報知ってんだ?」

「各国に偵察用スケルトン送ってるからの」


 シロネは何でもないように答える。

 バレたらやばくないのかとアキトは思ったがシロネがやることだったので、特にぬかりはないだろうと考えそれ以上何も言わなかった。



 その夜、アキトとシロネは野宿をしていた。

 足を休めるような村もなく仕方なくだったが、アキトは人がいるとこういった野宿も楽しかった。

 今はあの森の時のように焚き火を挟んで向かい合わせで座り夜ご飯を食べていた。


「さて、早ければ明日街に着く。そこでの方針を固めようと思うのじゃが」

「そうだなぁ、まずは冒険者登録し冒険者で活動し資金を貯めつつ情報収集するっ感じかな」

「まぁ無難じゃの」


 会話終了。

 昨日からそうだったがあまりシロネとベラベラとおしゃべりをするというよりかは、必要な情報を的確に言うだけで特にそれ以上の話はしていなかった。

 流石に気まずいと思ったアキトは話を切り出す。


「シロネは、死霊術の他にどんな魔法が使えるんだ?」

「そうじゃのー、氷結魔法とか影魔法を使えるぞ」


 これは、すごい……

 アキトは素直に関心する。

 この二つはOOPARTSオンラインで特に人気が高かった属性ベスト十内の属性だった。

 OOPARTSオンラインでの属性はまず、自然属性が全ての根本の属性でそこからツリー状に枝分かれして色々な属性がある。

 自然属性から火、水、土、風、雷、特異と六つの属性に分かれており、特異は闇、光(聖)二つからなる全八つの属性がある。

 そしてこの七つの属性からまた枝分かれしていき、さまざまな固有属性に別れる。

 氷結魔法は、水から氷、雪に分かれ、氷をさらに極めたものになる、取得に相当な時間が必要になる、なのでシロネはかなり強いことがわかる。


 属性同士を混ぜることによっても固有属性ができる。

 なので固有属性は人によって多種多様になり、レベルが上がる程同じ属性を使う人が減っていく。

 OOPARTSオンラインでは、レベルが上がる度に属性ポイントが貰え、これは課金者、非課金者関係なく同じポイントである。

 それを後は自分で好きなように属性に振ることによって自分だけの魔法やスキルをカスタマイズできる。


 スキルを撃つのに必要なものがSP、魔法がMPと言い、それらはこのカスタマイズで自己流に出来る。

 魔法とスキルの差は魔法はMP(マジックポイント)がなくなると撃てなくなるが、スキルは一定時間が経つとまた撃てるようになる所だ。


「お主はどんな属性を使うのじゃ?」


 この質問には少し困るところがあった。

 アキトは、ただいまのレベルが十なので特にこれと言ったものを使える訳では無かった。

 アキト自身はどんな属性を取得してきたかは当然分かっているが、言ったところで発動出来ないので、下手したら嘘つきとなる。


「えっと、闇系の属性が得意かな」


 アキトは、当たり障りのない所の解答を返しておく。


「闇属性とはまた特殊なものを……ま、お主には似合っとるかもの」


 おちょくるようシロネは嗾けてくる。

 「ふんっ俺が極めた闇魔法を今度見せて驚かしてやるんだからね、覚えておきなさい」アキトはと心に留めつつ、そろそろ寝る体勢に入る。


「お!もう寝るのかの」

「ああ、今日は疲れたからな」


 アキトの場合は寝る体勢になるだけで眠る訳ではないので少し意味合いが違う。

 シロネもアキトが寝る姿勢を見ると、同様に寝に入る。


**


 やっぱり寝付けないでいること二時間くらい経った頃ーー

 アキトがアイテムボックスにあった本を読みながら、半分寝ているとシロネから急に和衷協同を使った声が頭の中に入る。


(起きろアキト、数人こちらに近づいてくる敵がおる恐らく数は五人)

(さっき冒険者がそこそこやるみたいなこと言ってなかったか?)


 シロネは緊張感があまりなく、そのせいでアキトは緊急事態感があまり感じられなかった。


(あやつらは手薄になる夜に活動するからの。それに隠れることに関しては一流だからのあやつら。それに、モンスターより人間の方がよっぽど醜悪じゃ……で、どうするアキト)


 初戦闘が人間だとは思ってもいなかったアキトだったが、動くと言ってもアキトの戦闘能力は低い。


 これだけだと難しいか……

 アキトはアイテムボックスに入っていたただのナイフを取り出す。


 OOPARTSオンラインの時とは違って、痛覚があるし疲れもする、なのでHPが例え残っていたとしても常にベストな状態で動ける訳ではない。

 これは女神からのアドバイスだった。

 その辺りのOOPARTSオンラインとの差を考えつつ戦いに慣れないといけない。


(とりあえずシロネは何人相手に出来そうだ)

(今すぐにでも全員殺せるぞ)


 キョトンとした声ですぐに返事が返ってくる。

 その解答はすごく心強いが同時に心配にもなったアキトだったが今はなりふり構っていられない。


(じゃあ俺に戦わせてくれないか、シロネは適当に援護頼む)


 クスッと一瞬笑ったあとシロネは了解の意を伝えてきた。


(で、作戦はあるのか?)

(そんな姑息な作戦立てても恐らく意味ない、どうせ相手も気づいているはずだ正々堂々正面きってやりあう……それだけ)


 それを聞いてシロネはこちらに近く。


「お主、意外とそういうの好きなんじゃな。てっきりもっと知的なイメージじゃったんだが……」

「まぁね」


 そして、さっきシロネが居た場所に盗賊四人が姿を現す。


 四人……

 その人数を見て一瞬アキトはシロネの勘違いかと思ったが、すぐにもう一人隠れているという事に気づく。

 目の前の盗賊四人はみんな男で屈強な肉体をしている。武装もそれなりにしており、決して弱そうという感想はアキトには無かった。

 そして、真ん中、リーダー格の男が声をあげる。


「ほう、こちらが来ることが分かっていたとは、これはこちらも危ないか。タンターとエドフは俺とケナの援護を、恐らくそちらの小さい女の方が後衛だ」


「「わかりました!」」


 盗賊のリーダー以外の三人が了解を示す。

 しっかり統率が取れている、こりゃ捕らえるのは難しいか……

 アキトがそう思った瞬間ーー


「アキト!避けろ!!」


 シロネが叫んだのと同時に一本の矢が飛んで来る。しかもそれが途中で三本に増え二本がアキトを一本がシロネを狙い飛来する。

 アキトは体を捻り間一髪で避け、シロネは自分の顔の前で矢を片手で掴み取る。


 アキトが矢に気を取られた一瞬を狙って二人が距離を詰めリーダー格の男はアキトをもう一人のやつがシロネを狙う。

 リーダー格の男は魔法で強化された腕でアキトに殴りかかる。

 右ストレートがアキトの顔面に向けて飛んで来るがそれをアキトは右手でいなし短剣を持つ左手で右脇腹辺りに短剣を突き刺そうとするが魔法で強化されてるためか刃が一ミリも通らない。


 すぐさま、アキトは距離を取るように離れる。


「ほう……俺の殴りを避けるとはなかなかやるじゃないか」

「そちらこそ」

「リーダーのジーニスだ」

「俺はアキト……」


 お互い名を言い合い不適に笑う。

 さっきまで居た後衛の片方がいない。

 恐らく、シロネの方に回ったか……

 アキトは、目の前にいる男ジーニスと一対一という形になり、緊張や恐怖心もあったがそれを抑えてどうしても好奇心が前に出て来てしまう。


「盗賊のくせしてコンビネーション良すぎやしない?」

「当たり前だ、チームワークは大切だろぅアキト」

「当然だな!」


 アキトは思いっきり地を蹴り、ジーニスの元までつめ寄ろうとするがその瞬間今度は一本だが属性の付与された矢が飛んで来る。

 その矢を放つことを分かっていたようにジーニスも同様に距離を詰める。


 アキトは急ブレーキをかけまずは矢をワンステップ右にずれ躱す、勢いは削がれたがそのまま突っ込もうと思い視線を矢から戻すと先ほどよりも速くアキトの元へジーニスは詰め寄っていた。


 そのままジーニスは魔法が付与された拳で殴りかかってくる。

 避けれないと悟ったアキトは両腕をクロスしガードの体制に入りその上から振りかざされた拳を思いっきり食らう。


 もの凄い重い衝撃が腕の皮膚から骨へそして脳へと響く。

 そのままアキトは軽々と吹き飛ばされ木に衝突する。


「カハぁッ!!」


 痛ってぇ……

 木が勢いを殺してくれたとは言えど、背中に走る痛みは相当なもので同時に腕も赤く腫れ上がり、さらにミミズ腫れのような症状を起こしていた。


 アキトの腕は悲鳴を上げていた。


「よく守ったな。今のをもろにくらっていたら立ち上がれなかっただろう」

「アキトよまだやっていたのか、暇だったから後ろのやつも捕まえてきたのじゃ」


 すると、緊張感のない声が響き渡る。

 シロネはそのまま軽々と男四人を地面に放り投げる。


「手助けはいr」

「いらん」


 シロネの問いにアキトは即答する。そして、それと同時にレベルが一上がる。

 レベル十一からは、スキルや魔法がレベルごとに解禁されていく。


「成る程、お前よりそっちの女のほうを優先すべきだったか……」


 ジーニスは冷静に考察する。


「仕方ない……スキル<質実剛健/プロテクション>」


 このスキルは全身体能力を向上させさらに上乗せして防御をあげるスキル。

 ジーニスは腹を括ったのかさっきよりも集中力が上がっていた。


「ここまで分が悪くなるとはな……」

「撤退して貰ってもいいんだけど」


 アキトはおどけてみせる。


「フッ……生憎俺はおつむが弱い、撤退という言葉は聞いたことないなッ」


 そう言って、ジーニスは地を思いっきり蹴り飛ばしアキトへこれまでよりも速く接近して来る。


「スキル<赤手剛拳/ブラストバーン>」


 ジーニスの右手が赤いオーラを纏い、拳の大きさが二倍以上に膨れあがる。そのままジーニスは手を開き、腕を振り抜く。

 アキトの胸元を狙ったジーニスの掌底をギリギリの所で地面に手を付きしゃがんで回避する。


 そのまま木にジーニスの掌底がぶつかりその衝撃で木が折れ木っ端微塵吹き飛ぶ。


 この隙を狙いアキトはこのレベルで撃てる最大の攻撃を仕掛ける。

 左手拳に一瞬で意識を集中させアキトはOOPARTSオンラインの初期の頃を思い出す。


「重力属性スキル<重力拳/グラヴィティナックル>」


 隙ができたジーニスの腹に思いっきり左拳を突き刺し、内臓を抉るようにめり込ませる。


「あがっはぁ」


 殴られた部分に重力の波が放たれさらにジーニスの体を再度抉る。

 そして、そのままジーニスは血を吐きながら失神し、地面に倒れる。


「まあ、そうなるよね」


 アキトは手についた冷たい氷を払い、ジーニスが死んでないか一応確認する。

 アキトにとって初めての戦闘はあっけなく幕を閉じた。

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