6話 友の死を経て
けんが亡くなって一年が経過した寒い冬の事ーー
璃屠は、あれからちゃんと学校には通っているが様子が明らかに変わった。
璃屠の母は色々と試し、励まし、鼓舞してきたつもりだったが、母親以上に璃屠にとってけんの存在は大きかったのだ。
璃屠の母は璃屠に進学するのかどうか訪ねてみたが、通信制大学に通うと言っており、これは変わらない意思だ。
ここまで来ると、義務感で動いているのだ。いくら自分の心がズタボロに壊されていようと学ぶことはしなければならないという義務、ただそれだけで動いている。
月が部屋を照らす中、母は酒を煽りながら今日もまた同じことを考える。
最近飲む量増え、体重も増え、幸せは減っている気がする母はため息をつき外を見ながら椅子に深くもたれかかる。
「ん?」
璃屠の母は冷蔵庫が閉まる音がしたのでそちらの方をみてみると一葉が一人飲み物を物色していた。
「おーい一葉、飲み物持ってこっちこいこい」
捕まったという少し微妙な表情をした後、一葉は言われた通り飲み物を持って向かいに座る。
「どうしたの?お母さん」
「少し話そう」
一葉はキョトンとした様子で、飲み物を飲み始める。
「璃屠の様子は最近どうだ?」
ぶっちゃけ母よりも妹の一葉の方が接しているのでそこらへんはよく分かっている。
「ほとんど、あのCRってのに入ってるよ」
「たまに出てるって思ったら。部屋で筋トレしてるよ」
「あと、大学の説明会とかも受けてるみたい」
通信制大学はCRで授業を受けることも可能だ。今の大学は通信制がほとんどで、わざわざ足を運んで学校に行くことは殆どないので特に問題にはならない。
「でもずっとあのゲームやってるみたい」
そう言うと一葉はすっと目を伏せる。
いつも元気な一葉をあんまり感じられない。
結局あの日、けんが亡くなったことを母が伝えた時、最初は信じていなかった。だが、ニュースやちゃんとした証拠を見せて現実を受け入れさせた。
璃屠は、以外にも冷静で現実をちゃんと受け止めたかと思った……だが、それは母がそう思っていただけで、日が経つにつれどんどんおかしくなっていった。
次第に、部屋に籠りあんまり出てこなくなってしまいずっとゲームにログインしている。
「すまんな、一葉こんな頼りない親でさ」
その言葉を聞いた瞬間一葉は伏せていた顔を思いっきり上げ、興奮するように言う
「そんなことないよ! 大丈夫だから、いつも通りに接してあげることが重要なんだから」
そう一葉は強く言う。
「一葉ありがとうな。一葉も無理はするな」
そう言うと、一葉は私の目をみながらはっきりとーー
「家族なんだから当然です」
一葉はびしっと指を突き出し私の顔目の前まで伸ばす。
母は降参と言わんばかりに両手をあげ、無抵抗の意思を伝える。
そして、けんを殺した刹那悠紀という男はあの日けんを殺した後、警察に自首し、これまでの殺人の経緯、方法、証拠を全て自分で出し捕まった。
九十八人を殺したので当然相当な騒ぎになり、ニュースやワイドショー、世間を賑わせその年最悪の事件となった。
当然、悠紀は法廷で即刻死刑判決を下され、もう二度とこの地に足は踏み入れないだろう……だが、悠紀は取り調べの中もう一人を殺す筈だったということを言っており、それが璃屠だった。
それを聞いた時はこれまでにない衝撃を受け、璃屠の母も心臓を締め付けられるような日が続き、体調を悪くするほどだった。
だから隣に住むけんの母、ひいては璃屠の母の幼馴染の剣崎優子に母は恨まれると思っていた。けんは死んで璃屠は生きているのだからそういった類の恨みは覚悟の上だった。
だが、優子はそんなことを微塵も感じさせない、むしろ璃屠を可愛がり慕ってくれた。
母にとってそれは本当に感謝しかなかった……
ふと母は一葉の様子を見ると、うっつらと半分目を閉じかけていてとても眠そうだった。
「呼び止めて悪かったな、もう寝なさい」
「うん、そうする。おやすみお母さん」
「ああ、お休み」
そう言うと一葉は立ち上がりふらふらと自分の部屋へ戻って行った。
「さて、そろそろ私も寝るかな」
お酒の缶をゴミ袋にまとめ玄関の前に置いておく、明日ゴミ出しな。
母はそのまま自分の部屋に戻り、就寝した。
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璃屠は一人で考えていた。
けんが死んでから璃屠はうつ病と診断され、さらに睡眠不足が加速しOOPARTSにログインしていない時のほうが辛いところまで来てしまった。
今もOOPARTSオンラインの結社三人で作った高台に登ってぼーっとしているところだった。
「ジグさん……俺はあなたを許すことが出来なさそうです……」
璃屠もあまり考えたくはなかったがここに来るたびに思い出してしまうので何回か消そうかとも迷ったくらいだ。
そして璃屠は、一時は自殺すら考えたが、その考えはすぐに打ち消された。
一葉や母さんには迷惑かけたくないからだーー
ひとえに死ぬといってもどんな死に方であれ誰かしらに迷惑をかけることには違いないので、そこは理性で何とか耐え切った。
妹を泣かせる兄、母を泣かせる息子など一番やってならないという思いが強かったからだ。
ただ念のため、璃屠は死亡保険など色々な保険に入っておいた。
これは璃屠の勘……もあるし、あまり学が無い璃屠にとってはこれくらいしかなかった。
そして璃屠はあれからさらに課金をしまくり、ついに一億五千万を突破した。
さらに言うとけんが死んでから璃屠はCR自体にもう三億入れていた、これでもう現金に戻すことは不可能となった。
残りは一億五千万……あとは、この金をどう使うかを一人寂しく考えるだけだ。
璃屠はガチャのしすぎで一杯になったアイムボックスを次から次へと拡張していく。
璃屠は最初、この事件を知った瞬間は、ジグさんに会って殺しに行ってやろうかと思って憤怒していた時もあったが、死刑が決まったので落ち着きを取り戻している。
そのせいもあって最初の頃は心配され、一時期病院生活だった。今は、ゲーム内の結社ランキングは徐々に落ちて今は三位に落ちていた。
TOP5に入ってからも璃屠は一心不乱にやり続けて遂に一位を勝ち取った、しかしもうその時には一緒に喜べる仲間は一人もいなかった。
そっから徐々にゲーム自体に寿命が来ようとしていたのも明らかだった。
プレイヤー数も減少していき、初期からやっているプレイヤーはもう殆ど引退してしまった。ゲーム内のフレンドももう殆ど今はやっていない状態だ。
もって、一年くらいだろうなと璃屠も考えていた。
**
その一年が経過し、璃屠は大学一年生の最後を迎えた。
それと同時にOOPARTSオンラインも幕を閉じようとしている。
今日は二人共出かけているので今は誰もいない。一葉は夜ご飯を豪勢にしようと買い出しに行き、璃屠の母はいつも通り仕事。
今日は土曜日プラス最後ということでオンライン人数がゲーム発売直後並みにいる。
初期からいた人や璃屠のフレンドも結構な数の人がログインしている。
もうアキトはこの三日前に全額課金を果たしている。全部ガチャと装備やアイテム……買えるだけのものは買い切った。
璃屠はOOPARTSオンラインの結社の自室で色々と過去のアイテムや戦歴などを見ていた。
そして色々見た後最後に、ふと目に入った個人戦闘力ランキングを眺める、一位はアキト、二位はラミル、四位にジグの名前がある。
アキトとけん(ラミル)はほぼ同立、けんももしものために、もうあの日の前日に全ての課金を終わらせていた、これも奇跡かどうかわからないがジグさんも同じような状態だ。
だから、これだけしてもアキトとけんの差は変わらないし五位までは殆ど僅差だ。
アキトは開いていたランキング覧を閉じる。
最後はこの結社で迎えるため、結社の中を歩く、そして二人の部屋を覗きかつての二人を思い出しながら思いに耽る。
あまり長居すると泣きそうだったのでアキトは数十秒見たらすぐに部屋を出ていた。
色々ありすぎた……三人で思い出がこんなにあるなら他の結社はもっと凄いことになってそうだ。
そして、サービス終了時間の十二時まであと十分となった時、ログで初期スポーンの始まりの街に全員で集合しようという旨が伝えられる。
ただ、結社で最後を迎えたいという人も多かった。
そして、いきなり運営からメールが届き結社にいても始まりの街の最後の集まりに参加できるよう粋な計らいをしてくれた。
始まりの街には無数のスクリーンが召喚され、そこにはそれぞれの結社の人達が映し出され、こっちからも相手からも見えるようになっており会話も可能となっている。
メッセージの終わりには、「長い間のこのOOPARTSオンラインを遊んでいただき誠にありがとうございました。これからも皆様のご期待に応えられるようなゲームを作っていきたいと思う次第です。本当にありがとうございました、そしてお疲れ様でした」
という一文。
みんなこのメールを読み、仲間と肩を組んで終わりを待つもの、恋人同士で手を繋ぎながら待つもの、一人で待つもの(おれ)、最後までクエストに挑んで楽しむもの、一対一を申し込み決闘するもの、多種多様で、それぞれである。
そしてカウントダウンが始まる。
そのカウントダウンが0を刻んだ瞬間……璃屠の意識は消えていた。
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