えっ、本物なの?

 

 攻撃は…してこない。

 まずは状況把握…状況把握…こいつは敵だと見て間違い無いだろう。ロクとナナが警戒しているし、他の仲間も天明に警戒している。雌豚が腕を組みながら縄で浮き上がった胸を押し上げてアピールしているけれど無視だ。


「で? 私に会ってどうするの?」

『我等の中にお前を憎む者、嫉妬する者、羨む者、悪意を持つ者、利用したい者が存在している。今、会議中だ』


「私は人気者だねぇ。良い結果にはならなさそう…」


 イチを取り込んだ天明と名乗る何かの中には、ベアトリスクが存在していた。あの時…ベアトリスクはルナリードに連れて行かれた。

 だとしたら、ルナリードが何か関わっていると見た方が良いか?


『しねーアレスティンきゃのん!』


 ちょっ…テンちゃん先制攻撃しないでっ!

 まだ状況把握中!

 黒光りするレーザーが天明を捉え、見事に頭を撃ち抜いた。

 …いや、殺しちゃったよ…

 レーザーが収まり…えっ…あれ? 確かに頭が撃ち抜かれたのに…

 レーザーを撃つ前と同じ?

 いや確かに死んだ筈。

 イチと同じ…やっぱりこいつの能力か。


『邪魔だ。魔法破壊』

「っテンちゃん! 逃げて! 破壊の瞳!」


 天明がアレスティンカイザーに手を向け破壊の力を放つと…ボロボロと崩れていく。この破壊の力は…テンちゃんが危ない。

 天明の破壊を私の破壊で相殺している間に、コックピットが開いてテンちゃんが離脱。私の胸ポッケに逃げ込んだ。

 良かった…魔法破壊なんてテンちゃんには危険過ぎる。


『うぅ…怖かった。アレスティンカイザーが…』

 テンちゃんが涙を流しながら、崩れゆくアレスティンカイザーを眺めていた。頑張って作った力作が…悲しいよね…

 仇は取るよ。


『会議の結果、アレスティアには消えてもらう事になった』

「…へぇ、理由を聞いても?」


『単純明快、それが願いだからな。消えて欲しいという』

「そっか。ベアトリスク、今どんな気持ち?」


『クハハッ、最高の気分とな。この手でアレスティアを殺せる、と』

「ふーん。相変わらず予想通りな気持ちでつまらないね。今喋っているあなたが、天明なの?」


 以前視て解ったけれど、ベアトリスクが私を憎む理由は嫉妬。私が入学式以降モテモテだった事に納得いっていなかったみたい。

 魔法もロクに使えない出来損ないの癖にってね。

 つまらん。つまらん理由よ。

 まっ、そのお蔭で私は自由を手にしたのだけれどねぇ。


『我等が天明であり、我は…我は…名を忘れてしまう程、永い刻が経った訳か。超位魔法・ブレイジングサン』


 うおっ、いきなり戦闘開始か。

 天明が上に手を向けると、赤い魔法陣が出現。蒼い炎の球体が現れ、球体が徐々に肥大。景色が歪む熱量に、ダメージゼロが発動しているのが解る。


「やるかぁ…」


 折れないソードは曲がって使えないから…何にしよう。朱天の剣で良いかな。でも折りたくない…えっ、主力武器って少なくない? ネタ武器増えてもこういう時使えないし…

 負の魔法剣の方が良いか…ん?

 天明の足元に、強そうな武器らしき物がある。

 気にしていない様子だから、天明の物では無いだろう。この宮殿の備品かな?

 あれ欲しい。


『その身を焦がせ』

「焦がすのは心で充分! 光速剣!」


 蒼い太陽が眩しいな。

 右手で朱天の剣を振り抜きつつ、左手を地面に添えて天明の真横を光速で通過。太陽に突っ込んだけれど、今の所は無傷。

 斬った感触はあったけれど、もう治っている。再生能力もあるのか。


『ブレイジングサン・ダブル』

 今度は二つの蒼い太陽。

 手の動きに従って私を追尾するように両端から迫ってきた。


「これは…包丁?」

 銀色の短剣というより、三徳包丁だな。

 素材は…うわ…銀色のダイヤモンド…いくらするんだよ…

 ここのメイドは恐ろしく贅沢な包丁を使っているのか…ディア、超お金持ちだったんだな。


 それにしても…よく馴染む。馴染み過ぎて怖いくらい。

 蒼い太陽に向かって横に一閃…銀の軌跡が太陽を真っ二つに両断。続いて縦、斜めと振れば、太陽が四散する程斬り刻めた。


『クハハッ、そうでなくてはつまらぬ。超位魔法・ガトリングメテオ』

「流星? いや、岩石か。光飛連斬」


 光属性の斬撃を飛ばすと、空から飛来する岩石群が砕けていく。

 この包丁凄いなぁ…ディアに頂戴って言ってみようかな。でも敵におねだりなんてママンにめって言われそう。

 超位魔法…か。アラスは超級とかだから、違う世界の魔法なんだろうな。

 該当するのは…あっ、黄色い髪の子が飛び出してきた。危ないぞー。


『む? そういえばまだ居たか』

「イチを返せ! 鋼割爆拳!」

「ゴウ! 早まるな!」


 ゴウと呼ばれた子が天明に殴り掛かっていったけれど、ヒラリと躱された。


『確か…ゴウか。お前はいらない』

 天明の手の平から岩石が飛び出し、ゴウの顔面に直撃。ビクンと痙攣し、膝から崩れ落ちた。ちょっと回復しないとまずいな。


「ゴウ! くっ、烈風爪牙!」

『ヨン、お前もいらない』

 ヨンと呼ばれた子がゴウを助けようとしたけれど、天明の放つ蒼い炎に焼かれた。


「はぁ…遠隔エナジーヒール」

 今ガトリングメテオを撃墜している最中だから、近くに行けないのだよ。

 とにかく数が多い上に下手に墜ちたら死の星が大変だから、全部撃墜しないといけない。

 戦うのは良いけれど、一撃でやられないでおくれよ。回復要員居ないの? テンちゃんはビビっているのかジーッと天明を見て動かないし…

 あっ、あと二人出てきた。ニイとサンかな?


「助けないとなぁ。禁術・ハートブレイク!」

『ぐふっ…』


「ナイスサン、決めるよー。雷光神鎚!」

 サンの魔法で心臓を破壊され、雷を纏うハンマーが直撃。

 天明は一瞬潰され、直ぐ様その場に復活した。

 いやそれ卑怯じゃね?


「うそ、なんで死なない! 禁術・エクスハティオフレイム!」

『良い、炎だ。お前はいる』


 触れると蒸発する程の温度を持つ炎に包まれ、蒸発と再生、復活を繰り返し、力が…上がっているな…

 黒い翼が大きくなって、まるで手のように蠢いていた。


「サン! 避けろ! 爆雷波!」

 黒い翼が伸びて、サンを襲う直前でニイの一撃が翼を弾いた。

 また吸収する気か。

 ちょっと私も参戦しないとまずいか…いや、青い魔法陣が出た…まだ何か来る。


『ニイ、お前もいる。超位魔法・ブリザードストライク』

「くっ…超位魔法なのに…この威力…」


 吹雪が叩き付けられ、ニイとサンの身体が切り刻まれながら凍っていく。

 よし、ガトリングメテオが終わった!


『我等の一部となれ』

「いやっ…」

「させないよー、フルエナジーバリア!」


 天明をエナジーバリアで包み、物理的に封印。

 伸びた翼もニイの直前で止まり、間一髪…ちょっとこの子達だと力の差が激しいな。ロクとナナは…雌豚と一緒に居て動いてはいないか。


『邪魔者を蹴散らしてやろうと思ったのだぞ? 超位魔法…』

「バリア圧縮!」


 バリアをギュッと凝縮し、またバリアを展開してギュッと凝縮。

 動けない隙に重力点を圧縮、圧縮…黒異天体の準備に入る。


「…ねぇ、貴女は、何者?」

 凍った身体を回復しながら、サンが私の近くにやって来た。

 エルフっぽい女の子…なんか、イチといいロクやナナも何か違和感があるんだよなぁ。


「私は…ロクとナナのお友達だよ」

「お友達? って何?」


「……んー? 仲良し?」

「…説明になっていないわよ」


 友達の基準って曖昧だよなぁ…なんて思っている暇は無いんだけれど、ちょっとみんな集まって来ないでよ。

 危ないんだよねぇ…あっ、ロクとナナも来た。


「アレスティア、強い」「ディア様以上…」

「やぁロクちゃんナナちゃん。私は今状況把握で忙しいんだよね」


「ご主人さま、ご説明致しましょうか?」

「おい雌豚、出会った時に説明しろよ。先ず天明は何者だ?」


「…話せば長くなりますよ」

「五秒で説明しろ」


「ふぁいっ! 元主様が聖命の宝珠で造り出しました! ご褒美を!」

「ご褒美はこれが終わったらな……元主って、ルナリードか?」


「おっ、よく解りましたねぇ」

「はぁ……なるほどねぇ。割りと繋がった。誰の血なの?」


「……」

 誰の血さ。

 言いたく無いのか?

 …ルナリードがアラスの生命の宝珠を持っていって、ベアトリスクも連れて行った。だからベアトリスクの血、もしくはベアトリスクが入っているのは確か。

 ベアトリスク自体は大した事は無いけれど、この能力やらは異常だ。


「誰の血? 教えないと超優しくする」

「くっ…」


 苦虫を噛み潰した表情で、一枚の紙を差し出してきた。

 リストか、どれどれ……知らない名前ばっかり。いや、天異界の歴史に出てきた犯罪者の名前がチラホラ…A級犯罪者…テロリスト…

 あっ……天異界特S級犯罪者、強欲の魔女。

 ……G…かよ。

 馬鹿か。

 やっぱり、破壊の為なら手段は選ばないって事か…


「で、この元凶のルナリードは何処にいる?」

「……」


 黒異天体が完成した。

 雌豚、言わないとこれ投げるぞ。

 目を逸らすな。足をモジモジさせて頬を染めるな。

 …天明の方を指差したな。

 天明がルナリード? っていう訳では無いな。


「……なに? どこ?」

「……あれです」


「あれってどれさ」

「あのダサいポーズの像です」


「……えっ」


 えっ? あれがルナリード?

 あれ本物なの?

 本気であの漆黒のナイトメアポーズしているのがルナリードなの?


「申し訳ありません。お伝えしたかったのですが…ポーズがダサくて躊躇してしまいました」

「あ、うん…なんか、うん、とりあえず、説明して」


 なんで?

 なんで私は恥ずかしい気持ちになっているんだ。

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