久し振りにずっと白兜だから蒸れ蒸れだよ

 

 しばらく雑談していると、客間に来客…ミリアさんが来た。


「失礼します」

「いらっしゃい。こちらへどうぞ」


 ヘンリエッテに案内され、ミリアさんが奥のソファーに座った。丁度ブリッタさんの膝枕を堪能していたので、良いタイミングとは言えないけれど仕方ない。


 一応兜着用でミリアさんの対面へと座った。


「どうもミリアさん、お久し振りです」

「久し振りねレティちゃん。兜は取らないの?」


「暗部の方がいつ見に来るか解らないので外しませんよ」

「まぁ、レティちゃんにとっては敵地だもんね。ところでどんな経緯でアース王国の護衛をしているの?」


「あれから帝国を出て、レイン王国を通ってアース王国を目指したんですよ。そこで周りを色々バタバタさせて気付いたら今に至ります」

「うん、よく解らないけれど色々やらかしているのは解るわ。ところで…」


 そこで少し間が空いた。まぁ、聞きたい事は解るよ。


「それについてなんですが…そのまま退職は出来ませんかね?」

「うーん…レティちゃんって今役職に就いているから難しいのよねぇ。次期皇帝の戴冠式が終われば退職出来ると思うわよ」


「……役職ってなんですか?」

「……えっ…フーに言っておいてって言ったのに…レティちゃんはね、剣聖と大魔導士なの」


「……返上します」

「帝国でレティちゃんより強い人じゃないと駄目よ」


「……居ませんね」

「……それはそれで凄い発言ね」


 えー…やだぁー…剣聖と大魔導士って何するのさ。

 ……式典? 出ないよ。

 ……闘技大会? 出ないよ。

 ……魔法大会? 出ないよ。

 ……戴冠式? 出たくないよ。

 ……騎士団の訓練? 女性騎士さんなら考える。

 ……魔法士団の訓練? 基本属性がへっぽこだからやだ。


「とりあえずいつも通りで良いですか?」

「ええ、代理で元剣聖と元大魔導士が出るからね」


「そうですか…じゃあフーさんは良いとして、リックに何かあげましょうかね。えー…これかな」


 剛竜覇道剣という迷宮で見付けたいらない剣。

 反りのある曲刀で柄にはドラゴンの顔が彫られているダサい剣だ。

 これをリックにあげよう…ミリアさんには重いから時間のある時に届けよう。


「……いやいやいや、これ数億ゴルドはするわよ?」

「そうなんですね。みんないらないっていうんでリックに送り付けます」


「本当に良いのね?」

「良いですよ。リックなら好きそうですから」


「…なんかレティちゃん、しばらく見ない間に遠くに行ってしまったみたいで寂しいわ」

「根本は変わらないですよ。まぁ以前より遠い存在になった事は確かですね…」


 一応端から見たら天使だからね。こんな性格だけれど天使だからね。こんな生活しているけれど深魔貴族だからね。


「はぁ、たまに顔を見せてくれるなら良いわ。あっ、そうそう面白い話を聞いたのよ」

「なんです?」


「アレスティア王女が美少女グランプリの決勝に出るらしいわよ」

「ふーん。本物ですか?」


「偽物でしょうね。驚かない所を見ると知っていた?」

「いえ、噂を振り撒いている時点で予想はしていました。何故偽物と解るんです?」


「だって本物はここに居るじゃないの」

「あー言っておきますが、アレスティア王女は死にましたよ。普通のアレスティアさんは居ますがね」


「ふふっ、普通じゃない癖に」

「そうなんですよねぇ。今のアレスティアさんは天使アレスティアさんになっちゃいましたから」


 あっ、ミリアさんがおでこに手を当てて天を仰いだ。

 ふっふっふっ、聞いてしまったのう。

 剣聖アレスティアとでも言いたかったんだろうが、私はその上を言ってやろうではないかっ。


「……因みに、聖女って?」

「ヘルちゃんに決まっているじゃないですか。最近は女神様と一緒に暮らしていますよ」


「……あぁ…聞かなきゃ良かった」


 帝国の損失を計算したな。

 偽物アレスティアを出すという事は私を敵に回す事になり得る。

 私を敵に回せば女神幼女も敵に回り、教会をも敵に回す事になる…かもしれない。


「どうせ本物を誘き寄せる罠なので私は何も動きませんよ。その偽物さんにはアレスティア王女という重圧に耐えられるか見ものですねぇ」

「見えないけど悪い顔をしているのは解るわ…確かに…見ものよねぇ…」


「という事で、この情報をどう料理するかはお任せします。そろそろ時間ですね」

「ええ、時間を作ってくれてありがとう。もう一緒に受付に並ぶ事は無いのが寂しいけど、いつでも遊びに来てね」


「はい、暇になったら行きますね」


 ばいばーい。

 そろそろ帝国祭典ホールへ行かないとね。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 城から出て、徒歩でホールへと向かう。

 馬車が用意されていたけれど、無視して行った。


「ねぇヘンリエッテ」

「…なに?」


「優勝は出来ないかもね」

「……まだ解らないでしょ」


 恐らく、優勝するのは偽物アレスティアじゃないかと思う。

 ヘンリエッテがどれだけダントツな結果を残しても、そうなる可能性は高い。

 もしそうなったら、まぁ、台詞無しは勘弁してやろう。


 ホールの裏口から、控え室に到着。アース王国第一王女の貼り紙があったのでそこに入った。

 ブリッタさんと侍女さんはヘンリエッテに化粧やらを施し、私とミズキはソファーに座って待っていた。


「ねぇレティ、感じる?」

「そうですね、異質な魔力が二人」


 異質な魔力…恐らく魔眼を持つ者が祭典ホールに居る。

 第一皇女の魔力では無い…


「心当たりは?」

「一人は知っていますが、もう一人は知りませんね」


「警戒を強めた方が良いかな?」

「そうですね。私は大丈夫ですが、ブリッタさんと侍女さんは耐性が無いですからね」


「私と姫もね」

「ええ、という事で見回りしてきます。出番が来るまで誰も入れない方が無難ですね」


 みんなを残し、部屋を出る。

 グランプリ前に見付けないと……ん?


「あ、ちょっとあなた、迷ってしまったの…私の控え室を教えて貰えない?」

「…さぁ、名前も知らない方の部屋なんて知りませんね」


「…私はアレスティアよ」

「あぁ、噂の方ですね」


 ……やぁどうもアレスティアさん。早速会えましたね。

 なんか違和感のある金髪…染めているのか? 黒目で愛嬌のある雰囲気。

 ……ふーん。

 転移者か。

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