とりあえず、ときめかせれば良いらしい
「さぁっ! ときめき審査の説明をしようっ! ルールは簡単っ。くじ引きで当たった審査員をときめかせたら高得点だっ! そして難易度が高い審査員程ボーナスが付くっ!」
くじ引きなのか…知らない人以外ならなんとかなりそう。そもそも名前を知らないぞ。
しかも難易度って何さ…もしかして席順とか?
リアちゃんが最高難易度で、フーさん、知らない人、クーちゃん、蒼禍、ミズキと来て、ムルムーが一番簡単……多分これ私基準だろうな。
私はいつもの執事服で男装。
ヘルちゃんはいつもほ黒い私服…もうやる気が無い。
ライラは花柄のワンピース…鬼可愛い。
ヘンリエッテはチャイナ服と呼ばれる動きにくい服…そのスリット横パン見えてんぞ。
幼女はゴスロリ…気合いが入りまくって謎だ。
「点数が高い順に始めるぞっ! 最初はアラステアちゃんっ!」
「きゅんきゅん言わせたるぞえっ! ……あっ、やべ…」
どうした幼女。誰を引いた?
……うわ、リアちゃんか。
幼女にリアちゃんをときめかせるなんて出来るのか?
私達は横にずれ、幼女とリアちゃんが中央にて向かい合う。
「イったん…」
「アラステアちゃん…」
「わっちは…イッたんが…好きなんじゃ…」
おー、幼女の癖に王道で攻めるか。
私ならこれをおかずに素パン五枚は食べられるぞ。
「好きだけじゃ…嫌…」
「イッたん…」
「アラステアちゃんの一番に…なりたいの…」
「わっちの…いち…ばん…」
「…私じゃ…一番になれない…かな?」
「一番じゃよー! イッたーーんラブーー!!」
こうして二人は抱き合い…いやいやいや、幼女がときめいてどうするよ。
あっ、リアちゃんが悪い顔している。
「ふっ、アラステアちゃんチョロいわね」
「はっ! しまったぁぁぁあ!」
幼女はときめき返しにあってしまったな。これは減点…可哀想に。
トボトボと戻って来た…あっ、寝た。
「次はヘルたんだぁー!」
「…あれの後は凄い嫌ね。……あっ、やった。クー」
「ふっ、逆にヘルたんをときめかせるです」
向かい合って、クーちゃんは意気込んでいるな。
でもヘルちゃんは余裕の表情…
「クー…私の事好き?」
「そりゃ、好きです」
「そう…でも私はクーの事を好きじゃなかったら?」
「えっ、好きじゃ…ないです?」
「…好きじゃ…ないかも」
「嫌ですっ。ヘルたん好きって言うです!」
「嫌よ。好きじゃないわ」
「ヘルたぁん…嫌です…嫌です…」
「好きじゃなくて、大好きなのよ」
「…えっ?」
「クー…大好きよ」
「ヘルたぁぁあん!」
……流石は親友同士…ヘルちゃんの方が上手だったな。
これ完全にくじ運な気がする。
クーちゃんがヘルちゃんから離れなくなってしまった…これはときめきポイント高いぞ。
「これはもしかしてですねぇっ! では次っヘンリエッテちゃん!」
「はいっ、頑張ります。……あっ、ミズキ」
「姫、私は簡単にときめきませんよ」
「ふふっ、私だって成長しているんだから」
いつもヘンリエッテがミズキにときめいているから、逆になるのは珍しい。がんばれー。
「ミズキ…初めて会った時の事、覚えてる?」
「もちろん。姫は牢屋の中に居ましたね。自分も誘拐されたのに、他の子供を励まして…凄く立派でしたね」
聞いた事がある…四年くらい前にヘンリエッテは誘拐されて、他国に売られる所だった。たまたま港町に来ていたミズキが助けたんだっけか。それ以来ヘンリエッテはミズキにベッタリになった。
「ミズキが居るから今の私がある。ミズキは恩人で、憧れで、大好きな人…本当なら、故郷に帰って欲しくない…」
「姫…」
「ずっと悩んでいたけれど…決めたの。私…ミズキの故郷が見たい」
「それは…駄目です」
ミズキと一緒に行けば、もう帰って来られない。それに、行けば確実に苦労する。言葉も文化も常識も違うから、正直言うと迷惑だと思う。
「私はもう決めたの。ミズキの為なら何だってする…」
「苦労させたくないんです。私は…帰ったら力も無いただの一般人…あなたを守れません」
「大丈夫。私が守る」
「守れませんよっ! 平和だからこそっ! 法律に縛られて生きるのが難しい! 異世界人なら尚更です!」
……どちらも固い意志…譲れないよなぁ。ミズキは苦労させたくないし、ヘンリエッテは折れたらミズキと一生別れる事になる。
「嫌だ…嫌だよ…お別れなんてしたくない…」
ヘンリエッテは泣き崩れ…ミズキも拳を固く握って泣いている。
もうときめきどころでは無いシリアスな場面で、みんな私にアイコンタクトを送るのをやめて欲しい。
私は何もしてやれねえぞ。何を言って欲しいのさ。
「アスティ…あれは言わないの?」
「あれ極秘なの」
次元転移ゲートは極秘案件だから言わないよ。ヘルちゃんにはバレているけれど、秘密なのだよ。
「アスきゅん、頑張って」
はいはい。という事で、別に今決めなければいけない事ではないので保留にさせてしまおう。
「ミズキさん、ヘンリエッテ、今のところ三、四年後の話なので答えを焦る必要はありませんよ」
「えっ、なっ、なんでっ?」
「いや、だってミズキさんは十六、七歳くらいに転移したんですよね? ヘンリエッテがその歳になってから行けば同級生として一緒に学校へ行けますし……あれ? 違いました?」
なんか二人とも驚いているけれど…ミズキは帰る時に若返るんだよね?
別に深魔貴族を倒してから直ぐに帰るなんてしないでしょ。極端な話、ババァになってから帰っても良い訳で…
「「あっ…」」
気付いたか。
最低限の条件として、ヘンリエッテが常識やらを学ぶ時間は充分にあるという事だ。なんなら資料を取り寄せても良いし。
「決めるのはそれからでも遅くは無いですよ。焦る必要はありません」
「ありがとう…」
二人が泣きそうな顔で抱き付いてきた。
よーしよし。焦るな焦るな。
「前にも言いましたが…悲しい別れなんて、私がさせません。今は…ヘンリエッテの頑張りを応援してあげて下さい」
「うん…」
「あれすてぃぁ…」
まぁでも、二人が女子高生になってキャッキャウフフする光景を羨ましく指を咥えて眺めるなんて嫌だから、こっそり付いて行くけれどねっ!
私の学生生活を再出発しなければいけないのだよ。
手続きや身分証なんて深淵の瞳があれば大丈夫…ふっふっふ。
「アスきゅんが二人のときめきをゲットしたぞぉっ! これはボーナスポイントだあっ!」
「アスティちゃん流石ねー!」「ミズキさん帰らないでー!」「二人とも行っちゃいやー!」「アスティさまぁー! 抱いてー!」
おっ、やったー。これでみんなと同じラインで勝負出来る。
「ではではお次はライラっ!」
「はっ、はいっ! ……あっ、ムルムーしゃん」
「ふふっ、ライラ…見せてもらおうかっ! ケモ耳っ子のときめきの性能とやらをっ!」
「ムルムーしゃんっ! だいしゅき!」
「いやぁーー! きゃわいぃぃい!」
……ムルムーチョロいな。
一瞬だったぞ。
「決まったーー! まさに一撃必殺!」
「可愛いー!」「私もときめいちゃった!」「ムルムーさん羨ましい!」
「これで最後だぁっ! アスきゅん!」
「あっ、はい。……あの、これなんて読むんですか?」
多分知らない人なんだけれど…読めないので教えて下さい。
「あらアスきゅん当たりね。イツハ、出番が来て良かったわね」
「ふふふっ、見てるだけでも楽しかったけどね。イツハだよっ、よろしくねっアスきゅんちゃん!」
「イツハさんというんですね。はじめましてアレスティアです」
イツハさん…茶色い髪に茶色い瞳…歳はリアちゃんと同じくらいに見える。丸みを帯びた優しそうな目に、口角が上がって笑顔が素敵な元気一杯の雰囲気。可愛い系のお姉さん…抱き締めて欲しい。
…あぁそうだ、幼女の代理ってこの人かな。
一応執事服なので、胸に手を当てて礼をしてみるとニコニコして嬉しそう。
「アスきゅんちゃん男装似合うね」
「イツハさんこそ可愛いですね…良い子良い子して欲しいです」
「良いよっ、おいでー」
「わーいっ」
どさくさ紛れに抱き付いてみよう。腰細っ…ちょうど胸の位置に顔が…背が高いな。イツハさんの手が私の頭に添えられ、優しくと上から下へと撫でてくれた。なんか…温かくて眠たくなる…
もぞもぞと顔を上げて、下の角度から眺めてみた…じーー。
「ん? 変だった?」
「いえ…イツハさんが可愛いので目に焼き付けようと思いまして」
「ふふっ、ありがと。ママの言った通り可愛いくて面白い子だねっ」
「ママ?」
「あぁ、アスきゅんちゃんがリアちゃんって呼んでいる人だよ」
「…まじ?」
もぞもぞとリアちゃんの方を見る……いや、似ていないな。リアちゃんを全く掠っていないけれど…
リアちゃんが目のところで横ピース…可愛いな。
「驚いた?」
「はい……あっ、あのリアちゃんっ」
「なぁに?」
「娘さんを下さいっ!」
あっ、間違えた…娘さん素敵ですねって言おうとしたのに……ヘルちゃんのため息が聞こえてきたよ。
リアちゃんが切ない顔で胸を抑えてよろけてしまった。
イツハさんは私をギュッと抱き締めて…苦しい…
ちょっと…訂正した方が良いかな…
「ママ…私…」
「…駄目よ…認めないわ」
「あっ、すみませんあの…」
「あなたにアスきゅんは渡さないわっ!」
いやそっちかよ。
逆だろ。
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