見たいものはもう見れたよ

 

 先ずはヘルちゃんが適当な方向に出陣。

 おー…みんなヘルちゃんを避けるように人垣が割れていく。

「どいて、私はあの生ハムメロンが食べたいの」

 食かよ。


 続いてエーリンがヘルちゃんとは違う方向に出陣。

 ちゃんと封印二重掛けで安心仕様。

「早く殴り合って下さいよー」

 強要するな。


 じゃあ私は…折角なので、メイドさん…ジムニさんの案内に従おう。

 二人とは違う方向へ。

「これってどうなれば婚活成功なんです?」

「男性が告白して、女性が了承すれば成功ですよ」


「じゃあ女性はアピールしないといけないんですねー」

「はい、蹴落とし合戦が見所なんですよ」


 ガシャン。「あら、ごめんあそばせ」

 グラスの割れる音…

 おー、赤ドレスの女子が、黄色ドレスの女子にワインを掛けた…

 赤ドレス女子は颯爽と去っていき、黄色ドレス女子は呆然としていた。

 そして、徐々に怒りがこみ上げて…

「あんた! 何すんのよ!」

 赤ドレス女子に飛び蹴り。

「――くぺっ!」

 その後は取っ組み合いの喧嘩…すげえな。


「喧嘩はどうするんです?」

「ある程度盛り上がったら衛兵に回収されます。また来年ってやつですね」


 あっ、また喧嘩。

 怖いなー…あっ…

「ライトシールド」

「なに!」

 危ねぇ…同じ歳くらいの女子がワインを掛けて来やがった。

 なに! じゃねぇよ…

 私をライバルだと思ったのかい?


 ジムニさんが笛を吹いた。

 すると衛兵さんが不届き女子を回収。

「なによ! 喧嘩になっていないじゃない!」

「お客様に危害を加えたので一発退場です」


 ばいばーい。

 あっ、またワイン攻撃。ライトシールド。


「ワイン攻撃ってスタンダードなんです?」

「そうですね。汚れた勝負服では殿方に会えませんから、洗礼みたいなものです。可愛い子は大体掛けられます」


「確かに一番簡単でかつ効果的ですね。おっ、凄い女子達がいますよ!」


 次々とワインを掛けていく三人の女子達…前から後ろから…手慣れておる。


「あれはワインシスターズです! 婚活よりも可愛い子にワインを掛ける事が生き甲斐の有名人です! 人気なんですよー」

「へぇー、こっち来ましたよ」


 目が合った。

 来るな…受けて立とう。

 シスターズの一人が私を見ながらハンドサイン、散開した。


 先ずは背後からワインが飛んできた。

 後ろは見ずにライトシールドを展開し防御…舌打ちが聞こえた。

 次は右から!

 グラスを横に振って広範囲を狙ってきた!

 ジムニさんを庇いながらライトシールド…


 最後は前から!

 あれは…タレ付きミートボールが多数!

 食べ物を投げんな!

 フォークを取り出し全て刺してキャッチ。


「やるわね! これならどう!」


 来た! 三人同時攻撃!

 両手に持ったグラスを上空に投げ、空からワインのシャワー!

 受けて立とうではないか!


「なんだとぉ!」


 傘を二つ出して私とジムニさんを防御。

 はっはっはー! まともに戦うと思ったか!


「これで最後よぉぉ! 奥義! 三位一体!」


 三人がワインを口に含んで私に急接近!

 やめろ! 絶対吐き出すだろ! 汚え!


 高く飛んだ一人がワインを霧状に吐き出す。

 そしてもう一人が自分達に掛かるのも構わず広範囲に横に振る。

 最後の一人は私に抱き付こうとしている。


 私の武器は、傘…

 ジムニさんを抱き寄せ、開いた傘を回転させながら飛び上がる。

 飛んだだけでは駄目だ、着地点で待っている!

 側面にライトシールドを展開。

 足で蹴って離れた場所に着地した。


 ふっ、どうよ。

 ワインまみれのワインシスターズを前にして、どや顔を決めた。


「私の、勝ちですね」

「「「…負けたわ」」」


 いや何の勝負だよ。

『おぉぉぉぉ!』『すげえぇぇぇ!』『全部躱した!』『シスターズが負けたぞ!』

 歓声が凄いな。


「また、来年戦いましょう!」


 嫌だよ。

 二度と来ねえよ。

 はい、衛兵さーん。よろしくー。


「アレスティア様、凄いですね! 私まで守ってくれるなんて感動しました!」

「うん、まぁ、意外と楽しかったですね。もう満足です。席に戻りましょう」


「もう戻るんですか? あっ、折角なんでエイベル様でも見ていきましょう! 丁度こっちに来ましたよ!」


 ノリノリだな…もう気疲れしたんだよ。

 まぁ確かに人垣を引き連れた男子がこっちに向かっているから待ってみよう。


「そういえばレイン王国の貴族や王族って、婚活イベントで婚約者を見付けなきゃいけないって本当?」

「半分本当ですね。婚活イベントに二回は参加しなければいけないんですよ」



 進行方向に居たら邪魔か。

 歩いて横にずれる。

 ……なんだよ、こっち来んなよ。

 仕方無いから横にずれる。

 えっ、何? こっち来んなよ。


「アレスティア! 君も参加していたのか!」

「……私?」

「…アレスティア様? お知り合いだったんですね」


 んー? 初対面だぞ?

 エイベル…エイベル…うん、知らん。


「…人違いじゃないです? 初対面ですよ」

「先日迷宮で助けてくれたじゃないか!」


 迷宮? あー、悪魔と戦っていた中の一人かな? だとしたら白い鎧の奴が濃厚。

 それよりも、人垣の視線が凄い。

 嫉妬や憎悪を通り越す感じって、どう表現したら良いんだ?

 特にエイベルの横に張り付いている女子の視線が凄い。

 目が今すぐ消えろと言っているよ。


 はいはい分かった分かった。嫌われろって事ね。任せなさい。


「それで? お礼は不要と言いました。亡くなった方も居るのに自分は婚活イベントですか…」

「いや、これは義務で…」


「義務…ですか。ガッカリですね。そうそう、ご遺族に自らの口で伝えましたか?」

「……」


「では、話は終わりです。お元気で」


 ジムニさん行くよー。

 ヒューって言わないでよ。まだエイベル居るんだぞ。


「待ってくれ!」

「私はイベントに参加していません。あなたと結婚したい方が困っているので、お互いの為になりません……あっ、ヘルちゃーん」


「アレスティア、何しているの?」

「この人が言い寄ってくるの。助けてー」


「ぁあ? 任せなさいブッ潰して…あら、あなたレインの王子じゃない」

「ヘルトルーデ皇女……まさか…アレスティア…君は…」


 きゃー。バレるー。

 ヘルトルーデが居てアレスティアが居たら関連付けちゃうよねー。フーツー王国とは離れているから、私が死んだのは噂程度な筈……ヘルシールドは失敗に終わったか。でも一応ヘルちゃんの陰に隠れて顔だけエイベルに向ける。


「ヘルちゃん、バレそうだよ。むしろバレているよ」

「別に良いでしょ。帝国に噂が届く頃にはレインに居ないんでしょ?」


「まぁ、それもそうか。じゃあヘルちゃん守ってー」

「アスティ、可愛い…」


 ここでデレないでよ。ほらっ、しっしだよ。しっしって。


「それなら! 是非城に来て欲しい!」

「やだー」

「城は駄目ね。面倒だし」


「一目惚れなんだ! あっ…」


 男の自爆は可愛いくないぞ。

 ほらーっ、ざわざわしているじゃん!

 もっと良い場面で言えよ…私への憎悪や怨念が凄いんだぞ!


 ジムニさんなんて嬉しそうにウキウキしているし。

 とりあえずこの場所から離れないと。先にジムニさんにチップを渡しておこう。ほいっ。


「ヘルちゃん、逃げよ?」

「…仕方無いわね。私も長居出来ないし。エーリンは席に戻っていたわ」


「じゃあ、一応告白してくれたからお返事して戻るね」

「ふふっ、殺しちゃ駄目よ」


 物騒な。殺さんよ。

 パチリとウインクしてあげたら赤面して逃げていった…可愛いのう。


「じゃあ、エイベルさん。戦いましょうか」

「……なんでだ?」


「私…わがままなんで、男性の条件が厳しいんですよ。大前提として、私より強い事…」

「…ははっ、面白い」


 一応王子だから木剣を持つ。


 ほれっ、剣出せ。持っているんだろ。


「真剣でも構いませんよ」

「しかし…」


 ん? エイベルの隣に居た女子が前に出てきた。お呼びじゃないぞー。


「あなた…自分のしている事が解っているの?」

「解っていますよ。急ぎなんで黙っていて下さい」


 深淵の瞳ー。

「なんですって! …ぁ…か…ぁ…」


 膝を付いて苦しそうにしているけれど、息は出来るぞ。ほれっ、エイベル介抱してやれ。


「何を…した」

「一時間程…沈黙して貰いました。戦う意志が無いのなら今すぐ帰ります」


「分かった…」


 みんなどいてどいてー。

 おっ、観客もざわざわしているな。


 よーし!

 私が婚活イベントを盛り上げてあげようじゃないか!

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