頑張ったご褒美は沢山欲しい
「…で? 我に言いたい事があるのだろう?」
「はい。お願いがあります」
「ふむ、聞こう」
すっごい嬉しそうだな。
私に頼られるのが嬉しくてニヤニヤが止まらないご様子。
ほらっ、いつもの無表情が崩れているぞ。
「この魂に合う人形を作って欲しいです」
エーリンをルゼルに見せると、顎に手を当てて一考。
……少し悩んでいる。
難しいかな。
「鬼族か…人とは構造が違うから、我には鬼族の人形を作れない」
「そう、ですか…」
人間の人形だったら…駄目だよね。
鬼族の誇り…角が無いんだから。
どうしよう…赤い光が弱くなってきている。
「ならば…あやつに手伝ってもらうか…行くぞ」
「はっ、はい」
抱えられ、ルゼルが飛び立つ。
向かう方向は、家の方角。
そこでルゼルが何かを取り出した。折り畳み式の魔導具、かな。
ピッポッパッという音が鳴り、魔導具を耳に当てると声らしき音が聞こえた。
「あっ、仕事中悪いな。急ぎで我の部屋に来て欲しい」
『はいはいー』
ポチッと魔導具を折り畳んで仕舞った。
通信魔導具なんだな。
「エーリン…頑張れ」
「……アスティ、ロンドを討ったのか?」
「はい、これです」
ルゼルに黒い宝石を渡すと、面白そうに上に向けて光にかざした。
「くくっ、凄いな。もうロンドを討てるまでに成長したか」
「おかぁさんのお蔭です。おかぁさんが居なかったら、私はとっくに死んでいました」
「我は背中を押しただけだ。アスティの努力、才能、周りの助けが合致した結果、だな」
「周りの助けが大部分ですよ。今回も、エーリンに助けて貰いました」
ルゼルがよくやった…と、頭を撫でてくれた。
よくやったのはエーリンだよ。
あと少しで到着だ…
よし、城に到着してルゼルの部屋に入った。
…なんか本棚の恋愛小説が増えているな。本が増えているというか、本棚が増えている。
「よし、準備をしよう」
「はいっ! 何をすれば良いですかっ!」
「そこにこの布を掛けてくれ」
「はいっ!」
……本棚に布を掛けた。
……これ、急な来客で困った時にやるやつじゃ…
「次はあの時計をこれと入れ換えてくれ」
「…はい」
ハート型の可愛い時計は、無骨な時計と入れ換わった。
……趣味がバレるのを恐れて無難に攻めるあれだね。
「よし、カラーチェンジ」
部屋の色が暖色系から寒色系に変化…落ち着いたシックな感じになったよ。
終わった後、部屋をノックする音が響いた。
「お邪魔しますー。用事ってなんですー?」
入ってきたのは、闘技場受付のクーリンさん?
なるほど、鬼族の人形を作るにはクーリンさんが適任なのか……なんか、動きがぎこちないな。
緊張している?
いや、違うな…筋肉痛みたいな……
……あっ。
「……クーリンさん」
「あらアレスティアちゃんも居たのねー。どうしたのー?」
「…先程は、ありがとうございました」
「なっ、なななななんの事かしらねぇー!」
「解りやすいリアクションですね。鬼神様」
「むぅー。バレないと思ったのにー」
最後に使った奥義とか、もろ自分の名前じゃん。
唇を尖らせながら、私に手を差し伸べてきた。
私は魂の瓶をクーリンさんへ渡すと、少し微笑んで瓶を撫でた。
「…上手く、いきそうですか?」
「……えぇ。でも、エーリンは…心がボロボロなの。上手く定着するか解らない…」
「それでも、お願いします」
エーリンは、私に出会う前から心がボロボロになっていた。
自分が辛い筈なのに、私の為…みんなの為に笑顔で居た。
私は…救いたい。
それが傲慢だって解っているけれど。
「ここで生きていきたいという意志を持ってくれたら良いんだけどー…」
「……クーリンさん、お願いがあります」
「なぁに?」
「エーリンを、褒めてあげてくれませんか?」
「ん? うん。そろそろ時間が無いわねー」
……なんとなく、エーリンの実家で見付けたスーリンさんの首飾りを渡してみた。
うん、似合う。
いや、やっぱりやめた方が良いかな…別にクーリンさんがお母さんじゃないし…
「アスティ、魂の瓶を持っていてくれ。クーリン、頼むぞ。人形作成」
やっぱりやめると言えずに、人形作成が始まった。
ルゼルがベースを作り、クーリンさんが調整していく。
私はじーっと見ているだけ。
……
……あっ、お礼に何かしないと。
何が良いかなー。
うーん……聞いてみるか。
「あの、お礼をしたいのですが…何か希望とかありますか? 例えば、表世界の物とか…」
「んー? 大丈夫よ。エーリンは功績があるから、復活してもお釣りが返ってくるわー」
「功績? エーリンが?」
「そう。裏世界の王の時期候補を見出だした人材よ? 多大なる功績ねー」
……今、聞いてはいけない事を聞いた気がする。
そうか、功績があるならお礼は良いのか…
いや、お礼をしてしまえばエーリンの功績は無かった事に出来る。
嫌だよ王なんて。
「クーリン、アスティは駄目だ。変態にはあと五万年くらい頑張って貰う」
「えー、他に居ないわよー」
「居ても居なくてもこの世界は変わらないぞ」
「まぁそうだけどー。肩書きは大事よー」
肩書き…裏世界の王ですっていう自己紹介とか痛い奴じゃん。
おっ、エーリンが出来てきた。
赤い髪が伸びた女の子。
角は、まだ無い。
「アスティ、魂の瓶をエーリンの頭上へ」
「はいっ」
魂の瓶をエーリンの頭上へ持っていくと、赤い光が飛び出し、エーリンの頭に入った。
そしてクーリンさんが頭をグリグリすると、ポコンッと角が出てきた。
おー…エーリンだ。良かったよ…
「じゃあ、起きるまで待ちましょうかー」
「はい。ありがとうございました。本当に、ありがとうございます」
「ふふっ、良いの。私には娘達が居たんだけど、末の娘がエーリンそっくりだったわー。自分よりも他人を想う気持ちが強くて…」
「娘さんは…」
「故郷が死の星になって、散り散りになったのー」
じゃあ末の娘が私の世界に来たのかな? 死の星…か。
エーリンの頭を撫でる姿は、本当の母親みたい。
「んぅ…ん…」
エーリンが動き出した。
ドキドキ…
……ぎゅってしよう。
お肌すべすべ綺麗なエーリン…新品エーリンだ。
「エーリン…おはよう」
「んー? アレスティアー? あれー? 私死にましたよねー? じゃー、アレスティアも死んだんですかー?」
「エーリン…良かった…良かった」
「んー? んー? ん? ……お母…さん?」
エーリンが私をヒョイッと横にやり、ニコニコ笑うクーリンさんにフラフラと近付いていった。
なんだろう…ヒョイッとやられて少し切ない。
「エーリン、頑張ったわねー」
「おかぁ…さんっ…お母さん!」
エーリンに抱き締められたクーリンさんがお母さん? っと、私に視線を向けた。
とりあえず両手をグーにして、頑張れポーズ。
ルゼルも一緒に頑張れポーズ…可愛い。
正直クーリンさんってエーリンのひいひいひい……おばあちゃんだし…まぁ、大丈夫でしょ。
クーリンさんが小さなため息を吐き、エーリンの頭を撫でた。
「もう…あんな事しちゃ駄目よ」
「…アレスティアを守りたくて…でも、アレスティアも死んじゃった…頑張ったのに…頑張ったのに…」
「良いのよー。アレスティアちゃんもエーリンに感謝しているしー。今はゆっくり休みましょー」
「うん…ここは黄泉の国だよね。お母さんとずっと一緒に居れたら良いな…そうだっ、私ねっ、あれから迷宮一人で攻略したんだよ!」
おい、死んだ事は否定してくれ。
……エーリンが楽しそうだから、追々伝えよう。
とりあえず、エーリンはクーリンさんに任せるか。
ルゼルの部屋を出て、花が咲き乱れる庭園へ向かいベンチに腰掛けた。
……上を見上げると、澄み渡った青い空。
アレスティア人形の時と景色は変わらないけれど、感じる魔力や空気が違った。
「アスティ、ロンドはどうするんだ?」
上を見上げていると、ルゼルが後ろから抱き締めてきた。
はぁ、癒される。
ロンド…黒い宝石かぁ。一応決まっている。
「あの、これで次元転移ゲートを作って欲しいです」
「次元転移ゲートか。出来なくは無いが、それで良いのか? 次元転移なんて別の方法の方が効率的だぞ」
「へぇー、どんな方法です?」
「これを吸収すれば良い」
「少し考えたんですが、私の中の容量が一杯という感覚があるんですよねぇ」
「増やせば良いだろう」
「どうやって?」
「そろそろアラステアの加護を全部貰ってみたらどうだ?」
あぁ、そうだなー。
序列戦で少し貰ったけれど、全部は貰っていない。
よしっ、幼女に会いに行くか。
あっ、でも今はエルメシアに居るのか。
……今から本気出して行けばエルメシアを堪能出来る? いや、流石に間に合わないか…あっ、リアちゃんを喚んでエルメシアへ連れて行って貰えば良いか。
まぁでも、直ぐに帰るのもあれだから…
「その前に、頑張った私を沢山可愛いがって下さい」
「ふふっ、もちろんだ」
可愛いがって貰ったら帰ろう。
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