8話 転生ってこんな感じだっけ?

 大抵の場合オンラインゲームは、始めた時チュートリアルで操作方法や自分の強化の仕方など基礎的なことを教えてもらえる。

 そこで大概、経験値が貰え大体レベル十から二十くらいまでは一気に上がったりするものだ。

 レベルが上がるごとに使える項目が増えて行き、項目ごとに説明を受け最初は進み慣れていく……

 OOPARTSオンラインでは、チュートリアルが進むに連れて使える項目が徐々に増えていく型であり、チュートリアルでレベル十までは上がるようになっている。

 このチュートリアルはあくまでもゲームの話であって、現実ましてや異世界なんかでそんなことがあるわけがない。


**


 アキトは辺りが草木が鬱蒼と生い茂る森の中で目が覚めた。

 今、大の字で仰向けに寝ている姿を確認し、アキトは自覚する……どうやら転生したらしいと。


 そして、ふわっと起き上がり、ステータスを確認する。

 この辺りは、OOPARTSオンラインと殆ど変わらない。

 ステータスを見たいと少し思うだけでそれに反応し、目の前に表示される。


「レベル一か……」


 アキトはレベルを確認すると、まずはこの辺り一帯を歩いてみることにした。


 十分程歩いてみてアキトはこの森はとんでもなく広いではないかという予測をたてる。

 まだアキトの憶測にしかすぎないが何故か、森が終わる気配が感じられなかった。


 そして、魔物(OOPARTSオンラインで言う敵モンスター)の姿すら見えなかった。

 さらに、アキトには気づいたことが一つ、アイテムボックス欄とか装備欄等その他諸々見れない……と言うよりか無いことに不安を抱いていた。


 アキトはレベル一なのでその辺りがまだ解放されていない状態だ。なので装備品も使用できない、アイテムも使えない、かなり危機的状況にアキトはいることになる。


 女神が言っていたが、OOPARTSオンラインではステータスは自分で割り振ることができる……だがこっちの世界ではその割り振った通りに上がるだけだからもう自分でステータスをどこに振るかと考えることは出来ない。


 つまるところ過去の自分を信じるしかない。

 だが、止まってても仕方ないと思い、アキトは適当にまっすぐ歩き始める。


 途中湧き水を見つけ水分補給しつつ、今はご飯について考えていた。

 OOPARTSオンラインは料理の再現度も凄かった。

 実際にある料理もそうだが、ゲームだけでしか味わえない果物や野菜、肉といった物からそれらを使った料理は頬が蕩けるほど美味しかった。

  だが、この森には植物は生えていてもそういった果物、果実といった類の物が一切見当たらない。


 アキトは嫌な予感しかしなかった。


「これは終わったかもしれん……」 


 ーー嫌な予感的中。

 そしてそれは直ぐに現実になる。

 一日中歩いた結果全く先が見えないことが判明し、アキトは絶望の淵に立たされていた。


 空腹、疲労、水分不足といった問題の諸々が出てくる。

 今は、真暗な中適当な大きな葉っぱを何枚か見繕い布団代わりにして寝ている。


 灯りは一切無し。


 アキトは最初、火を付けようと頑張ってはみたがあんなの素人に出来るはずもなくただの体力の消耗にしかならなかった。


 今は疲労の方が大きいが次第に空腹や水分不足が如実に現れる。

 レベル一のままではスキルも魔法もままならない。

 アキトは半分諦め掛けており、精神状態的にも参っていたので疲労感と合間って直ぐに寝に入る。


 次の日ーー


 アキトは目を覚ますと目の前にとんでもない物が現れていた。

 真っ白な骨で構成された小学生くらいの身長のスケルトンだ、しかもなぜか一体だけ。


 その一体だけなのに関わらず、アキトは心の中で確信する「絶対殺される」と。

 このサイズのスケルトンはOOPARTSオンラインでは大体十から二十レベルの敵だ、今のアキトには倒す手立てがない。


 アキトはもうやけになり二度寝を敢行する。


 だが、そのスケルトンはアキトを攻撃する事なくただただ見守るだけだった。

 通常の敵ならプレイヤーを見つけた時点で自動的に攻撃してくるはずだが全く動く様子がない。

 寝たままのアキトは目をゆっくりと開け、今の状況を確認する。


 こうなるともう一つ考えられることがある、それは誰かに使役されている魔物ということ。

 そうなると近くに誰かしらいることになる。なので、先ほどからアキトは首が回る範囲で周囲を見渡していたが、人の気配は無かった。


 だが、結局このスケルトンはアキトが動こうが、小突こうが微動だにしなかった。

 そこでふとアキトは考える「こいつ倒したら経験値入るんじゃね」と。

 なのでアキトは思いっきり振りかぶりスケルトンの顔面を殴打してみる。


「痛っ!!」


 殴ってもビクともしないスケルトンとは打って変わり、アキトは手が腫れ、自分がダメージを受けてしまう。

 アキトはスケルトン討伐は即座に諦め、また森の終わりを見つけるべく仕方なく歩き出す。


 アキトは歩き出して数分後すぐに休憩していた、思った以上に水分不足と空腹がダブルパンチで効いている。しかも、さっきのスケルトンのせいで無駄に疲れてしまったのもあるだろう。


 休憩を繰り返し、少しずつだが進んでいる気がした。

 あと、もう一つ凄く気になることがアキトにはあった……


 アキトはゆっくりと後ろを振り返りそいつを見る。


 そう、さっきのスケルトンがずっとアキトの後ろをついて来ているのだ。


 アキトとの距離を上手く保ちながら……まるでストーカーだった。

 ただ、アキトも前日以上にそいつに構うほどの体力は無い。

 今はただ前を向いて歩くだけだった。


**


 あれから数日がたった。

 アキトはまだこの森の中を抜け出せていない。

 ただもう昨日から彷徨うことさえ出来ず、昨日からずっと寝ている。

 空腹はもう限界突破してもうお腹空いていおらず、水分は昨日の雨でなんとかなった。ただ、疲労が抜けることはなくもう諦めて寝ている。


 寝ると言ってもアキトの体質上殆ど寝た気にならないから今でもクマはくっきりある、ただもうこれ以上体力を消費しないようにしているだけだ。


 ちなみに、今だにスケルトンはついて来ている。

 疲労が限界を迎えたのかアキトはすっかり眠ってしまっていた。アキトの中ではめちゃくちゃ久しぶりだったのでもうちょっと寝てたかったが目を開ける。


 するとすっかり辺りは暗くなっていた。


 そして、驚いたことが三つあるーー


 一つ、さっきまでの寝ていた場所とは違う。

 二つ、向かい側に人がいる。

 三つ、スケルトンが増えている。


 アキトは脳内でおぼつかない頭で整理しようとしていると、その向かい側にいる人物が声をかけてくる。


「おお、やっと起きたのじゃな」


 そう言うとその声主は近づいて来た。

 今までアキトと焚き火を挟んだ向かいだったので姿がうまく見えなかったのでこれが初めての対面となる。


 背丈は女子小学生四年生の平均身長くらいで、肩あたりまでの長さ、ラムネのような透き通った水色の髪、綺麗な青い瞳で八重歯が象徴的で、着物を着ている、見た目はすごく若い女の子だーー


「大分疲弊しているの、まずは水でもの飲むのじゃ」


 その子はOOPARTSオンラインでよく見るアイテムボックスから透明な入れ物に入った水を渡して来た。


 アキトはそれを受け取ると一気に飲み干し、さらにおかわりをもらう。

 その子はこちらを見ながら驚いていた。


「すごい飲みっぷりじゃの、あ!そうだ食べ物もあるぞ」


 そういってアキトからは見えない側から焼かれた果物、肉、魚などを振舞ってくれた。


 そして、それをアキトは無我夢中で食べ尽くした。

 一息つくと、アキトは落ち着きを取り戻す。


「心から感謝します」


 アキトは息をするように綺麗な土下座体勢に入っていた。


「な、な、なにをしとるのじゃ。そこまでせんくてよい」


 その子は慌てて止めに来る。


「はぁーまったく……わしの名はシロネ・ラムじゃ。よろしくの」

「シロネさん……?」

「さん付けはやめんか、むず痒くなる。呼び捨てで構わん」

「俺の名前はアキトです。よろしくお願いします」

「敬語もやめんか。普通に喋ってくれて構わん」


 距離がある喋り方が嫌いなのか少し怒り気味でシロネは元の位置に座る。


「なぜ、アキトはこんな森におったんじゃ?」

「とある人を探して旅をしていてね、そこでこの森で迷ってしまって食料も水も尽きてしまったんだ」

「人を探すか……少しくらい協力出来るかも知れん、そやつの名前を教えてくれ」


 アキトは、ふとけんのことを思い出すが、この世界でどう名乗っているのか謎なのでOOPARTSオンラインのアカウント名なのか、本名なのか分からない。

 悩みすぎててもしょうがないのでアキトは自分の中でこれだろうと答えを出す。


「ラミルって言うんだが……」


 それを聞いて少しシロネは悩むが、すぐ悩むのをやめて結論を出す。


「すまん、知らんの〜」

「最初から自分で探すつもりだったから大丈夫だ、わざわざありがとう」

「礼はよさんか。わしもそう言われたから聞いてみたくなっただけじゃ」

「それでも……助けてくれてありがとう」

「分かった、分かった」


 少し会話が無く、焚き火の音や風で草がなびく音だけが二人の間に数分流れる。

 するとシロネはふとこれまで下げていた顔を上げる。


「よし!わしは与えるものは与えたんじゃ、次はわしとの会話に付き合ってもらうぞ」


 そう言うとシロネはまた小悪魔のような表情で微笑む。

 本当なら疲労感がまだ取りきれていなかったので寝たいとこだが、さっきまで寝ていたのでその言い訳は絶対に無理だった。


 あと……いつこのスケルトンいなくなるんだろう……

 アキトは少し考えるが、途中からは考えたら負けだと自分に言い聞かせシロネの話に耳を傾ける。


 まだまだ長い二人の夜は続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る