黒霜の大巨人2
大岩が飛んでくる様な、大きな黒い拳。
単純な攻撃だから躱すのはそこまで苦じゃない。だけど、体力は削られる。
ドゴンッ!_ドゴンッ!_
次々と生まれるクレーター。一撃でも当たったら危険。平坦な地面がぼこぼこになっているから、嫌でも移動しなくちゃいけない。
隙を見て攻撃はしているけれど、精々血管を斬り裂いていく程度。効果はある。あるけれど、私の体力が無くなる方が早い。
しかも寒い。病魔を運ぶ黒い風…病魔は効かない。でも寒い。
「…ジリ貧だなぁ。あの腕をなんとか出来れば、ソルレーザーが効くのに…」
街の方に逃げる訳も行かず、少しずつ荒野の奥に移動している。このままじゃ、他の魔物も来そう。
ドゴンッ!_ドゴンッ!_
……どれくらい闘っているのかな…もう斬り裂ける血管も無くなってきた。
ギガンテスも疲れてきているのは解る。解るけど、私を逃がそうと思う気持ちは微塵も感じられない。
「…何か、策は…」
拳を振り上げ、ハンマーパンチを繰り出してくる。ずっとこの調子だから、パターンは解る。それに合わせれば良いだけか…勝負に出よう。
「魔力は温存したいけど…そうも言ってられないか…ライトソード」
ブォン_
竜剣が白く輝き、少し長さが伸びる。ライトソードで攻撃力を上昇。
『ウガァ!』
ギガンテスが横凪ぎに殴って来る。少し後退して回避。
風圧で身体が持っていかれるから、これには合わせられない。
拳を振り上げハンマーパンチ。衝撃で石が飛び散る。
腕全体に力が入っているから刃が通らない…まだ我慢。
身体をひねり、真っ直ぐ右の拳を突きだしてきた。直ぐ横をすり抜ける。
これを待っていた。
「ここ!無元流・骨断ち!」
ギャリッ!_
無元流・骨断ち…伸びきった上腕を骨ごと断ち斬る技。骨が硬い…手が痺れて…
バキッ!_
「がはっ!_」
ギガンテスの左の拳が伸び、私の身体を吹き飛ばす。
一撃で30メートル以上も吹っ飛んだ…痛い痛い痛い…防御した両腕が折れた…
「あ…ぐ…ハイ…ヒール」
折れた骨を修復するイメージで、回復魔法のハイヒールを掛ける。でも痛みでイメージが定まらない…治りが遅い。
ギガンテスが好機と走ってくる。これはマズイ。死ぬよりはましだ…魔力を多く込めて無理矢理腕を治し、掴みかかって来る大きな手を躱す。
「はぁ、はぁ、掴まれたら死ぬ…」
回復魔法は傷を治せるけど、体力は回復しない。息切れが止まらない。
『ヤル…ナ』
「はぁ、はぁ、ギガンテスさんもやり、ますね。でも、右腕は頂きました」
ギガンテスの右腕は動いていない。骨は切断出来なかったけど、筋肉は斬れた。骨だけで繋がっている状態。もう右腕は機能しない。
ここまで来れば勝てそうだけど、魔力はソルレーザー1発分。
竜剣は…あった。ギガンテスの後ろに…
剣が無いと負ける。
ソルレーザーを別方向から撃てれば良いけど、私の技量じゃ上から下にしか撃てない。
息切れする身体を無理矢理動かして、回り込む様にギガンテスに近付く。
…なんだ?ギガンテスが足を振り上げて…
ドォオオン!_
勢い良く足を地面に叩き付け、衝撃が襲って来る。
なんとか立てるけど、衝撃でうまく動けない。
その隙を狙ってギガンテスが拳を振り上げ、拳を落として来た。
「_っ!負けない!」
力を振り絞って後方にジャンプ。身体を後ろに反らして両手を付き、思い切り腕をバネに後ろへ飛ぶ。
ドゴンッ!_
なんとか躱し、足で着地。そのままギガンテスに向かって駆ける。
地面に付いている拳に乗り、全力で駆け上がり肩を越えて飛び越える。
_あった!竜剣!
ギガンテスの後ろにあった竜剣を持ち、振り返って来る前に魔力を練る。
「そろそろ終わりましょう!」
人差し指をギガンテスの頭上に、魔力を込める。ギガンテスの頭上から光を落とす。
魔力を感じたギガンテスが、目を閉じ左腕を頭上に持っていき光を防御。
『_ガァ?』
しかし、左腕で防御したが、光の衝撃が来ない。
不審に思ったギガンテスが目を開いた時、眼前には…
「それはただのライトですよ!無元流・乱斬!」
ザザザザザン!_
ギガンテスの瞳を全力で斬り刻む。ピキピキと筋肉が軋むのを気にせず剣の速度を上げる。
『グギャァァァァ!』
目を潰して、ギガンテスから離れる。
目を潰され、暴れまわるギガンテス。何も無い所を殴り、地面を殴っていた。
「はぁ、はぁ、もしかして、目で魔力を見ていたのかな?それなら…」
ライトの魔法をギガンテスに飛ばしてみる。パスッとギガンテスの頭に当たるが、反応は無かった。
「…これで…私の…勝ちですね」
人差し指をギガンテスの頭上向ける。魔力を練り、太陽の光が収束するイメージで魔力を込めていく。
「…ありがとうございました。ギガンテスさん…ソルレーザー」
キイィィィィ!_
地面を攻撃していたギガンテスの頭上から、光の柱を落とす。頭に直撃し、頭が溶ける様に無くなっていく。
「…魔法が無いと死んでいた…もっと、強くならないと」
光が晴れ、倒れ付したギガンテスの姿。
ヨロヨロと近付き、胸を斬り裂いて魔石を取り出した。
大きさは私の顔くらいある黒い玉。手を当てて魔力を流すと、魔石の魔力が流れて来る。うわ…凄い量…
「…あっ、壁を越えた…」
爺やが言っていたレベルが上がるというヤツだけど、なんか魔力が回復したし体力も戻った。
あれ?まだまだ闘えそう……ん?
「_こっこれは!君!大丈夫か!」
「あっ、はい。大丈夫です。…そんなに大勢でどうしたんですか?」
後ろを振り返ると、20人くらいの衛兵さん達と…冒険者かな。血相を変えた表情で、こっちを凝視してくるけど…どうしたのかな?
「…大型のギガース種が居るという報告を受けてな…その…君が討伐したのか?」
「はい!頑張りました!」
「「「……」」」
達成感が凄いので、清々しい笑顔を向けてみる。
……無言が続いているんだけど、なんだろう…この時間。
何かを言いたそうな人がこっちを見ている。なんでしょうか?
「…レスティちゃん?」
「_ちちちちち違いますよぉ!私はアスティです!男の子です!」
ババーンとポーズを取ってみる。
後で気付いたけど、帽子は吹き飛んでいるから完全に女の子状態なんだよね。地味眼鏡は壊れると怒られるから外しているし。
「_そっそうか!アスティちゃん、じゃなくて(今は)アスティ君なんだね!男の子なんだね!_(髪も染めて、男の子に憧れるとか…そんな時期もあるよね!お兄さんがみんなに、今は男の子!って言っておくからね!)」
ウンウンと何かを悟った様に頷く男の人。よく見ると南門でよく話す衛兵さん。
他の人も同調してウンウン頷き、果ては全員ウンウンしだした。なんなんだろう…
「あの、ギガンテスは倒したんで…帰りますね」
「ちょっ!ちょっと待ってアスティちゃ、君!このギガースは持って帰らないのか!?」
「いや、持てないんで…」
収納に入らないから、放置で良いと思ったんだけど駄目かな?
この収納腕輪…用途が手紙を入れるという無駄な用途だったから、そんなに容量は無い。三メートル四方くらい?
まぁ、大きな魔石を売れば良いし…何?俺達に任せろ?いやいや仕事して下さい。
「放置で良いですよ。私は目立つと怒られるというかアレなので…」
「大丈夫だよ!俺達が討伐した事にして、素材の額は渡すから!」
「安心して!アスティちゃん!」
「おいアスティ君だ、気を付けろ!」
「はい!」
「……じゃあ…お願いします。でも、皆さんも利益が無いのは嫌なので、等分にしましょう」
運んで貰って全額渡されるとか、凄い嫌。衛兵さん達は危険を承知で来ているんだから。
「…なんて優しいんだ」
「流石はレス…アスティ君だ」
「…じゃあ9がアスティ君で1が俺達だな」
「「「ああ!」」」
「いやいや私は1です!皆さんで9です!それで決まり!変更なーし!」
変更はさせない。睨みを効かせて衛兵さん達を見る。
……よし、黙った。実際1でも高額だと思うから感謝かな。
リーダーと思わしき人が指示を出して、ギガンテスを解体して運んでいく。
私は何もしなくて良いから応援をしてくれと言うので、頑張ってと声を掛けているけど……まぁ良いか。好意に甘えよう…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この日、レスティファンクラブは解体。新たに、アスティファンクラブが発足。
ファンクラブの内容は以前と似た様な物だが、彼女を男の子として接してあげようという謎のルールが出来上がった。
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