幼女の家…
「……アテアちゃん」
「……なんじゃ」
「回復して下さい」
「自分でやれの」
岩が掠ったよ。
五秒で転移って言ったじゃん。
血だらけだよ。
……エナジーヒール。
「ここがアテアちゃんの家ですか?」
「そうじゃな。綺麗じゃろ?」
うん、綺麗だな。
正面を見ると積み上げられたカップ麺の山…味毎に色が違うので、見事なコントラストを描いている。
右手にはガラス張りの冷凍庫に冷凍食品がズラリと並んでいる…どれもチンすれば完成するタイプだ。
左手にはガラス張りの冷蔵庫…ほぼ甘いもの。
後ろを見ればスナック菓子の段ボールが積み重なり、中卸業者感が凄い。
「ここまで食っちゃ寝に特化した家も珍しいですね」
そして中心…大きなベッドになっており、近くのテーブルには給湯器と魔導レンジ…少し上を見上げると魔導テレビが備え付けられていた。
「仕事終わりにテレビを見ながら独りでカップ麺をすするのが日課じゃ」
「悲しくなるので言わないで下さい。イツハさんはこの中でどうしていたんですか?」
「カップ麺の隙間を縫った奥に仕事場があっての。そこじゃな」
「じゃあそこに行きましょうか」
……ちょっと、通れないよ。
あっ、崩れた。
めんどくせぇから全部収納しよう。
「アレスティア…鬼じゃな」
「自分で収納すれば良いじゃないですか」
「目でも楽しみたい」
「限度を知って」
「あれじゃな…食後のパンと一緒じゃ」
「食後にパンは食べません。謎理論を押し付けないで下さい」
奥の仕事場とやらを見学しよう。
…大きな魔導テレビに、ぱそこんらしき物やら、たぶれっとらしき物が並んでいる。
幼女がたぶれっとを弄ると、魔導テレビにリアちゃんとイツハさんが映し出された。
『メテオストライク!』
『無駄よ。空間断裂』
大岩が高速で落下し、リアちゃんの直前で真っ二つに割れて墜落。リアちゃんは無傷…イツハさんは腕に白い槍が刺さっていた。
「イツハが劣勢じゃの」
「中々激しいですね。これは大陸の上ですかね?」
「そうじゃな。大陸の上で戦えばアラスに影響無いからの…多分」
「あぁ、戦う場所を作ったんですね。終わるまでここで観戦しましょう」
「じゃあカップ麺食べてくるの」
「私にも作って下さい」
「嫌じゃ、自分で作れい」
「じゃあ勝手に作りますね」
「作るならわっちの分も作ってくれの」
「嫌ですよ」
「作って作って作ってー!!」
「駄々捏ねないで下さい。どうせカップ麺にお湯を入れる時に怒るんですよね?」
あっ、ムスッとした。
カップ麺毎にこだわりがあるから嫌なんだよ。
『フォトンレーザー』
リアちゃんが白い槍を向けて…ソルレーザーに似た光線を放つ。
『クリスタルシールドっ!』
イツハさんがキラキラした盾を出現させ光線を吸収。おお、凄い…盾が変型して光輝く槍になり、上空に投げ付けると槍が巨大化…リアちゃん目掛けて落ちていく。
『もう…相変わらず大きな魔法しか使えないのね。絶対障壁』
リアちゃんの上にドーム型の結界が出現し、槍が衝突したけれどびくともしない。
…あれどうやっているんだろう…へぇー…時の魔眼で結界の時間を止めているのか…
「なんか強すぎません? 序列戦だと私達負けますよ」
「そうじゃな。くじ運に掛けるしかないの」
「一位だともっと強いんですよね? 何年掛かる事やら…」
「あと千年以内には五位になりたいの。わっちのやる気がもう消えかけておる」
「アテアちゃんにやる気なんてある訳ないじゃないですか。笑えない冗談はよして下さい」
「今日は何故か目から汗が流れるの」
イツハさんが押されているように見えるけれど、二人はまだまだ余裕そうだな。
『私…ママの弱点を知っているよ』
『あら、何かしら?』
イツハさんが腕に刺さっている白い槍を、腕を切り落とす事で取り外した。リアちゃんに弱点なんてあるのか?
『ふふっ、それはね……禁術・体躯退行』
……えっ、イツハさんの身体がどんどん小さくなっていく。やがて、幼女と同じくらいの身長になった。
茶髪に茶色い目がクリッとした、ショートカットの女の子……あぁ…ヤバい…抱っこしたい。
『なっ…そっ…その姿は…』
『ママ…イツハの事…いぢめないで?』
『ぐはぁっ!』
あっ、リアちゃんがダウン。
すげぇ…あれが弱点か…
リアちゃんって子供好きだからなぁ……片腕の女の子なんて心にクリティカルダメージだよね。
『ふふっ、ふふふ…ママ…だいちゅきっ!』
『いつはぁ! ごめんねぇっ!』
イツハさんがリアちゃんに抱き付き…
『ふふっ、エクスプロード・ノヴァ』
大爆発した。
あっ、魔導テレビの映像が途切れて砂嵐になっちゃった。
……どっちが勝ったんだろう。
「……アテアちゃん」
「……駄目じゃ」
「いや、まだ何も言っていないじゃないですか」
「…わっちを捨てる気じゃろ?」
「まさかぁ…元気一杯でしっかりしていて掃除も出来て堕落していなくて私を引っ張ってくれそうな理想の幼女が現れただけじゃないですかぁ。アテアちゃんを捨てる理由になりますか?」
「捨てる気満々じゃろっ! アレスティアはわっちを養うって決まっておるのじゃ!」
「勝手に決めないで下さいよ。とりあえず終わったみたいなので帰して下さい」
「い、嫌じゃっ!」
よしよし。
冗談だから頭グリグリすな。
「大丈夫ですよ。捨てたりしませんから」
「ふむぅ……でも…」
「安心して下さい。パンパンに帰ったら一緒にお昼寝しましょ?」
「…あそこに帰ったら、みんなおるからアレスティアを一人占めできん」
「…可愛いですね…」
「わっちな…あの…その…」
幼女がもじもじしながら、潤んだ目で私に顔を近付ける。
「アレスティア…」
「アテアちゃん…」
「明太子おにぎり食べたい」
「駄目ですよ」
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