やっと出来たよ…

 

『破壊の力は…破壊神が消えてから数千年……誰も発現しなかった…何故…人間以下の下等生物が持っている!』


 破壊の力…私が発現したこの力は、深淵…邪悪のような深い闇の付与や、呪い…混沌のような状態異常とは違い、直接的な攻撃を行う。


「さぁ? 流石に一撃では壊れないか」

 私の破壊の瞳を受けて、ロンドの右腕が破壊された。

 調整が難しい…荒れ狂う波のような激しい痛みが左目を支配しているけれど、痛いだけで能力は使える。


『くそ…邪悪…混沌…破壊が揃っただと…認めん…認めんぞぉ! 零魔法・リミッターゼロ!』


 ロンドが自分に零魔法を掛けた。

 正直、私は能力が増えただけで身体能力が上がった訳ではない。

 でも、その魔法効果を壊せば良い。


「魔法破壊…ぐっ…」

『なっ…やはり、本物…嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ!』


「魔法も、魔力も、壊してやる。もう、お前は格下なんだ」

『格下な訳あるものかぁ! 冥の太陽!』


 黒い太陽…大きい。

 蒼い太陽の数倍…これは、壊せるのか?


「魔法、破壊」

 …壊せた。

 壊せたけれど、目の痛みが倍増した…これは…まずい…

 早く、仕留めないと。


『くそぉ! こんな奴に…くそくそくそくそくそぉ! 王よ! 今こそわたくしに力をぉぉ!』


 なんだ? ロンドが両手を天に向けると、キラキラとした黒いエネルギーが降りてきた。

 そのエネルギーは、ロンドに纏わり…鎧を形成。


「破壊……壊せない…か」

『おぉ…これは…武神装・憤怒の冥王! ははははは! 王よ! 心より感謝申し上げます!』


 破壊の効かない黒い鎧。

 …幼女の武神装アヴァロンと同列の装備。

 ……確かに、強い。

 でも、よーく視えるよ。

 両目が魔眼だからかな。


「怒れば、怒る程に強固になる鎧。冥属性大強化、冥王剣、自動回復…他にも効果があるな。武神装か…」

『これは王より賜りし鎧! これでわたくしの勝ちは揺ぎ無い! 冥王の太陽!』


 先程の冥の太陽よりも大きい…空に蓋をしたような、真っ黒な太陽。

 これは、今の私には壊せないかなぁ。

 今よりも強くなる方法…なんか、出来そうな気がする。

 私の魔装…


「邪悪、混沌、破壊…魔装」

 深淵の闇に、呪いが入り、破壊という暴力で掻き混ぜる。

 これが、私の理想の力?

 いや、違うな。

 私の求める力は、こんなんじゃない。

 ただ、これが精一杯なだけ。

 だから、魔装も鎧にならずに、深いフードの黒いローブになった。


『その…姿は…おかしい…お前は、王に会った事は無い筈…』

「やっと出来た私の魔装…負の根源。なんだろう…この感覚…何かが繋がるような、誰かの記憶を見ているような…あなたは、誰?」


 誰かが話し掛けてきた。

 誰かが私を祝福している。

 何故、祝っているのだろう。

 解らない。

 解らないけれど、その誰かは、私の頭に戦い方を打ち込んだ。


 その戦い方は…卑怯だよ。

 私に…お似合いじゃないか。


『どうなっている…くっ、冥王の太陽に呑み込まれろ!』

「……なるほど、裏魔法・累積ダメージ」


『ぐぁぁああああ!』


 私の累積ダメージをロンドに押し付けてみた。

 武神装を貫通する概念攻撃という卑怯な魔法が使える。全く…私らしい魔法だ。


「そうだ、あの太陽はどうしよう…魔力も、少ないし…えっ? 斬れば、良い?」


 どうやって。

 魔剣を、創る?

 まぁ、魔装って魔法剣の延長だから…出来なくも無いか。

 邪悪、混沌、破壊を混ぜ、剣の形に変化させてみた。

 どす黒い歪な剣…下手くそだけれど、こんなんで良いのかな?


 ――イャォオ! キルヨォオ! キッチャウヨォォ!


 うるせえな。

 あっ、血盾さんお久し振りです。


 ――フリオロスダケェェエエ! イヤァァヤッパコワイィィイ!


 ていっ。あっ、真っ二つに斬れた。

 もっと細かく斬って…破壊。

 なんとか、壊せた。


『……ぐっ…冥王の太陽までも…』

「もう、終わろう。奥義…」


 ――ハリキッチャウヨォォオオオ! パワーアップシタカラネェェエ!


 血盾さんが張り切っているから、私も張り切るか。

 エーリンに、この奥義を捧げよう。


「神殺し」

 歪な剣を振り下ろすと、どす黒い巨大な円柱がロンドを包み込んだ。


『ぐぎゃぁぁああああ!』

 簡単に神を殺す為に編み出された奥義…

 超再生を持っていても、それを凌駕する破壊。

 破壊された場所から混沌の呪毒が入り込み、深淵の闇で擂り潰す。

 そして一度使うとしばらく使えない程に、身体への負担が大きい。


 私はもう、立つ事も出来ずに崩れ落ちた。

 顔面を強打しても、目の痛みには敵わないな…

 でも、私の勝ち。いや、私達の勝ちだ。


「レティ!」

 ミズキが駆け寄り、私を抱えてエーリンの所へ連れて行ってくれた。


「エーリン…勝ったよ」


 やっぱり、悲しいよ。

 抱き締めたいのに、抱き締めたら身体が崩れてしまう。

 ……なんだ? これは…


「……レティ?」

 ……エーリンから、赤い光が出てきた。

 そっと触れてみようとしたけれど、手をすり抜けて少しずつ上へと上がっていく。


「……エーリン?」

「どう、したの?」


 ミズキには見えないのか…

 きっとこれは、魂…エーリン…行かないでよ。

 まだ、一緒に過ごしたいのに…


「まだ……行かないでよ」

 上へと上がる速度が、ゆっくりになった…エーリンも、名残惜しいのかな……


 ……魂…か。

 ……そういえば…迷宮で魂の瓶を見付けたな。

 ……ポンッ。

 ……入る?

 ……少し迷っている。

 ……あっ、入った。


「レティ…何してるの…」

「……わがまま言っても、良いですか?」


「……うん」

「私は、これから裏世界へ行かなければいけません。申し訳ありませんが、エルメシアへは自力で帰って欲しいんです」


「えっ、自力…う、うん…解った」

「ありがとうございます。その前に…」


 ロンドが入ったどす黒い円柱を縮小していく。

 ぎゅー…ぎゅー…よし。

 よし、黒い宝石が出来上がった。


「……勝った…の?」

「はい、勝ちました。これでミズキさんは元の世界へ帰る事が出来る筈です」


「うん…でも、素直に喜べない」

「…受け入れるしかありませんよ。悲しんでいたら、エーリンが浮かばれません」


「エーリンちゃん…」


 風が吹き、エーリンの身体が完全に崩れて風に運ばれていった。


「では…ミズキさん、パンパンで会いましょう」

「うん…」


 ミズキはエルメシアへと向かっていった。

 私はルゼルから貰った裏世界への転移石を使う。


 うわ、何これ……次元を越えるって気持ち悪っ。


 足がガクガクなのを忘れていたよ。


 ……っと、着いたな。裏世界。


 生身の身体で来たらよく解る。

 凄く、空気が澄んで気持ち良い。

 普通なら息苦しいんだろうけれど。


 故郷に来たような、懐かしい気持ち。


 私の視線の先にいるルゼルは、とても嬉しそうに笑っていた。


「おかえり、アスティ」

「はい、ただいま。あの…もしかして待っていたんですか?」


「もちろん、あれからここで待っていたぞ」

「ほんと、おかぁさんって一途ですよね」


 過保護にも程があるけれど、今はその過保護に感謝しよう。


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