自分から罠に嵌まるというのは、こんな気持ちなのだろうか

 

「ん…ふぁー……よく寝た」


 区切りが付いてしまったから、もう起きよう。

 色々考えさせられる内容だったな。

 どうしようかなぁ…

 返事は何年も待つような事を言っていたし、まだ保留にしようかな。

 自分で出来る範囲で努力はしてみたいし…でもメガエナジーは魅力的…いや、段階を踏もう。

 ルゼルは最強種を倒す事が出来たら、かな。

 気持ちの切り換え切り換え。


 ん?

 ふと違和感を感じてテントから顔を出すと、視界が白い……モフモフ。バラスが入口に居る…どうしたのかな?


『起きたか』

「どうしたんです? 一緒に寝たいんですか?」


『違う。犬コロが様子を伺っていたからな』


 モフモフを乗り越え、顔を出すと百メートル先に狼型の大きな魔物……守ってくれていたのか。


「バラス、ありがとうございます」

『気を付けろ。ここは安全という訳ではない』


「私、どれくらい寝ていました?」

『丸一日だな』


 おー、一気に記憶を見たから結構寝ていたな。

 危ない危ない。

 お礼にワシャワシャしてやろう。ほれほれ。

 …あぁ…気持ち良い…バラスと旅に出ればモフモフ旅……でもこの縄張りを奪われてしまうから、出来ないか……ならば……


「バラスって子供居るんですか?」

『居るぞ』


「えっ…居るの?」

『あぁ』


 半ば冗談で聞いたんだけれど……

 子供居るのか…そうかそうか。

 魔物って子孫を残す方法は個体によって様々。ブルーオーブみたいな魔法体は分裂。後は大体の魔物が機能的雌雄同体だ。ゴブリンやオーガの鬼族は雌雄同体の雄性先熟…最初は雄で生まれて、繁殖期等の必要な時は雌に性転換する。

 バラスは、獣族の獅子型…雌性先熟だと思うけれど……子供は何処だ? 紹介せい!


「お子さんは何処にいるんですか?」

『北の氷雪地帯だと思うぞ』


「じゃあモフモフの旅がしたいので、お子さんを紹介して下さい」

『…自分で頼め』


 けちー。良いじゃん紹介してくれても。

 闘う羽目になるじゃないか。

 まぁ良い。有益な情報だから許そう。間違って討伐したら、バラスと顔を合わせられないからね。


「そういえば、このヤバい木って邪霊樹っていうんですね。結局何なんですかね?」

『知らないのか? 邪龍だぞ』


「いや…木じゃないですか」

『正確には、こいつが発生源だな』


 発生源?

 邪龍っていうと、ラジャーナに伝わる邪龍伝説が有名。

 邪龍とは…地の底から万の魔物を従えて、世界を喰らう災害級の魔物。


「じゃあこの木を壊せば邪龍が出ないんですか?」

『壊しても、他の地域に現れる。前は弟と一緒に討伐した』


「えっ…詳しく聞かせて下さい」


 聞いておいた方が良いな。

 この木は、裏の世界と根で繋がっているらしく、この世界に何本も点在している。

 何かの原因で邪気が強くなり、裏世界との繋がりが強くなると、魔物が大量発生する。

 壊したら違う地域に根を貼るから、壊さない方が良いな。


 必ず邪龍が出てくる訳じゃないけれど、邪龍までの強さを持った魔物がわんさか出てくるのか。


 前回は弟さんと邪龍級の魔物を討伐…

 じゃあバラスは、この地域を護っている存在か…


『まぁ放っておいても弱い者が死ぬだけだから、我等には関係無いのだがな』

「うーん……人間視点で見ると、凄い脅威ですね。貴重な情報ありがとうございます。因みに、この木はいつ頃邪気が強くなるんですかね?」


『アスティが大人になるくらいじゃないか? 他の地域はもっと早い所もあるし、暇潰しに行ってみたらどうだ?』

「そうですね。場所は解ります?」


『その地図に書いてあるぞ』


 えっ、どれどれ。

 ……あっ、本当だ。ラジャーナの奥地に黒い木のマークがある。

 近くの木は……国の名前が違うから解りにくいな……えーっと、アース王国と、フーツー王国のあたりと、って国に一つはあるね。


 なるほど、不謹慎だけれど…災害が起きたら、良い修業になりそうだなぁ。ルゼルの事は一先ず後回しだし…

 災害が起きたらというか、私の深淵の瞳を使えば邪気を操れるから…明日この木で試してみよう。


 とりあえずもう夜になっちゃうからパンパンに帰らないと。


「じゃあまた明日来ますねー」


 転移ゲートを出して……どうやって使うんだろ。

 あっ、普通に開けたら繋がるのか。

 帰りも一緒。便利。しかも私の魔力でしか開かない…私専用転移ゲートか。


 よし、じゃあお部屋に行ってみよう。


 カチャ。

 バタン。


 中を見て、思わず閉めてしまった。


 ……ベッドに誰か寝ていたな。


 なんだろう…自分から罠に嵌まるというのはこんな気持ちなのだろうか。


 まぁ、どうせリアちゃんだから良いけれど。

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