挿話・運命に抗う者2
『……ここは、以前に来たな。とすれば…ほぅ…あの時の女か。だが召喚者はこの娘……くふっ、なるほど。随分楽しそうな奴らだな』
お姉さまのお母様は、楽しそうに笑いながら、老化したベアトリスクと私を見詰めていた。
護衛に拘束されているベアトリスクが、お姉さまのお母様に憎悪を向けている。
当時…何があったのかは視れなかった。
「ぐっ…ぎさまぁ…お前のせいで…お前のせいで出来損ないが出来上がったぞぉ!」
『出来損ない? 何の話だ?』
「とぼけるな! あれだけ準備したのに! お前のせいで台無しだ!」
『対価が足りないのにサービスをしてやっただろうに。出来損ないとは、何かを作ったのか?』
お姉さまの事を知らない?
…ベアトリスクを黙らせよう。
「ぐっ…」
「お姉さまは、私のお姉さまは、あなた様の血を元に生命の宝珠から産まれました」
『……は? そんな筈は無い。生命の宝珠は私の血を受け付けずに砕け散る筈だ。その話は…本当か?』
「はい、お姉さま自身も言っていました」
『…生命の宝珠の研究は終わったと思っていたが…まさかこの世界が特別なのか…調べたい…でも時間が無い…』
顎に手を当てて考え込む姿も素敵だ。
時間…この魔法陣にも制限がある。
光が少しずつ消えていく…どうしよう。何か言わないと…
「あ、あの…私の、お願いを聞いてもらえませんか?」
『ん? あぁ…そういえばそうだったな。先ずは、名を訊こう』
「コーデリアと申します」
「そうか。ではコーデリアよ、願いを聞こう」
「はい。私の運命を、変えて欲しいんです」
『運命…正直私は運命なんて曖昧な物はよく解らない。自分で道を切り開いてきたからな。だから、どうしたいのかどうなりたいのか言うがいい』
「私は…お姉さまの隣に居たいんです。だから、私は…力が欲しい…隣に居ても恥ずかしくない程の力を」
『力を求めるか。だが、力を得ても私の血で出来た……ぁ……』
「えっ…どうか、なさいましたか?」
何か、酷く動揺するような表情を浮かべた。どうしたのだろう…それにしても、最初の印象よりも表情が豊かで、お姉さまそっくりだ。
あぁ…まずい、魔法陣の光が消えそうだ…
『……私に、娘が出来たというのか。くふっ、くふふふふ。そうか…そうか…私に、娘が出来たのか。契約延長』
良かった…消えかけていた光が戻った。
とても、嬉しそう。
このお方は、どんな方なのだろう。
知りたい。
「あなた様の娘は、とても美しく、とても強い女性です。あっ、そうだ! こっ、これを見て下さい!」
お姉さまの自撮り写真を見せてあげよう!
お母様に渡すと、少し笑った気がした。
『……この子の名は?』
「…アレスティア、です」
『アレスティア…会い…いや、私にその資格は無い、か。よし…コーデリア、この写真を対価に望みを叶えてやろう。だが、今のコーデリアでは力を得てから、一生掛かって頑張っても隣には並べない。なんせ、私の娘が相手なんだ』
娘と言った時に、少し誇らしいような声色だった。
隣には並べない…か、薄々感じていた。私とお姉さまの間には大きな大きな壁がある。
容姿、性格、能力、強さ、どれを取ってもお姉さまは遥か高みに居る。私なんかじゃ…到底足下にも及ばない。
「そう、ですか…」
『一生ならな。そこで、だ。この世界の生命の宝珠が必要だ。何処にあるか解るか?』
「生命の宝珠…大地の王と呼ばれる魔物が、持っているそうです」
『では、案内してくれ』
「えっ、でも場所が…」
『まぁ、それもそうか。ではそこの女の記憶に聞こうか。深淵を覗かせて貰うぞ』
「ぅぁああああ! やめろぉおおお!」
銀色の目が黒く染まり、ベアトリスクが叫びだした。
あれは…お姉さまと同じ瞳。
真っ黒で…綺麗な瞳…羨ましい。
『…あっちか。星乗り』
ベアトリスクが倒れ、もう用は無さそうなので護衛に連れて行って貰った。
お姉さまのお母様の魔法陣から銀色の岩が出てきた。それに飛び乗り、私を見ている。そんなに見詰められると、ドキドキが止まらなくなる…
あっ、乗れって事か。
「失礼、します」
『安心しろ。直ぐに着く』
岩…いや星、かな。星は急上昇を始め、一気に急発進。
速い…でも風に飛ばされる事もなく快適に乗れている。
すごい…
それに二人きりだ…緊張する…でも話をしないと、後悔しちゃう。
「…あの、お名前を…教えて戴けませんか?」
『……この世界の事をよく知らないからまだ名乗れない。好きに呼べ』
「えっ…じゃぁ…お姉さまのお母様」
『……褒めても、何もやらんぞ』
褒めていないんだけれど、まぁ…嬉しそうだから良かった。
目指すはラジャーナの奥の奥…だけれど、もうラジャーナを過ぎた。速いなんてものじゃない…
ラジャーナを過ぎ、荒野を抜けると綺麗なお花畑がある草原に出た。少し気になるけれど、お姉さまのお母様は急いでいるみたいで気にしていない。
『アレスティアの事を、聞いても良いか?』
「はいっ!」
お姉さまの事を話していこう。
私が物心付いた時から遡って…でも、時間が足りないや。
あっ、そうだ。お姉さまの暗号日記とか、お母様なら読めるかな?
『これは、アレスティアの日記か……』
「どうしても読めない部分が多くて…これは七歳の時の日記ですが…」
『……これは、周りから言われた悪口集…だな。アレスティアは、嫌われていたのか?』
「…先程の女の影響で、お姉さまは冷遇されていました」
『そうか…だが、しっかりと復讐を遂げているみたいだから良かった』
流石はお姉さま。
悪口を言われたら十倍返しで復讐しているみたい。
そういえば…よく城に悪霊が出るって…お姉さまの仕業か。
少しだけ、打ち解けた気がする。
でも、心に壁があるみたいで自分の事は話してくれない。
これから何が起きるのだろう…と思っていると、深い森に到着した。
「凄い…SSランクが至る所に…」
これは…自殺の名所と呼ばれる訳だ。
人が入り込めない危険地帯。
私なら十秒も経たずに食べられる。
『この世界の魔境か。しかし、ここは星のバランスがおかしい…この世界には不釣り合いの魔物の強さだ。ここで、何があった…天体魔法・星の記憶』
「あっ…あれは…」
うわ…凄く、大きな樹が急に現れた。
何メートルあるんだろう…雲より高い。
横幅も凄い…お城何個分だろう…
『膨大な邪族相手に女神一柱で立ち向かう…だと…まさか…たった一柱の女神が管理しているのか? そんな事が有り得るのか?』
「あっ、あのっ! 来ます!」
尖った枝が飛び出して来た!
凄いスピードで迫り、直前で弾けた…びっくりした。
『あぁ、気にするな。直ぐに終わる』
≪力を、示せ≫
頭に響くような声がした。
これは、あの樹が喋っている?
じゃあ、あれが大地の王?
ちょっと、これは人が太刀打ち出来ないのが解る。
大き過ぎ…
『生命の宝珠をくれないか? 手荒な真似はしたくない』
≪他次元の者には、渡せぬ≫
『そうか…仕方がない。ではコーデリア、私の力を分けてやるから倒してくれ』
「えっ? 無理ですよっ」
『大丈夫だ。信じろ』
私を黒い光が照らした時、膨大な力が身体を駆け巡る。
これは…ちょっと…耐えきれない…
「ぁ…が…くっ…」
『さぁ、これを振り下ろすんだ』
渡された銀色の剣…持つのも辛いのに…でも、やらなきゃ…
「ぐっ…あぁぁ!」
無我夢中で、渡された剣を振り下ろす。
すると、巨大なガラスが割れる音と共に天が割れ…大地の王が真っ二つにされた……えー!
そして、大地に大きな裂け目が出来上がった。
お母様は、満足げな表情で裂け目へと飛び降りていった。
『…あった。コーデリア、よくやったな』
「ぁ、はい…ありがとうございます?」
私は剣を振り下ろしただけで特に何もしていない…
お母様が裂け目から出てきた手には、真っ白い玉が沢山握られていた。何個あるんだろう…
『これは……なるほど。たった一柱で世界を守る女神の為に、星が生命の宝珠を進化させたのか…いつか、女神の助けになる者が産まれる事を願って……くふっ、アレスティアは良い世界に産まれたのだな』
「それが、お姉さま…なんですか?」
『恐らくな。さてコーデリア…運命を変える良い方法がある。と言っても実験に付き合って貰うだけだがな』
「は、はいっ!」
『人間のお前では、どう足掻いても無理だ。だが、この生命の宝珠で新しい生命を創り、それに同化する事が一番の近道、だな』
「やります! やらせて下さい!」
『まぁ急くな。使う血だが、私が選んで良いか?』
「はいっ! あっ…あの…これは、使えますか?」
お姉さまの血。
大事な大事な私の宝物。
この血を使えるなら、お姉さまと本当に姉妹になれる。
『……他の研究は後回しにして試してみるか。だが、これは賭けだ。弱くなる可能性もある。それに、しばらくこの世界には居られないぞ』
「それでも、答えは決まっています!」
やった…使う血は気になるけれど、お姉さまと血が繋がれるのなら…これほど嬉しい事は無い。
『分かった。では、この扉をくぐれ。私が鍛えてやる』
「はいっ!」
白と黒の怪しい扉が現れた。
ここに入れば、しばらくこの世界から離れなければならない。
でも、それがどうした。
お姉さまとの未来の為に。
私は運命を変えるんだ!
『あぁ、そうだ。私の名は、ルナリードだ。これでも、女神なんだぞ』
「ルナリード様…宜しくお願いします!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
コーデリアが扉に入った後、ルナリードはその場を後にしフーツー城へと戻ってきた。
そこには兵を並べ、厳戒体制のベアトリスクの姿があった。
「おのれ魔族…貴様だけは許さんぞ!」
『これは盛大なお見送りだな』
「コーデリアは何処に行った! 直ちに処刑してやる!」
『私の実験に付き合ってくれるというからな。もうここには来ない』
「来ないというのなら貴様を処刑してから地の果てでも追って処刑してくれる! 殺せ!」
『死にたいのか? はぁ…』
ルナリードが手を振ると、暖かい風が兵達を撫で、兵が次々と倒れていく。
「なっ…」
『ふむ…コーデリアの心は脆い。だが、お前のような強欲や激情を持つ者で実験するのも悪くない、か。封印禁術』
「ぐっ…が…はな…せ!」
『どうせ老い先短いんだ。実験に付き合え。前回の足りない分はこれでチャラにしてやるから』
もがくベアトリスクを抱え、ルナリードは魔法陣へと入り…魔法陣の輝きが消えるのと同時に消えていった。
そして、兵達の記憶から今回の出来事が消え…コーデリアとベアトリスクの失踪という事実だけが残ってしまった。
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