指導してあげましょう。

 

 騎士団長さんは少し離れて腕を組み、私を凝視している。

 男三人は掛かって来ない。

 ダグラス君と皇子は目配せをしているけれど、ジードは私を見据えて前に出る。


「…ご指導、宜しくお願いします」

「あら、喜んで」


 女子の私に指導して欲しいだなんて、強さに貪欲な姿勢は嫌いじゃない。一応長い付き合いだからちゃんと教えるよ。


 ジードが木剣を構えて深呼吸。切先が少し揺れている…力んだら駄目だよ。


「…ジードさん、本気でどうぞ」

「……あぁ」


 一歩踏み出し剣を突き出す。

 真っ直ぐ最短距離で攻めて来た。

 狙いは私の喉。


 少し横にズレ、首の直ぐ横に剣が通過。

 そのままトンッと一歩踏み出し、ジードの喉に木剣を当てる。


「…くっ…」

「少し力んでいました。躱された瞬間に突きから斬りへ移行…もしくは直ぐに後退して下さい」


 剣の突きは確かに速いけれど、慣れていない人は細剣以外で使うと隙が出来るからね。考えたんだろうけれど、筋肉の動きで解る。


 さぁ、もう一度。

 剣を構えて力を溜めている。武技かな。

「ダブル…」

「遅いです」


 剣を振り上げた瞬間に顔の前に木剣を突き出す。

 素早さ重視の相手に最初から武技を出してどうするんだよ。色々攻撃を織り交ぜないと。

 技の構成も大事だよ。


 おっ、ダグラス君。いらっしゃい。

「宜しくお願いします!」

「はい、宜しくお願いします」


 ダグラス君は大剣を使うからなぁ…

 予備動作が見え見え過ぎるんだけれど、それを力でカバーするタイプか。

 両手に持った大剣タイプの木剣を横に構えて、横凪ぎに振るって来た。

 気を使わなくて良いよ。

 本気で来なさい。


「閃弾き」

 横凪ぎに来た木剣を上から叩き落とす。

 カランッと剣が落ちた。

「…へ?」


 やっぱり手加減していたか。

 優しい所は利点だけれど、勝負は手を抜いちゃ駄目さ。

 女子に木剣を喉元を当てられる羽目になるよ。


「ダグラスさん、戦場だと真っ先に死ぬタイプですよ」

「うっ…次は本気で行きます!」


 次がある訓練で良かったね。

 ダグラス君の目が変わった。


 振り上げた剣を振り下ろす。

 これは釣りか。

 更に一歩踏み出して突き上げてきた。

 女子の股を狙うのか君は。


 突き上げに合わせて剣を乗せ、グッと力を入れながらジャンプ。

 ふわりとダグラス君の頭上を飛び越え、後から剣を当てる。


「あぁ…上手すぎですよ…参りました」

「最初より凄く良かったですよ。自分の連携を上手く組み立てて下さい」


「はい!」


 ダグラス君、負けたのに嬉しそうだな。ジードみたいにもう少し悔しがってくれ。

 次は皇子が来たからまた後でね。



「…さっきの威勢は本当みたいだな」

「ふふふっ、本気で来て良いですよ」


 公式に皇子をぶっ飛ばせる機会なんて無いからなぁ。どうしよ。

 いつの間にか野次馬騎士団が周囲を囲っているし。

 新人騎士さんはビックリしているみたいだけれど、ベテラン騎士さん達は真剣に見ている。勉強熱心な事で。


「いくら素早くても力では男が上だ」

「あら、試してみましょうか?」


 良いよ。受け止めてあげる。

 剣を両手に構え、渾身の振り下ろし。

 ガッ! 剣で受けると、どよめきが起きた。

「…は?」


 女子に片手で受け止められちゃ、どよめきが起きるのも仕方ない。言ったじゃん強いって。怪力女子に思わないでね。


 受け止めている状態で剣を傾け、皇子の力を下に逃がす。

 少しバランスを崩した所で首に剣を当てた。


「……」

「さてみなさん、訓練はまだ続けます?」


「…待て」

「何か?」


「俺には何も無いのか?」

「無いです」


 ベテラン騎士さん達…笑いを堪えないでよ。指導をお願いされた訳じゃないから何も無いよ。

 ジードとダグラス君はまだ訓練をしたそうにしている。……そもそも君達は何をしに来たんだろうね。



 私はもう仕事を上がっているし、後は楽しみたいから静界を発動しておこう。


「三人で掛かって来て下さい。次は、攻撃を仕掛けます」


 君達を羨ましく思うよ。


 切磋琢磨出来る人が居るんだから。


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