…私も魔力切れですぅ

 


 あれから王都に向かって真っ直ぐ進んでいる訳だけれど、どうも魔物が多い。元々こんなに多いものなのか、それとも魔物の異常発生なのか。


 一応魔物を倒してはいる。私は良い子ちゃんだからね。いや…本当はエーリンとチロルちゃんが岩を落としているんだけれど…もれた魔物だけ撃ち抜いている。


「うーん…やっぱり同じか」

「アスティちゃん、同じって?」


「魔物に個体差がほとんど無いんだ。ザ平均値の個体しか居ない…多分何処かの迷宮から魔物が溢れたんだと思う…」

「放置迷宮や未発見迷宮でたまに起こりますねー。迷宮って寂しがり屋さんですからー」


 だとしたら、近くの町はもう手遅れだと思う。迷宮産の魔物は、弱い魔物だと一週間暴れたら魔力が切れて死ぬ。

 でもここまで魔物が来ているという事は、そういう事なんだろう。


「うぅ…怖い」

「大丈夫、私が守るよ」


「アスティちゃん…最初に会った時も、言ってくれたよね。ありがとう」

「アレスティアー私も守って下さーい」


「私が守るのは、か弱い可愛い女子だけだよ」

「いやだなぁー、私もか弱い可愛いですよー」


「は? 人の骨折る癖に何言ってんだ? ヘルちゃんの手を粉砕しやがって、あの後泣いていたんだぞ」

「言葉が荒いですよぉ、お、ひ、め、さ、ま! ちょっ…傾けないで下さーい!」


 …また魔物を倒しながら、しばらく進んでいると…何やら武装集団が魔物と戦っていた。

 旗にはアース王国の紋章…その下に貴族の紋章っぽいの…この地域を管理している貴族の私兵かな。


 私兵の後方…町を守る防衛戦は辛うじて…うん、辛うじて…

 魔物の発生源は…近くの山に大穴が空いて、そこから溢れている。まだオークやオーガ…溢れ出したばかりだと推測しよう。きっと地下にあった迷宮が地上と繋がったのか。


「アレスティアー、どうしますー?」

「先ずはあの穴を二人で塞いで。私はその隙にデカイ魔法の準備に入る」


「う、うん!」

「大きな穴ですねー。じゃあやりますかー」


 二人が魔力を練っている間に…私もやりますか。


「星体観測」


 魔物の種類から見て、白い星だけにしておこう。

 その方が負担が少ないし…っと。

 チロルちゃんがロックフォールを穴に向かって放つ。

 魔物を潰しながら岩が穴に消えていった…あれ? 深い?

 続いてエーリンもロックプレスを穴の形に合わせて放つ。

 魔物を纏めて潰しているけれど…深いな。また消えていった。


 とりあえず今の内に周辺の魔物だ。

 私兵の辺りは私兵に任せて…

「白の流星群!」

 白い星達を眼下に広がる大地に撃ち始める。

 一つの星は威力を抑える代わりに大きくして広範囲の殲滅重視。

 まだ余裕だから、端から順に綺麗に落とそう。

 大きな衝撃と粉塵と共に白い歪な石畳が出来ていく。

 もちろん地面と星の間は魔物のハンバーガー状態。

 威力はAランクまでなら余裕でハンバーガーだ。


 おっ、星が一つ割れた。あそこに強いのがいる…一つ目巨人か、ギガンテスに似ているな。なら弱点は目。

 ゆびーむ。

 密度の高いユビームで目を貫いたら、苦しそうに暴れて私兵の方へ蛇行しながら走って行った。あっ、すまぬ。


 でも私兵達はなんとか対応。魔法の集中砲火で脚を狙って倒した。とりあえず手を振って存在をアピールしておく。顔は見えないけれど、これでお礼くらいくれると思うし。


「アレスティアー、穴が埋まらないでーす」

「深いのかな…いや、縦穴型の迷宮だったら強力な蓋か封印じゃないと駄目か…」


 エーリンとチロルちゃんが奮闘しているお蔭で、魔物が穴から出てくる事は無いんだけれど…どうするかなー。


「倒し続ければその内終わりますよー。それか大ボスが出る場合だとそいつを倒せば収まりますねー」

「じゃあ交代で穴に岩を落としていこうか」


「はぁ…はぁ…アスティちゃん…魔力切れそう…」

「おいでー」


 魔力の口移し。……はい、満タン。


「アレスティアー…私も魔力切れですぅ」

「私は知っている。エーリンの魔力は一割も減っていない事を」


「えっ…サービスって言葉、知っていますか?」

「いきなり素で喋んな。目を見開くな。チロルちゃんを狙うな」


「アスティちゃん! 何か上がって来る!」


 どれどれ。

 本当だ。何かが浮いている。

 青い球体…いや、結界を張っているのか。

 一言で言うと青い人。青い骸骨の顔に、青いローブに青い玉の嵌まった杖。

『ホホホホホホホホ』


 爺やみたいに笑うな。

 穴から出てきて私達を見て笑い、私兵達の方角へ進んでいく。

「二人は岩を穴に落としていてねー。私は青い骸骨を倒すよ」

「はいー」「気を付けてね!」


 新たに星を出して飛び乗る。

 二人に手を振って青骸骨に向かった。


 距離は離れていないから直ぐに到着。目の前に降り立って雪華を出した。


『ホホホホホホホホ…ニンゲン』

「青骸骨さん、勝負しましょう。ライトソード」


 雪華に光を纏わせ、青骸骨を斬り付ける。

 当たる直前で青い結界が出現…硬いな。


『ホホホホ…コオレ…ブリザード』


 周辺に吹雪が発生。草が凍り、次第に雪が積もっていく。

 私兵達に影響が出るから早めに倒さなきゃな。

 青骸骨の頭上に魔力を込める。


「ソルレーザー!」

 光の柱を落として結界破壊を試みた。

 …ピキピキとヒビが出来るけれど、直ぐに再生していく。これじゃ駄目か。

 お次は…


「アビスフレイム」

 黒い炎弾を結界に当てる。よしっ、貫通した。

 青骸骨に当たった…けれど、そんなに効いていない…

 あっ、なるほど。

 結界は魔法で壊せて、青骸骨は物理攻撃が効く……面倒な奴だな。


『ホホッ…アイシクルレイン』

 青骸骨の頭上から出現した氷柱達が私を狙って多方向から射出。

「無元流・散り桜」

 でもこれくらいでは当たらぬよ。

 迫る氷柱を斬り落とした。

 威力は上級か…

 あっ、私兵達が近付いて来た。来んなよー。


 仕方無い。念には念を。

 白兜を被って顔を隠そう。アースの法律って意味不明なのもあるし。


『ホホホホホホホホ!』


 おっ、魔力が増大。大技か?

 後方には私兵…仕方無い、倒すか。

 もっと楽しみたかったのに…


「レーザーブレイド」

 前後左右からレーザーブレイドで結界を斬り…

 結界が消えた瞬間に青骸骨の懐に潜り込む。

『ホホッ…ヤルナ』

 後は迫る氷柱を躱しながら…


「無元流・十六連斬」

 滅多斬り。

 腕、脚と斬り落としてから胴、頭と斬り刻む。

 青いローブは細切れ。青骸骨の身体が散乱し、青い杖がカランと落ちた。


 青骸骨の強さは、SSかな。多分これで…

 エーリンとチロルちゃんを見ると、魔法を撃たずに手を振っている。

 青骸骨が大ボスだったんだな。

 これで魔物が出て来ない筈。


 青骸骨の魔石と青い杖を回収した。後は…指輪とネックレスも発見。全部青いな。


 戦いは終わったので、二人の星を操作してこちらに引き寄せていると、私兵達が到着した。


「はぁ…はぁ…ご助力、感謝致します!」

「ええ、怪我人を優先させて下さい。私達は休憩していますので」


「はい! では補給部隊を付けますのでしばしお待ち下さい!」


 隊長っぽい人が拳を胸にやり敬礼をすると、他の人も拳を胸にやり敬礼。

 私はおでこに斜めに伸ばした手を添えて、異国の敬礼をビシッと決める。

 これで他国の者だと解ってくれたかな。


 やり取りをしていると、星から降りたエーリンとチロルちゃんが駆け寄って来た。


「お疲れ様ー。ちょっと休憩しよっか」

「はいー、お疲れ様ですー」

「アスティちゃん格好良かったよ!」


 私兵達が訝しげな視線で私達を見ている。年齢が低いし、女子だけだから怪しいよね。

 お礼を受け取ったらさっさと帰ろう。


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