アスティがお使いに出た後…

 

 死の星にてアスティが去った後、ディアとルナリードは封印されながらも蠢く天明を抑え、その様子をルゼルは静かに眺めていた。


「ルナ様っ、どうしましょう……」

『コーデリアの封印は私の封印よりも段違いで良かった。だが天明は常に成長し、耐性を強化し続けている…封印の許容量を超えたら復活するのは間違いないから、出来るだけ引き伸ばして対策を打とう』


「はいっ! 妙案があるんですねっ!」

『まぁ、うん、多分……』


「ルナ様……」


 ディアの視線に、ルナリードが視線を逸らした。現状もままならない状況で、何をしても復活する天明に対して打開策は無かった。

 ルゼルも思案したが、有効な案はあれど絶対の保証のないものばかり。


『ルナリード、後どれぐらいもつ?』

『……もって二時間、だな』


『二時間か……間に合わないな。他の仲間は来ないのか?』

『連絡する術がない。拠点にあった連絡機はアレスティアが拠点ごと粉々にしたみたいだ』


『アスティのせいにするのか? 元はと言えばお前が天明なんて作るからこんな事になったんだぞ?』

『それについては……まじで申し訳ない』


『……はぁ、どうしても駄目なら天異界総帥に頼むからな』

『……ははっ、優しいんだな』


 乾いた笑いを浮かべるルナリードに、ルゼルはこれ以上追及しても仕方が無いと諦め、自身のタブレットを手にした。

 起動させると、通信不可の文字が浮かび上がった。


『……ディア、ここは通信無効か?』

「いえ……そんな筈は…解析。……今空間が乱れています。更に解析すると…お姉…アレスティアさんが空間を無茶苦茶にしたみたいです……」


『ディアもアスティのせいにするのか? 全く……む? あいつらは仲間か?』


 ルゼルの指差す先には、ディアの部下達……ニイ、サン、ヨン、ゴウ、ロク、ナナ、ハチ、雌豚の姿だった。

 雌豚を除く七人が近付き、ディアに魔力を送った。


「あなた達……私は…」

「ディア様、何も言わなくて良いです。私達の魔力を使って下さい」

「こいつを何とかしちゃって下さい」「イチの仇を討って下さい」「私達は敵いませんでした」


「……ありがとう」


 ディアが天明と戦っている間、雌豚が彼女達に改めて事の概要を話していた。

 それぞれ思う事はあったが、それを呑み込んでディアの為に行動しようと決めた。

 ディアが居なかったら自分達は居なかったと感じていたから。


「元主様、わたくしも手伝いますね」

『……元主様って何さ』


「わたくし、ご主人さまに付いて行こうと思いまして」

『ご主人さま? ……まさか…駄目だ! アレスティアだけは駄目だぞ!』


「えー、来て良いって言われましたよ?」

『お前みたいな変態がいたら教育に悪い!』


「言っておきますけれど、ご主人さまはわたくしより変態ですよ」

『そんな訳あるかっ! ルゼル! 何か言ってやれ!』


『アスティは変態だぞ』

『えっ……』


 ルナリードがフリーズしている間、ルゼルと雌豚が少しの間見詰め合い、ルゼルが黒い石を投げ渡した。


「……これは?」

『我の城の通行証だ。今度来い』


「おや良いのですか?」

『あぁ、表世界は不便だろ?』


「恐れ入ります。では今の内に使える荷物を探して来ますね」


 雌豚が一礼し、人差し指をルゼルの胸元へ近付けた瞬間にポキリと指が折れた。ルゼルに拒絶されたのだが、雌豚にとってご褒美。嬉しそうに建物の残骸の方へ歩いて行った。

 ルゼルはアスティと組んだら変態同士で危険なのではないかと一瞬考えたが、今更かと考えるのを辞め、ディアとルナリードに向かう少女達を眺めていた。

 ルゼル余計な事も出来ず、タブレットも使えない…つまり暇だった。


「みんな、そろそろ危ないから離れていて」

「はい……天明を倒したら、私達はどうなるのですか?」


「みんなには、ルナリード様の補佐を頼みたいの。今よりも忙しくなるから、覚悟していてね」

「はい、ルナリード様よろしくお願いします。あの……ディア様も…一緒、ですよね?」


「私は……」

『コーデリア、私がなんとかする。案ずるな』


 ディアは天異界から見たら世界を壊した首謀者で、大犯罪者。

 これから先、何が起きるか想像に難しくなかった。

 その様子を眺めているルゼルの元に、仮面の少女ロクとナナが近付いて来た。


「あの……アレスティアは、どこに行ったんですか?」

「帰っちゃった、ですか?」

『今お使いを頼んでいる。その内戻るぞ』


「そう、なんですね。アレスティアは、どうやってあんな力を手に入れたんですか?」

『アスティは、そうだな…愛が深いから、だな』


「愛…ですか?」

『愛が深いから、愛されるんだ。人にも、神にも、力にも、星にも…な。お前達も、アスティの愛に触れただろう?』


 ロクとナナが視線を合わせ、頷いた。

 大半の思い出は雌豚を罵る姿だが、見返りも無く呪いを解いて頭を撫でてくれた優しさは、ロクとナナの心に大きく刻まれていた。


「私達、もっと…強くなりたいです」

『我は弟子は取らんぞ』


「……お願いします」

『そもそも我の魔法は…ん? お前ら…ちょっと来い』

「は、はい」


 ルゼルが二人を近くに呼び、頭に手を乗せた。

 魔力等を解析したのだが、普通の人間とは違った。聖命の宝珠にアスティの血を使用していたからだが、ルゼルは今その事実を知り…ルナリードとディアを見て今回の経緯を察知してしまった。

 アスティの血を使っているという事はルゼルの血も流れている…


『…なるほど。生命の宝珠は知っているか?』

「はい、私達はその宝珠から産まれましたから」


『誰の血か聞いたか?』

「…いえ。でも、アレスティアの魔力が身体に流れて、なんとなく…解りました。凄く、暖かくて…」


『そうか、良かったな。我の娘は暖かいんだ』


 ルゼルが微笑むと、ナナが小さくあっと呟き、ロクに耳打ちした。


「……おばぁちゃん」「ばぁば」

『おいそれやめろ』


 ナナが恐る恐る抱き着くと、ルゼルが小さく溜息を吐きながらそっと頭を撫で……その様子を雌豚が指を咥えて凝視していた。

 雌豚が凝視しながら近付いてきた…しかしルゼルの威圧に圧され、また戻るを繰り返していると天明に動きがあった。


 蠢きが激しくなり、離れていても脈動が聞こえるほど。

 ルナリードとディアは天明の力を削ぐ準備に入り、少女達は雌豚の元へ行き転移で離れ、ルゼルとロクナナは臨戦態勢に入りつつ、様子を見ていた。


「……来ます!」


 天明の脈動が激しくなり、淡い光を放ち始めた。

 そして……光が弾けた。


『…居ない、だと…』


 光が弾けた後、そこにいる筈の天明の姿は無かった。

 どこに行ったのか探査した瞬間、遠くに光の柱が上がった。


「あそこは…っ! みんな!」


 光の柱が上がった方向は、雌豚達が転移して行った場所だった。

 ディアは心臓を鷲掴みにされたような焦燥感に襲われながら、雌豚達の元へ向かった。


『くそっ、間に合え!』

『はぁ…ロク、ナナ、行くぞ』

「みんな…」「あっ…駄目…ニイとサンが…」


 遅れてルナリードとルゼル達も到着したが、そこに待っていたのは立ち尽くすディアと…雌豚の胸を貫く天明の姿。他の少女達の姿は無く、天明に吸収されてしまっていた。


『絶望の味は…美味なるものよ』

「てん…めい…貴様ぁぁぁ!」


『コーデリア! 離れろ!』

『良いぞ、来い片割れよ』


 激昂したディアはルナリードの静止を聞かず、天明へと突っ込むが…天明は獲物が掛かった時の表情で背中の漆黒の翼を開いた。


『ちっ、エナジーバレット』

 ルゼルのエナジーバレットが翼を弾くが、もう片方の鋭い翼はディアを狙っていた。

 そして……


「ぐあっ! ルナ…さま……っ!」

 ルナリードがディアを突き飛ばし、天明の翼に貫かれた。

 ディアも吸収されてしまえばディアの能力を天明が使えることになり、形勢は完全に天明へと傾いてしまう。

 しかしそれ以上に、ルナリードはディアが吸収される事は許容できなかった。


『くっ、吸収されて…たまるか! 魔力暴発!』

『無茶するな、エナジーブラスト』


『くははっ、惜しい事をしたなぁ。だが破壊神はもう戦えまい』


 魔力を爆発して天明を吹き飛ばし、なんとか吸収されずに済んだが…ルナリードの力は半分以上奪われてしまった。


「ルナ様! すみません私のせい…で…あの……ルナ…様?」

『大丈夫、冷静に行こう。戻す方法はあるから…ん? どうした?』


『ルナリード、下がれ。そんな姿じゃ足手まといだ』

『そんな姿? ……あっ……えっ……うそ……』


 ルナリードの力が吸収されたと同時に、姿も変わっていた。銀色の髪は真っ白に変化し、目の色や肌も真っ白く、身長も低くなり子供の姿になっていた。覇道という性質に適応する前の…昔の姿。


『まぁ、うん、元気だせ…』

『戻っちゃった……うぅ…やだぁ……』

「すっ、すみません!」


 ルゼルは今ここにアスティが居たら子供になったルナリードを見て、間違いなく抱っこして持ち帰ろうとしていただろうな…と心の中で呟いていた。


『……ほら、泣くのは後だ。天明が来るぞ』

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