閑話・アスティの居なくなった帝都では…
アスティがラジャーナを出た頃、帝都ではいつもの日常が始まろうとしていた。
土の日の朝方…仕事に出勤する大人達、学校へ向かう少年少女は週末に何処で遊ぼうか話しながら登校し、大通りの店は開店を始めていた。
そんな平日の大通りの一角に、帝国新聞という日々の情報を発信する国営の新聞社があった。
帝国の情報…皇族の活動や、騎士団の活動、流行りや探し人まで様々な情報を扱うこの場所は、特事班と同じく民間寄りの公的機関。
従業員は五十名。
契約した所への新聞配達、記事の作成、印刷、情報収集を一手に担っている。
そこへ、騎士団から情報収集を終えた記者が、息を切らしながら入って来た。
「社長! これ、見て下さい!」
「んだよ騒がしい。貸してみろ」
気だるそうな表情で、社長と呼ばれた男が記者から紙を受け取る。
また皇族の自慢話でも書いてあるのかと思いながら、紙に記載されている情報を読むが、眉を顰めて記者に紙を突き返した。
「もっとまともな情報取って来いよ。こんな誰が見ても解る嘘情報掲載したら減給どころじゃねえぞ」
「嘘じゃないんですって! 信じて下さいよ!」
「いやいや嘘だろ」
「出所は元公爵家のミリアさんですよ!」
「…えー…まじかよ…ちょっと俺も確認しにいく。付いて来い」
「はい!」
社長と記者は直ぐに騎士団へと向かう。
未だに信じられないという表情で、眉を顰めていた。
「本当だとしたら…全部は書けないな…まだ死にたくはねぇ…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
西学校では、フラムとミーレイが顔を合わせ、アスティが来ていない事に首を傾げていた。
「アスティちゃん、休みかな?」
「んー…でも何も言っていなかったし…」
また何処かに遠征へ行っているのかと思ったが、その場合は事前に言う筈…
「レーナちゃんに聞いてみよっか」
「そうだね」
講義が終わり、レーナを探すが見当たらない。
すれ違った二組の生徒に聞くと、今日は休みだと言われた。
もやもやとした嫌な予感が、二人を襲う。
直接家に行ってみる事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二人は学校が終わり、予定があったが遅刻を覚悟で花屋へと向かった。
「あらん、二人ともいらっしゃい」
「こんにちは店長。アスティちゃん居ますか?」
「うーん…ちょっと中にいらっしゃい」
店長に連れられ、店の奥へと案内される。
そこで、アスティが帝国を発った事を伝えられた。
突然の別れに、二人は目に見えて落ち込み、涙を流して悲しんでいた。
「いや…いやだよ…」
「…そんな…もう…会えない…んですか?」
「んー…会おうと思えば会えるのかしらね。パンパンに行けば詳しい話が聞けるわよ」
悲しい素振りを見せない店長に、二人はハッと顔を見合せ、お礼を言ってパンパンへと走る。
そんな二人を見る店長は、ふふっと笑いながら…若いわねぇー、と呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パンパンへと到着した二人だが、店の前には準備中の看板が立て掛けられていた。
入って良いものか悩んでいると、店からレーナがひょこっと顔を出して手招きをする。
そして、中に入った二人が見たものは……
「さぁ! 役者は揃った! 第一回! アスきゅんの部屋にお泊まりするのは誰だ選手権を開催するぞぉぉぉ!」
「「「おーーーー!」」」
「「……えっ?」」
盛大なじゃんけん大会だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日、帝都に一つの記事が掲載された。
剣聖セドリック・ノーザイエと大魔導士フーメリアが、自身の持つ称号をとある少女に渡した。という記事。
その記事には公爵家の印が押され、嘘ではないという証明がなされた。
称号を渡した理由は至極簡単。
『負けたから』
人々は混乱する。
何故なら、その少女の名前が記載されていないから。
新聞社に問い合わせても知らないの一点張り。
セドリック・ノーザイエとフーメリアに問い合わせても、自分を倒したら教えてやる、と言うだけ。
それを知るのは極一部。
皇族でさえ、第二皇女しか知らない異常事態に陥っていたが…当の本人はこの事実を知らず、暢気に旅を満喫していた。
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