誰が来るのかな…

 

 ルゼルの部屋に戻ってみると、エーリンがクーリンさんにくっ付いてまだお喋りしていた。

 ずっと喋ってんな…クーリンさんはニコニコ聞いている。


「むんさぃんるどぅ…あっ、ぁんれすてぃあー」

「なに、呼んだ?」


「いんたぁからたすー」

「お腹空いたの? これでも食べな」


 干し芋を渡すと、むちゃむちゃ食べ始めた。

 うーん…エーリンが裏世界で暮らせるようにならないとなぁ。

 エーリンも順位を上げておかないと暮らしにくいし。


「これも食べるか?」

「ありがとうございますー!」


 ルゼルはおにぎりを大量に渡している。

 順位か…私の序列は深魔貴族七十二位。

 ロンドを倒したけれど、私の深魔貴族の序列は上がっていないから五十位以内に入っておきたいなぁ…

 因みに五十位以内になると上級深魔貴族と呼ばれ、十位以内に入ると神魔と呼ばれるけれど、恥ずかしいからそれぞれの字名で通すらしい。


「そういえば、クーリンさんとおかぁさんはママ友ってヤツですね」

「「……ママ友」」


 ルゼルはふむふむと頷き、クーリンさんは微妙な表情…一応ルゼルは立場が上だから友達って感じでも無いのかね。


「ママ友ってなんか、変な感じですよー」

「…そうだな」


「これはこれで、良いのかもしれませんねー」


 二人の間に何かあったのかも知れないけれど、きっと大昔の話だろうなぁ。

 ママ友、ママ友……あっ、生命の宝珠をゲットすればママ友談義に華を咲かせられるな……でもルゼルはおばあちゃんになるのか…それこそ変な感じだ。


「……あっ、そろそろ帰りますね」

「あぁ、今度は次元転移で来られるようにな」


「先は長そうですがね」


 ついついゆっくりしてしまった。

 生身の身体で来るのはまた今度。

 この居心地の良い空気は名残惜しいけれど、帰って報告しなければならないからね。

 あっ、でもエーリンの事はなんて伝えよう。

 ミズキは死んだと思っているし…まぁ、もう会えるか解らないから死んだ事にしておけば良いか。



 ルゼルにバシュンと送ってもらい、幼女世界アラスへと到着。

 ここは…帝都の外か。私が瀕死になった場所だね。

 月明かりが綺麗だよ。


 あ……もうみんな帝都に帰っている……悲しきかな。


「……ん? 痛いっ、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」


 ぐぉぉ! 目がー、痛いー…

 あー、そうかー、破壊の瞳が覚醒したばかりなのを忘れていたよ。

 裏世界だと痛くないんだなぁ…なんて考える余裕はあるけれど。


「……」

 ……リアちゃん、眺めていないで助けてよ。

 来ているの知っているんだからね。


「……あの、助けて貰えませんか?」

「どうしよっかなー」


「あっ、眼帯すれば良いか。大丈夫でした」

「えっ……」


 悲しい顔しないでよ。

 痛いんだからさー。

 左目に眼帯を着用。

 ……まぁ、まぁまぁこれくらいなら大丈夫。


「リアちゃん、早く抱っこしてパンパンに連れていって下さい」

「あら、今日はわがままアスきゅんね」


「私は今悪い子ですからね」

「ふふっ、悪いアスきゅんも可愛い。でも、本当の悪い子になったら、私は敵にならなきゃいけない」


「もちろん、承知しています」


 リアちゃんに抱っこしてもらって、パンパンへと転移した。

 敵、か。

 この世界を守る為なら、悪い子でも良いけれど。


 パンパンは…みんな寝ているかな。


「アスきゅん、ミズキちゃんとエーリンちゃんは?」

「ミズキさんは自力で帰って貰いましたね。エーリンは、死にました」


「そう……頑張ったわね」


 リアちゃん曰く、エルドラドは幼女の影響下の薄い地域らしく視れないらしい。

 だからロンドとの戦いを知っているのは私とミズキだけ。

 まぁ、秘密にしておこう。


 あっ、ヘルちゃーん。ただいまー。


「……生きて帰ってきて嬉しいわ」

「うん…でも、エーリンは力を使い果たして…死んだんだ…」


「……本当に?」

「…うん」


「……」


 ジーッと見詰めてくるので、目を逸らしたくなる。

 だって、ヘルちゃんも両目が魔眼になっているんだもん。いつ両目になったのさー。

 あー見透かされるー。だめー。視ないでー。


「ほ、ほんとだもん」

「ふーん」


「ほんと、だからねっ」

「へぇー」


「あっ、おかえりのチューしてー」

「後でゆっくりお話ししましょ」


 むぅ…ヘルちゃんは手強いな。

 秘密だからねっ。


「アレスティアー」

「アテアちゃん、お願いがあるんですよ」


 幼女が現れた。

 こんな時間に少しお洒落をして、妙な冊子を持っている。

 怪しい。


「なんじゃ? わっちもお願いがあるぞえ」

「加護を下さい」


「なっ、なんじゃいきなり…わっちを抱きたいだなんてぇー、恥ずかしいじゃろっ。もぅー…きゃーっ」


 何言ってんだ?


「で? アテアちゃんのお願いはなんですか?」

「序列戦に行くぞえ」


「あれ? この間行きましたよね?」

「勝ったら任意でまた出来るのじゃよっ!」


「なんか怪しいですね。良いんですが、左目が覚醒したばかりなので出来れば休みたいです」

「えーっ! もう準備したばかりなのにー!」


 駄々こねんな。バタバタするからパンツ丸見えだぞ。

 一番年上の癖して…なるほど、ボッチで行きたくないから待っていたのね。

 仕方ない。


「じゃあ終わったら加護を下さいね」

「……もぅ、急きおって。じゃあ行くぞえ」


 えっ、もう?

 幼女が私の手を掴んでもにゅもにゅ喋ると、バシュンと転移。

 以前来た真っ白い部屋に到着。


 ありゃ、ヘルちゃんが居ない。面倒だから来なかったのか…


「よーし! くじ引きくじ引きっ!」

「十九位くらいにしてくださいねー」


 浮かび上がってきた箱に手を入れ、楽しそうにがさごそ…そして、引いたカードは真っ黒いカードだった。


「あっ……」

「ん? 何位です?」


「……じょーかー」

「……あほ」


 まじかよ…ルゼルクラスと戦うのか…まだ届かないっていうのに…


「はぁ…あいつじゃなきゃ…なんとかなるがの…」

「あいつ? おかぁさんですか?」


「いや、ルゼルは全力を出させてくれる気概を持っているがの…中には一撃で終わらそうとする奴もいるのじゃ…」

「戦いにならないから、低評価ですね…」


「まぁ、倒せる者も居るがの…あいつ…強欲の魔女以外ならなんとかなるやも…」

「強欲の魔女、ですか」


 泣きそうな幼女を尻目に、白い空間の前方を見据える。

 どんな人が来るのか、もしかしたらルゼルが来るのか、少しワクワクしていた。

 そして、空間に亀裂が発生し……


『おんやぁー? わたしの出番ですかぁー? えーと、自己紹介をしないといけないんですねっ。わたしはグ…げふんっ、Gと名乗っております』


 次元の裂け目からやって来たのは、黒い魔女帽子を被った私と同じくらいの黒髪の女の子…妖精のように儚い印象を持ち……なんで、なんで、この人は下着姿なんだ?

 それに、Gってイッきゅんが言っていた人…何も力を感じない。弱そう…というか普通の一般人みたい。


「アレスティア……こいつじゃ…」

「え…この人が、強欲の魔女」


「今すぐ…全力防御! 武神装・アヴァロン! 神級魔法・天上天下唯我独尊!」

「はっ、はいっ! ハイエナジー! リフレクト・ミラーフォース!」


『えー、お喋りしましょうよー。確かえーと、アラステアちゃんと……おや? おやおやおやー? 破壊の力を持った女の子ですねぇー! 珍しい、というか破壊の力は願い星ちゃんが封印した筈ですよねぇー!』


 Gが腰に手をやって近付いてきた…でも途中で立ち止まり、思い出したようにポンッと手を打ち付けた。


「アレスティア! もっと強い防御じゃ! 神級魔法・傲慢なる聖戦!」

「えっ、はいっ、拒絶の血塊盾!」

 ――イヤァァアア! アイツムリィィイイ!


 まじか……幼女の魔法が駆け巡る中、Gは平然と立っている。

 光に焼かれて蒸発する筈なのに…スポットライトを浴びているようで…


『あっ、そうだ。願い星ちゃんに会いに行こう。っという訳でわたしは用事が出来ました。ではではお二方…格下即死魔法死んで下さい♪』


「えっ……」


 意識が…遠退く。


 ……

 ……あっ、気が付いたら幼女のベッドだ。

 負けたかぁ……あれは反則だよ。


「はぁ…アテアちゃん…ふて寝しているし…」


 幼女はもういじけてふて寝中。

 お尻をツンツンすると、少し横に振って構うなアピール。


 ……一応加護を貰う約束したし…構ってしまうか。


 はぁ…もっと、強くならないと。

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