不安しか無いけれど、早く帰らないと…
『どうか…受け取って』
「嫌よ」
『……ぐすん』
「……ヘルちゃん、受け取ってあげたら? 凄い物だよ」
「…えー…それは何?」
『……守護女神の腕輪』
物は良いよ。者は悪いけれど。
効果は守りたい想いが強ければ強い程、魔法効果が上がる神器だよ。
上昇効果は尋常じゃないだろうね。
「……ちっ」
舌打ちしちゃ駄目よ。
一応あなたはお姫様よ。
最近野蛮よ。
はいすみません私のせいですよっ!
ヘルちゃんの顔が怖い…目に感情が無い。ふとした切っ掛けで暴力に移行する顔だ。
閻魔よ、何もすんなよ。
私に被害が行くんだから。
『……きひ』
おい喋んな。ビクッとしたろうが。
「……ヘルちゃん、私が居るから大丈夫だよ」
「……」
恐る恐るヘルちゃんが腕輪をばっちい物を扱うようにつまんだ。
『ご慈悲に感謝を』
「次は殺す」
いやだからそれご褒美。
ほらぁ、ウキウキしているじゃん。
小さくきひきひ言いながら、玉座に座り直した。
結局聖女のおぱんちゅは良かったのかな…ヘルちゃん痛いから足踏まないで。
消毒液あげるから。
『きひっ、咎星剣は資格無き者が扱うと死ぬ』
「それは知っています。ルゼルさんが私に頼んだから、持つくらいは出来ると思うのですが……」
『試してみるか?』
閻魔が懐から黒いボロボロの剣を取り出した。
この威圧感……間違いなく本物だ。
閻魔の元へ行き、差し出された咎星剣に触れてみる……
……触れても問題は無い。
少し怖いけれど、持ってみるか。
「……くっ、重い…」
何これ……物理的な重さじゃない。
全ての感情が押し潰されるみたいで、これ以上は……心が死ぬ!
ちょっと返そう。
『きひっ、重いだろう?』
「はぁ、はぁ……はい…どうしましょう…」
『頼まれたのは、お主であろう? 禁忌の子よ』
禁忌の子? 私のことか。まぁ間違いではないか。
どうするかなぁ。
閻魔ごと連れて行く手段も考えたけれど、裏世界の王を連れて行く時点でザワザワが最高潮になる。最悪アラスに帰れなくなる。
「持ってすぐ転移して渡す。で行きます」
『この部屋は転移無効だ』
「じゃあ部屋の外まで持ってきて下さい」
『足が痺れて動けない』
「ぶっ飛ばして良いですか?」
『聖女じゃないと嫌…というのは冗談だ。咎星剣をこの部屋の外に持ち出す事が、私の課す試練だ』
こいつ…
何なんだ…
ヘルちゃんのイライラが頂点だぞ。でも喋りたくないから凄い睨んでいる。でも睨んだら閻魔が喜ぶという負のスパイラル。
「試練をする意味は?」
『ある。ルゼルに最低限持ち運べるよう頼まれていてな』
「本当ですか?」
『もちのろん』
本当かよ。怪しいな。
ヘルちゃんを眺めたいだけじゃねえか?
……はぁ、つまり私が咎星剣を持ち出さないと話が進まないのか。
どうするかな……フルパワーになったとしても精神の負担だから意味はない。
なら精神を強化してみるか。
「……フルエナジーマインド」
精神を強化して、再度チャレンジ。
……持てる!
三秒くらい!
やっぱ無理!
「少しずつ移動して良いですか?」
『最低限だから構わぬよ』
床に置くのは悪いとは思うけれど、少しずつ持って移動してを繰り返すならなんとか。
……でも時間かかるな。
「アスティ、休憩しましょ。汗、凄いわよ」
「……うん。閻魔さん、疲れたので休憩してきます」
『……きひ、では待っているぞ』
閻魔を置いて、玉座の間から出て一息。
仮面の中が蒸れ蒸れだよ。
はぁ、ちょっと辛いな。
元々疲れて体調悪いのに、この精神試練。
何をさせたいんだよ全く。
急ぎなんだぞ。
「ちょっと仮眠して良いかな? 限界かも」
「無理し過ぎよ。回復してあげたいけれど、神聖属性は毒みたいね」
「ありがと。少し寝るだけで大丈夫だから」
廊下からもう動けないので、そのままパタリ。
絨毯がフカフカで良かったよ。
おやすみなさーい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アスティが眠りに落ちた後、玉座に座っている閻魔の前に近づく者がいた。
『きひっ、珍しいお客さんだな』
「初めまして、Gと名乗っている美少女です。扉が開かなくて困っていたんですが、やっと王様に話せるチャンスが来ましたよー」
軽い足取りで現れたのは、黒い帽子にローブに裸足という、いかにもな魔女の格好をした女の子。
強欲の魔女Gの姿だった。
今日のGはいつになく真剣な表情で、閻魔の様子を眺めていた。
緊張感が空気の重さを加速しているが、この二人は気にも留めない。
『強欲の魔女が裏世界に何の用だ? まぁ予想は付くが、破壊神関連か』
「はいっ、私の親友破壊神ちゃんが封印されてしまって、破壊の力が必要でわざわざここまで来たんですが…どうやら親友は復活したみたいで無駄足に終わってしまいました。まぁ折角なのでお話でもしようかなと思いまして」
『それは丁度良かった。私も話があったのだよ』
「私に? 何ですか?」
『この戦いから、身を引いてくれないか?』
Gの目が細められ、空気が更に重くなった。閻魔の言いたい事は分かっている。周囲を犠牲にすると思われているから…それ以上にアホだから何をするか分からないという大きな理由があるが……
「……それは難しいお願いですね。天明は私の血を使っているから無関係とはいかないんですよ」
肩を竦めて首を振り、暗にノーと伝えたのだが、閻魔はそれを受け取るような反応は無かった。
『きひっ、私はあの子に期待している』
「あの子? あぁ…確かに異常な強さを持っていますが、天明には勝てませんよ」
『現時点では不相応な力に振り回されているが、いずれ道を切り拓く。新しい波が来るから、見守って欲しい』
「いずれと言われてもいつですか? このまま見ていろなんて無理ですよ」
『わかっている。お願いをする立場だから、報酬は払う』
「ふんっ、別に欲しいものなんてありませんよ」
口をへの字に曲げて不機嫌を全面に表しているが、閻魔はきひきひ笑いながらフラフラと玉座から降りてGの目の前に立った。
少しの時間見詰め合い……
『……お友達になってあげる』
「よぉぉおろしくお願いしまぁぁぁあすっ!」
交渉は成立した。
Gに取って友を増やす事は大事な事なのだが、それはまた別の話。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……少し寝られたかな。
何か叫び声が聞こえた気がするけれど、夢でも見たのだろう。
「…ヘルちゃんおはよう」
「……えぇ、おはよう。少しは良くなったかしら?」
「うん……なんかあった?」
「なんか玉座の間から叫び声がしたと思ったら、知らない女が出てきたのよ」
「知らない女? どんな人?」
「魔女っぽい格好の黒髪の女ね。あれが閻魔の素顔?」
……魔女っぽい格好…G?
でも裏世界にいる訳ないか。
お客さんでも来ていたのか、閻魔なのかは分からないけれど、早いところ咎星剣を届けないと。
再び玉座の間に戻って、再チャレンジ。
『……』
閻魔は居たな。じゃあヘルちゃんが見たのはお客さんかな?
……閻魔は動かない。
……寝息が聞こえる、寝てんな。
「あいつは無視してさっさとやりましょう。応援しているわ」
「うんっ、頑張る!」
──テロリンテロリン
ん? なんだこの効果音。明らかにルゼルが言っているやつだだけれど、たぶれっと?
「アスティ? 何それ?」
「通信魔導具みたいなやつ。ヘルちゃんのは今度買ってあげるね」
「あらありがとう。何か連絡?」
「うん、多分おかぁさんから。えーと……」
どうやるんだ?
ツンツンしてみたら、あっ起動した。
やっぱりルゼルだ……えっ、うそ!
「……アスティ?」
「天明が、アラスに逃げた……」
あぁくそ、早く帰らないと!
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